拠点とダンジョンと錬金術師⑦
「そろそろ場に魔力が満ちてきたかな」
ツタの猛攻も途絶えてきたしミリア達の囲いも先ほどより余裕ができた。
手に持っていた長い杖をエイミーに持っていてもらい、剣をポーチから取り出して地面に突き刺した。
その作業をいくつもこなしていく。
「よし。エイミー、ありがと」
エイミーから杖を返してもらい、杖のカートリッジを土と無属性の魔力かけ合わせて作動させる。
そして地面を杖でコツンと叩く。剣がまるで水面に飲み込まれるように沈んでいくのを確認した。
前もって地面には魔力を走らせている。そこそこ距離があったが、冥界と比べると抵抗はほとんどなかったので魔力の量だけで道は無理矢理作ってある。
「イド!」
「ん、栞。フォローを」
「了解っ!」
イドが栞に近寄って、栞はイドに伸びてきていたツタを引き受ける。
前や左右、時には上から伸びてくるツタを短剣で切り裂き、舞うように足を振って切り飛ばしていく。
「ふっ!」
イドが弓を携えて、先ほどよりも強烈な勢いで矢を放つ。
その矢の進行に合わせて空間の歪みが発生するが、その歪みが完成しきる前にイドの矢はディメンション・アイビーフェニックスに襲い掛かった。
ディメンション・アイビーフェニックスの右の翼にその矢は深く突き刺さる。
初撃以降、満足な攻撃を受けていなかったディメンション・アイビーフェニックスはその一撃に動揺し、翼の動きを止める。
「 『意思を持つ念動』 」
ディメンション・アイビーフェニックスが翼の動きを止めて一瞬空中で静止した。その瞬間に、地面の芝生を突き破って先ほどオレが仕掛けておいた剣が翼に刺さったイドの矢目掛けて飛んでいった。
魔力を走らせた通り道の中を、魚雷のように走らせていた剣が何本も躍り出る。
「―――――――――!?」
真下からの攻撃が死角だったのかは不明だが、勢いよく噴出していった剣が右の翼に次々と襲い掛かり、突き刺さった。
咄嗟に翼の位置を変えたディメンション・アイビーフェニックスだが、剣は回避されても空中で向きを変えて、再び速度を得ながらディメンション・アイビーフェニックスの翼を目掛けて飛んで行っている。
「追加頼む」
オレは更に追加で剣を取り出す。杖で魔法をかけているので、ポーチから剣を取り出すのはエイミーの仕事だ。
エイミーが何本もオレのポーチから剣を取り出して地面へ刺してくれるので、その剣は再び地面に沈み込んで、次の瞬間にはディメンション・アイビーフェニックスの足元から顔を出す。
そしてそれらの剣のすべてがイドの放った矢を目標とし、ディメンション・アイビーフェニックスの右の翼へと吸い込まれて突き刺さる。
それらの剣が刺さった場所は、木像のような翼を侵食していくように黒に染めていく。
この剣には毒を仕込んでおいた。
「翼は片方あればいいからな」
ディメンション・アイビーフェニックスの体はとても大きい。
そしてその巨体を空中に支える翼は更に巨大だ。元々強力な魔物と戦うとき、その肉体のすべてを無傷で手に入れる事はできない。
今回は魔石が目的だ。それと巨木のようなその体も欲しい。
翼を片側無効化するのに、素材としてダメにしてしまっても構わない。翼は二つあるから。
ディメンション・アイビーフェニックスは右側の翼が枯れるようにしおれていく、ついに飛行能力を維持できなくなった。
巨体が地面へと落下し、芝生の上に落下し重厚な衝撃を生んだ。
「よし」
「やった!」
飛びながら空間を跳躍し、様々な場所に移動をするディメンション・アイビーフェニックス。その跳躍する時は、空間に出入り口を作ってそこに体ごと飛び込む方式だ。
飛び立つ事ができなくなれば、今までのような自在な移動もできなくなる。
飛ばずとも走れば同じことができるだろうが、右の翼が枯れている以上真っすぐ走るのも困難になるはず。
「やあああ!」
栞が大声を上げて飛び上がり、脚部のブレードを振り回して斬撃を放った!
ディメンション・アイビーフェニックスの体にまとわりついていたツタが大量に落下し、そのツタに守られていた体に大きく切り傷が入る。
「羽にあてない様に」
「……分かってる」
「ホント?」
「思い出したから大丈夫」
入れ替わるように飛び出したイドに栞がそんな事を言う。
右の翼が枯れてしぼんでいるのは、剣が刺さったままだからだ。ディメンション・アイビーフェニックス再生能力がどのレベルか知らないが、剣が刺さったままになっている以上、再生されても再び枯れる。
むしろ再生させるべく魔力をガンガンつぎ込んでくれると嬉しい。
「ふっ!」
未だに立ち上がれないディメンション・アイビーフェニックスの顔にイドが剣を振るう。
ディメンション・アイビーフェニックスの首が落ち、イドは満足そうに頷いた。
「まだっ!」
「っ!?」
栞の叫びにイドが反応する、それと同時にディメンション・アイビーフェニックスの首は再生し、その体の周りのツタが一斉にイドに向かっていくっ!
「くっ!」
イドはツタを振り払いつつ、その場から飛び上がるが足をツタに捕まれてしまう。
「イド!」
「くあっ!」
1本のツタに拘束されたイドの体に無数のツタが集まりイドを一瞬で覆ってしまった!
「ちぇい!」
栞がそのツタの伸びている部分を脚甲でまとめて切り払い、そのまま落下するイドを受け止めてその場から駆け出す。
「イドっち!」
「しくじった」
「大丈夫そうだね! っと!」
イドを抱えたままの栞に、ディメンション・アイビーフェニックスの体から生えたツタが集中する。
「ミリア! セーナ!」
「ええ!」
「はい!」
栞と入れ替わるようにミリアとセーナが前に出る。
そして栞に向かっていくツタを踊るように切り払いながら、体制をなんとか整えようと立ち上がったディメンション・アイビーフェニックスに向かっていく。
「ごめん、しくじった」
「痛かっただろ。飲めるか?」
魔物に締め上げられたイド、たった一瞬だがそれでもツタに締め上げられた箇所はかなりのダメージを受けていた。
手足は折れている。体まで締め上げられていたら死んでいたかもしれない。
そう思うと怒りがこみあげてきた。
「栞、イドをありがとう」
怒りを殺し、ハイポーションを取り出してイドに飲ませようと……おい、なぜ唇を伸ばしている。
「ちょっとイドっち?」
「……ちょっと憧れてたシチュエーション」
「冗談やってる場合か」
イドの口にビンを刺すように入れる。これだけ元気なら自分で飲めるだろ。
「でもミチナガはミリア様に口移しで飲ませた事あったよな」
「ノーコメントで」
エリクサーと比べると即効性の高いハイポーションにより、イドはすぐ立ち上がれる程回復をする。
イドと栞の代わりに前衛の役割を持ったミリアが今度は正面からディメンション・アイビーフェニックスの首を縦に分断するも、すぐにまた繋がってしまった。
「ん、もう動ける。もう一回いく」
「大丈夫? あたしはちょっと休憩。跳躍続きでちと疲れた」
イドと違い、栞は高速移動をしながらの戦闘スタイルだ。それだけ集中力も必要とする。
栞はエイミーから飲み物を受け取り喉を潤す中、イドはセーナに声を掛けて再び前に出た。
「尾翼も動かせない様にできないかな? あれでバランスとってるっぽい」
首元の汗をタオルで拭きながら、栞がオレに聞いて来たので頷く。
「まだ剣はあるからいけるぞ」
「イドっちにまたマーキングして貰うね」
「ああ、打ち止めか魔力切れかこっちにツタが伸びてこない今がチャンスだな」
「了解! セリアさん、セーナ。二人をお願いね」
「ああ」
「任せて!」
栞が飛び出すと同時に、オレもポーチから剣をいくつか取り出す。
イドとミリアが順調にツタを切り飛ばし続けている。
先ほどと比べると、ツタが再生する速度も遅くなり総量も大分減った様子だ。このまま行動不能にして押し込めるだろう。
「んっ!」
栞が再び高速移動に入り宙を駆け回り、ディメンション・アイビーフェニックスの首周りを執拗に狙う。
ディメンション・アイビーフェニックスも何度も首を狙われているからか、その栞を近づけまいとツタを栞に集中する。
そうすると、今までツタに狙われていたイドとミリアへの攻撃がやや緩くなる。
その隙を逃さずミリアは、大きく足を踏み込んで剣を振り下ろし斬撃を飛ばし栞を狙うツタを自分のところまで飛んでくるまとめて切り飛ばした。
「跳躍してこぬ攻撃ならば遅れをとる事などありえませんわ」
二度、三度と剣を振り回す度に剣撃がツタを切り飛ばしつつディメンション・アイビーフェニックスに迫る!
「――――――」
空間を歪ませるものの斬撃が何処かに飛ぶものではなかった。ツタを切り飛ばしディメンション・アイビーフェニックスに向かう斬撃が向きを変え空へと飛んでいく。
その斬撃の動きを見てニヤリと表情を変えたのは栞。
ミリアに切り落とされツタが地面に落下するよりも早くディメンション・アイビーフェニックスの足元に辿り着くと、左足にブレードの展開した脚甲で蹴りを与えその足を切り落とした。
「ととっ!」
足が切り落とされ、バランスを崩し倒れ込むディメンション・アイビーフェニックス。
もちろんその足元にいた栞はこのままいれば押しつぶされてしまうので、慌ててその場から逃げのびる。
しかしディメンション・アイビーフェニックスもボスモンスターの一角を担っている魔物だ。
決定打を打ってきた栞には当然のようにツタが伸びていく。
「ふっ!」
その栞に向かうツタをミリアは切り払うと、栞はミリアの横に並んだ。
二人が並んだ状況。そこには当然のようにツタが集中する。
二人は一瞬視線を交差させるが、すぐさまに迎撃を開始。動き回らずにその場で対応する事を選んだようだ。
「ライト!」
その隙を逃さず動いていたのはイドだ。二人にツタが集中している間に背後に回り込んで矢を放っていた。
イドも尾翼で地上でのバランスを取っていたのに気づいていたのだろうし、オレが剣を取り出していたのも見えていたようだ。しっかりとディメンション・アイビーフェニックスの尾翼には矢が刺さっている。
「ナイスだ!」
オレは先ほどと同じように、地面に潜らせていた剣を放出。
ある程度自在に動けていた先ほどと違い、ほとんど身動きの取れないディメンション・アイビーフェニックスは、その巨体からすると短い尾翼に剣を受け、その尾翼も枯れていく。
身動きが取れなくなったが、それでも足を再生させたディメンション・アイビーフェニックスはなんとか立ち上がる。
剣を飛ばしたのがオレだと気づいたのだろう。
その首がオレ達の方を向いていた。
そしてその年輪のような目が赤く光ったと思った瞬間。異変が起きた。
オレは落下していた。




