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拠点とダンジョンと錬金術師④

 研究所だけど、エルフ達に頼る事にした。

 とは言うものの、建築とかできる人種じゃない。や、中には出来る人もいるだろうけど。オレが力を借りたのは、エルフの庇護下の亜人種達だ。

 彼らは世界樹のある森の、外周に近い位置に住んでいる獣人の集まりだ。

 人間ばかりの街では住みにくい、しかし街の外では生きていけないし戦う力もない。

 そんな獣人達が集まって、エルフの庇護を利用して世界樹の近くに居を構えたのが始まりらしい。

 今ではエルフ達と外の世界の交易を担う重要な街だが。

 エルフの庇護下を選んだ彼らは、エルフの怖さを一番知っているし、中にはエルフ達を神聖化して、未だに神兵と崇めている者もいる。

 ただの脳筋集団と理解している人が大多数だが。

 そんな中にはドワーフの大工もいたりするので、彼らをエルフの人たちに呼び出してもらった。


 流石にイドの家で出入りさせるのはイアンナもいて気分が良くなかったので、昔使っていた世界樹のダンジョン入り口近くにある隠れ家の転移ドアを使って、島にご招待。

 そのころには赤角族の面々の移住も終わっており、見事な無人島ができ上がっていた。


「皆さんにはここでオレの作成した設計図に合わせた建物を作成して貰います。近くに森もありますので、そこから木々の切り出しも行って貰います。森の中の警護はエルフ達に任せてください」


 突然森の中の一軒家の地下に連れてかれたと思ったら、海の見える孤島で夕陽を眺めているのだ。

 みんな驚きの表情に呆けている。


「とはいえ、オレの考えた設計図では無理な部分があるかもしれません。棟梁や長老はこの後で相談をさせてください。残りのメンバーには宴の準備をしてあります」


 用意したのは都で買ってきた大量の安酒。

 あそこで売ってるお酒、そこまで美味しくはないけど獣族がメインで飲むからとにかく量が多く売っている。

 舌の肥えたドワーフ達には合わないかもしれないが、とにかく量を望むとあそこで買うにこしたことはない。


「テントは用意してあるのを適当に立ててくれ。道具のメンテが必要ならそっち、オレの工房があるからそこの物を使ってくれればいい。それが終わったら適当に酒を飲んでメシを食って寝てくれ。以上だ!」


 彼らの世話もあるので赤角族の女性の何人かに残って貰っている。

 リアナの指揮の元、セーナとエイミーと赤角族の女性が食事の作成を行ってくれており、ドワーフ達の相手をしてくれる予定だ。

 ドワーフ相手にお酒を管理するのは無駄なので、雑多に樽を並べているだけだ。流石に扱いが雑なので、魔法で氷を作り冷やすだけ冷やしておいてあげる。


「さて、親方達にはこっちの相談を頼む」


 そう言ってオレとユーナが作った設計図を取り出す。


「まあ吞みながらでいいよ、本格的に決めるのは明日以降だし。とりあえず明日は必要な木材の調達と加工の準備が必要だし」

「ふうむ、それじゃあ確認させてもらうかの」

「こいつは大仕事じゃのう、この部屋はなんじゃ?」

「魔法陣の実験施設だな。今作っている魔法陣が危険なものでな」

「爆発か!」

「爆発もするかもだな」

「この壁と柱の素材、阿呆か!」

「オリハルコンの壁と鋼鉄の支柱だな。素材はこっちで用意するし加工もこっちでやる」


「鋼鉄の加工くらいこっちでやらせて貰いたいものじゃ。オリハルコンで壁を作るにはワシじゃ魔力が足りんがそっちならできる」

「あ、任せられるところは任せちゃえばいいのか! じゃあ魔導炉使ってよ」

「大きいの頼むぞぃ」

「任せてくれ」


 装甲車を作成した時の工場の中にでかいのがあるからそれを使おう。


「この柱の位置は?」

「あー、そこは応相談だ。この辺のバランスはあんた達がプロだからな」


 今まで魔道具や武器なんかは作ってきたが、建物となると木造の工房か装甲車用の工場だ。

 工房は壁材や柱材が世界樹の枝だったから柱の位置なんかは気にする必要がなかったし、工場はストーンゴーレムの体を魔法で加工して柱と梁を一体化させたから崩れる心配がなかった。

 今回はドワーフ達が設計図に沿って作る建物。柱の位置や扉の位置が悪いと建物自体のバランスに関わる。


「こっちのがええでないか?」

「バカ、そんじゃ扉の位置がおかしいぞ」

「扉の位置を変えればよかろうて」

「そんだば、こっちの通路が死ぬのじゃ」

「通路無くせばいいんじゃないかの」

「依頼主の設計を変えるのは二流の仕事じゃ」

「設計図が間違っとるなら修正するのがワシらの仕事じゃろうて」

「倉庫があんまりないの、魔法の研究をするなら素材置き場も必要じゃないかの?」

「ああ、それはこっちの扉があんたらの潜った転移ドアに繋がってるから……」

「ここがメインの研究所じゃ? そのドアと近い位置にあるべきではないか?」

「ふうむ、そうなるとこっちの工房はこっちに……それとこっちに大きな搬入口もあったほうが」

「おかわりじゃ!」

「ワシもじゃ!」

「依頼主、お主も呑まぬか!」

「ああ、悪いな」


 ジョッキを持ち上げて、何度も乾杯をしながら設計図と睨めっこをするオレ達。

 テント作りも終わったのか、他のドワーフ達もオレ達の周りに集まってきて、やいのやいのと大騒ぎでお互いの意見交換をした。

 要所要所で使われる素材の豪華さに文句を言われたり、この素材を入手してきてくれればもっといい物に作り変えられるという話になったり。

 ガラスの一枚壁とかこちらの常識にはない発想に驚かれたりと楽しい時間となった。

 夕方から夜になると自然とそのまま宴に突入。

 オレの工房の話で盛り上がったり、彼らが過去に作った建物の話や武具や魔道具の話で盛り上がったり、エルフのせいでこんな迷惑をこうむったなど様々だ。

 意外と楽しい時間になったなと思いつつも、給仕をしてくれていたエイミー達に感謝する。

 気が付けば乱入していたイドや栞が研究所とは別に家を建てようと言い出したり、隠れているようにお願いしておいたハクオウがいつのまにやら乱入したりと大変な事もあったが、とにかく楽しい夜になった。

 翌日、オレが目を覚める前にドワーフ達は木材の調達に森に向かっていったらしい。

 親方達の大半も自分で木材の状態を伐採前の段階で確認するとの事で、そちらに行ってしまった。


 二日酔いのオレが起きたのは、昼過ぎの時間だった。

 ユーナ、二日酔いに効く薬を作ってくれ……。






 次元の壁を開く魔法陣の解析は困難を極めている。

 研究所を作るまで起動させること自体ができないのだ。解析もあくまでもこうであろうという考えのもとに、矛盾点を潰していく作業だ。

 次元の壁の向こう側がどうなっているかが分からない以上、机上の空論に過ぎないし。

 ただ解析を進める上で、魔法陣だけでなく媒体も必要になる事が分かった。この手の魔法陣で媒体が必要な物も珍しい。

 これはオレが栞とエイミーを蘇生した時に使ったような物とはちょっと違う。

 次元の壁を突破するのに、次元の壁という目標物を設定しないといけないのだ。その次元の壁を指定するのに、次元というか空間に作用する素材が必要となるわけで。

 そんな素材を用意できるとは、流石は一国家の力だ。


「思いつく限りだと、アイツだなぁ……」

「アイツって?」

「ほら、転移ドアの」

「ああー! って、ああ……」

「え? え?」

「あれって、魔物素材よね?」


 オレの言葉に栞が思い出して脱力。その素材を獲得していた時に既に離脱していたエイミーは頭に『?』を出しており、イドは未知の魔物が相手との事で若干期待している。


「面倒な相手なんだ……」

「ドアって木材よね。植物系?」

「ああ。広い定義で言えばトレントだけど」


 転移ドアの素材となった魔物。

 討伐するのにとても時間のかかる厄介な魔物だ。


「あれ、大変だったよね……」

「ああ、海東がいないからきっついなぁ」


 あいつの広範囲魔法がないのが辛い。


「ど、どんな魔物?」

「名前は『ディメンション・アイビーフェニックス』これ海東命名な。一般的には知られていない魔物だ。体中がツタで覆われた鳥の形の植物の魔物」

「情報が多いわ」

「わかるよ……」

「つ、強いの?」

「強いっていうか」

「うん、強いっていうか。強いっちゃ強いけど」


 オレの言葉を遮るように栞が言葉を重ねて来る。


「まずね、でっかいの。それと体はツタで覆われているから基本的にツタの内側に攻撃を当てないとダメージを与えられないんだ」

「大きい……楽しみ」

「こ、怖いね」

「んで鳥の形してるから空飛ぶ」

「むう、それは面倒」

「しかもそこそこ早い速度で飛ぶんだよな。生息場所もかなり広いし」

「ん、捉えにくそう」

「実際に明穂ちゃんが追い付けなくて苦労してたよ」

「稲荷火もな」


 前衛陣の攻撃はほぼ当らないと考えた方がいい。


「じゃあ魔法?」

「魔法もなぁ」

「うん、反射というか、跳ね返してくる」

「ええー」

「空間の裂け目を体の周りに作って、そこに魔法を吸い込ませて別の入り口を開けてこっちに飛ばしてくるんだ。それとツタもその裂け目からウニョウニョと飛んでくる」


 あいつのズルいところは本体が逃げ回りながらも、こちらのいる地点の近くに空間の裂け目を作ってツタを触手のように使って攻撃をしてきたり、こちらが飛ばした遠距離攻撃を空間の裂け目に吸わせて別の入り口から飛ばしてきたりとするのだ。


「特に、逃げ回るってのがポイントだ。本当に逃げ回る。一定の範囲以上の距離を常にとってくるし……」

「取ってくるし?」

「ヤバそうになると逃げる。空間の裂け目に飛び込むからどこに出てくるかわからん」

「それ、どうやって倒したの?」

「あー、頑張って」

「そだね、頑張ったね……」

「頑張ったのね?」

「イドさん、納得しないで」


 あの時は、伸びて来たツタ一本一本を稲荷火と栞が切り飛ばして、海東が魔法で燃やしまくったんだ。

 ツタを切ればどんどん再生をするが、再生をするには体力か魔力を消費するはずだと考えてツタが再生しなくなるまで削り続けたのだ。

 そしたら逃げ出した。

 どこに行ったか分からなくなったので、探し回る。

 見つけた頃にはある程度回復してやがる、それをまた削る。そしてまた削ると逃げ出す。逃げ出したから追いかける。

 そんな事の繰り返しだ。

 そして疲れ果てたのか、最終的には眠りこけたヤツを見つけたので、海東が手持ちの炎属性の最大火力で攻撃。

 ツタをすべて剥がし、空間の裂け目に逃げ込もうとするも、空を飛んでいなかったので明穂がぶん殴ってそれを妨害。

 最終的にはタコ殴りにして討伐したのだ。

 別に倒すべき魔物ではなかったが、一応ダンジョンのボスモンスターだ。先に進むには倒さなければならなかった。


「あと、あいつ顔が腹立つのよ」

「こっちの攻撃を反射する時の顔な。なんかバカにされてるような気がする」


 樹木調の体の配色に年輪のような模様の顔があるのだけど、どことなくこちらを鼻で笑う感じをするのだ。


「稲荷火の魔導剣を作るのに、色々な素材を求めてダンジョンに入った時に出会った魔物だ。レベル的にも能力的にも触媒とするには一番の相手だ」

「じゃあ倒すのね。楽しみ」


 ここのところオリハルコンゴーレムマラソンを楽しんでいたイドだ。たまには他の魔物をとテンションをあげている。


「流石に全員でかかった方がいいかな」

「エイちゃんがいればよゆーよゆー!」

「そ、そんな事……」

「倒し方は分かっているんだ。とりあえず準備が必要だな」


 転移ドアの素材となる体はまだ残っているけど、魔石は稲荷火の魔導剣を作る時に使ってしまったから手元には無い。

 あいつの魔石を触媒にすれば、次元の壁に穴を開けられるのではないかと思う。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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