拠点とダンジョンと錬金術師②
勇者の素質を持つ者を探索する魔法陣。
これは特定の素養を持つ存在を探索する魔法陣だ。
素養さえ持っていれば、人間以外にもヒットしてしまう。ちなみにこの世界にも反応があったのが興味深い。
ちょっと会ってみたいかも。
人間かどうかは分かんないけどね。
んで、勇者の素質とは何か。
この世界での認識はクリア様が地上にもたらした聖剣を扱っても命を落とさない。それを自在に操る事が出来る人間である。勇者の素養のない人間が使えば命を落とすなんて、聖剣じゃなくて呪いの剣じゃねえの?
とはいえ稲荷火の話を聞く限り、それは違う気がする。
稲荷火が言うには手に持った剣から声のような気配を感じ、その剣をどう扱えばいいか、どう使えば効率よく使えるかを理解できるのが稲荷火の権能だった。
だから聖剣の理解はできても、使用する際の実践で失敗していた訳だが。
聖剣の力を使っても命を落とさない。ではなく聖剣の力を『ここまでなら』使っても命を落とさない、それが理解できて制御できたからだという話だ。
そう思うと最大出力で扱っていたら稲荷火でも死んでいたかもしれないな。まあ抑えた出力でも外の出したエネルギーの制御はできてなかったけど。
職業的には【勇者】ではなく【ソードマスター】とかの部類になるんじゃないだろうか?
似たような職業で【剣聖】がある。ミリアの事だ。
彼女の場合、剣の扱い方が分かるのではなく剣に合わせた体の使い方が上手くなるような類であった。
劣化版のイリーナは大剣でしかその機能が十分に発揮しないようだが、とにかくそういう素養があるって話だ。
この勇者の素質を持つ者を探索する魔法陣。これを改良して【盗賊】の素養のある人間を見つける物にしてみた。
魔法陣の【勇者】の素養の部分の栞向けに変更したものだ。結構それだけでも苦労したけど。
出力を一定にしてこの大陸を覆えるくらいにして使用したところ、見事にヒット。
だから【勇者】【大聖女】【バトルマスター】【大神官】【ビーストマスター】【大魔導士】【空戦魔導士】がある程度かたまっている所が、日本なのではないか? という仮説が立つわけで。
この方法で調査できるんじゃないか? と考えた。
「失敗だけどな……」
それぞれの素養を持つ者を探す魔法陣を作らないといけなかった。【勇者】は元々データがあったし【大盗賊】の栞がいたから栞のデータを打ち込んで魔法陣に組み替える事も可能だった。
だけど【大聖女】と【聖女】の違いはわからんし、そもそも聖女すら知り合いにいないのでデータがない。
魔法陣が作れない。
「あー。誰かオレに天才的な脳みそをくれ」
オレが【マスタービルダー】ではあるが、頭の中で考えた物をなんでもかんでも作れる訳ではないのだ。
魔法陣が改良できても、何もないところからデータを生み出す事はできないのである。
素養のデータとか意味わかんねーし? 【神官】はレコーズさんの協力でデータを獲得できたけど【神官】って素養持つ人多すぎだろ。
「他のアプローチ方法を探さないとな……まあ一番は魔力か」
現状考えているのは魔力探知の魔法陣の改良だ。
魔力は個別で質が違う。そして素養といった曖昧なものと違ってはっきりと調べる方法が残っているのだ。
「魔力といえば海東だよな」
オレ達のパーティの中で一番魔力値の高い人間は【大魔導士】の海東だ。
女神クリア様の話だと、こちらの世界に来た段階の体に縮めたと言っていたので海東の魔力値はこの世界にいた時と比べれば相当下がっているだろう。
だから海東以上の魔力を誰かが持っているかもしれない。だから最終的には全員の魔力を探さないといけないと思うけど、やはり期待値で言えば海東だ。
小太郎や白部も魔力値は高いかもしれないのし、全く同じ魔力を持った存在がいないとも限らないので、複数の人間の魔力探知を行うつもりだ。
「出力をどう上げるかだ、な」
世界の壁を開いて、探知の魔法をかける。言葉にすれば簡単だが実施するのは容易な事ではない。
今でも大量のエーテルボトルを必要としており、月見草を始めとした大量の魔草を消費している。
島の畑ももうすぐ畑じまいだし、外から買うのも限界がある。
「まず魔法陣自体の魔力消費を抑えるギミックか」
旧ハイランドの連中は黒竜王の子供の魔石から無理矢理魔力を吸収したうえで、その生命力をも使って出力の強化を行っていた。
生きたまま利用されていたのだ。あまり気分の良い話ではないが、理にかなっていると言わざるを得ない。
しかし同じ手段を取る気にはなれない、使う魔物は生きたままじゃないから危ないし。
「魔法陣自体の魔力循環効率の向上と、エーテルボトルの魔力の質の向上も必要だ。循環効率は魔法陣の線にあった水溶液……探知は風と水か」
探知魔法はそこまで難しい魔法ではない。方向性を絞れば絞るほど精度の高い探知魔法が必要になるけど。
「とりあえず……金策か」
何が面倒ってダランベールで稼いだ金はダランベールで、シルドニアで稼いだ金はシルドニアで、獣族の都で稼いだ金は都で使わないといけない。
シルドニアと獣族の通貨は同じだけど、相互で交易がないので気を付けろとミリアに言われたのだ。
浮いているお金はシルドニアで屋敷を下賜された時の屋敷内財産くらいか。
うおー、面倒臭い!
「という訳でお金をせびりに来ました」
「金は要らないとか言ってなかったか?」
「そうだけど、ちとこっちの金があんまりなくて」
「皇室に何か献上すれば良いのではないですか?」
「アラドバル殿下関連であまり顔を出したくなくて……」
「お前、アラドに何をさせているんだ?」
「相手は皇太子ですよ。分かってるんですよね?」
旧港街、そこの管理を行っている二人。フィーナ=ケッツェとハインリッヒ=エティロブのお二人だ。
この港町はダランベールとシルドニアの共同拠点だ。
立派な交易都市と名乗れるように、現在進行形で多くの商人が集まってくるシルドニアのホットスポットである。
「しかし金か。名前だけの管理者に金を渡すのは気分がいいものではないな」
「え? 貴族ってそんなもんでしょ?」
貴族の名前で管理されている土地でも、実際に管理を行っているのはその貴族の下の人間、つまり平民が中心だろう。
「まったく。大分穿った知識を持っているみたいですね」
「そもそも我々が貴族でライトロード殿が平民だろ? 立場が逆転しているではないか」
「ですわね」
「はい、なんかすいません」
なんだかんだ言って何パーセントかオレの取り分があったから、それを貰いに来ただけなんですけど。
「一応書類上は、ライトロード殿の金はあるが」
「そうね。書類上ではあるわね」
「なんか含みがある言い方だなー」
こういう言い方をされるっていうことは?
「現金として光様に出せる量の金貨の保有をこちらではしていないんです。ゼロでもいいからというお話でしたので」
「マジ?」
「というか現状は赤字経営だぞ? 船がダランベールしかこないのだ。そしてダランベールの船には隻数と積載量に応じた税を支払って貰っているが、微々たる物だ」
「そうなのよね。船が多くないもの」
国同士の交易しか行われていないのが難点だ。個人所有の船の出入りがないのが原因だ。
「ここからシルドニア圏内の他の港に交易船が出せれば多少は儲けになるのだがな……そもそもこの国には港町が無い」
大河もないから内陸部への物資の運搬は基本的に馬車だ。
そして馬車での運搬が中心である以上、重量のある物資の運搬は困難である。
現状ダランベールからの交易品の中心は貴族向けの布と日常生活用の魔道具が中心である。そしてシルドニアからは香辛料と、国内で消費しきれないほど保有していたというか、雑多に捨てられていた魔鉱石やミスリルを抽出してのべ棒にしたものが中心。
運搬できる船がダランベール所有の船のみのため、シルドニア側はあまり儲けを生み出す事ができていない。
香辛料はともかく魔鉱石やミスリルはダランベールでも採掘ができるので、主力にはなっていない。そもそも重くて大量に運び込むことが不可能なのだ。
「我が国も大型の戦船と中型の護衛船が作れればいいのだが……」
シルドニアはハイランド時代に大型船を保有していたが、恐らくその大型船の製造を担っていた場所がここだ。
「船大工の技術継承はされていたのだが、魔物除けの魔道具がな」
「あー、あれ魔導炉が必要だもんな」
ロードボートが空を飛ぶ前に船だった頃にはついてた。
オレの呟きにフィーナがハッとした表情をする。
「ライトロード殿、今なんと?」
「え? だからアレの作成にはミスリルがいるからね。魔導炉がないと加工できないでしょ」
「……ライトロード殿、鍛冶師ではなかったか?」
「うん? オレって鍛冶師じゃなくて錬金術師だよ?」
そういえばハインリッヒさんの前では鍛冶仕事しかしてなかったっけか? や、【魔導炎の依り代】は錬金術でしか作れない物だぞ。
額に手を当てて悩んでいるハインリッヒさんと、若干気まずそうな表情のフィーナさん。
「光様、その大型船用の魔物除けの魔道具の技術継承に関してダランベールとハインリッヒで交渉中なんですよ」
「ああ、そういう」
「こんな身近に知っている人がいたとは……」
「ゲオルグ様の直弟子でしたものね……失念してました。大型船用の魔道具程度ならいくらでも作れますよね?」
「うん。魔物除けなら持ってるよ?」
オレのはロードボート用だから小型船、まあこの世界の規格からすれば中型船に相当する代物かな。
飛行能力を持たせるスペースを作る時に外してそのままだわ。
こいつは魔王討伐の旅路の途中に作った物だから常識の範囲内の性能だし。
「今作ったらもうちょい性能のいい魔物除けが作れるかもだけどね」
「誠か!」
「それは待ってください。ゲオルグ様にも加減していただいていたので」
ハインリッヒさんが驚きの声を上げ、フィーナさんが思案顔になる。
「これは、あの件がいけそうですね」
「ああ」
二人は互いに目を合わせて頷きあっている。仲がよろしいようで。
「しかし、そうなると資金の問題が……」
「えーっと? 何の話で?」
「造船所の跡地があるので、我が領でも船を作りたいと思っていたんです。ダランベールとシルドニアの船には税をかけますけど、我が領の船であれば税をかける必要がありませんから。いつまでもダランベールにばかり収益を与えていては我が領にお金が溜まりませんもの」
この世界、主な税収は農作物だ。だがこの港街は田畑が余り多くない。海岸沿いで育てられる農作物には限りがあるからだ。
しかも元々は人に捨てられて100年以上たった土地。港町の復旧と謳っているが、ほとんど開拓に近い。しかし開拓を行うにも領民が兵士と商人ばかりで農民などはほとんどいないと来たもんだ。
「船舶の生産計画を改めて作成し直しですね」
「うむ。隻数を増やせば皇室からも予算が出るだろう」
「ついでに1隻増えても問題ありませんわ」
「ライトロード殿には魔物除けの魔道具の提供を頼む」
「ですわね。光様、お金が欲しいのならば働かないといけないんですよ? 存じてましたか?」
「マジっすか……」
「あ、予算案はこちらで作成するので魔道具の値段はこっちで決めますね。ご自身の領の収益の為ですもの、技術料は免除しても構いませんわね?」
「魔鋼鉄やミスリルは物納でいいか。正直船に乗せるには重量の関係で余っているからちょうどいい」
二人はそんな事をいいながら何やら書類を持ち出して色々と書き込みを開始しはじめた。
「ねえ、オレのお給料の……」
「皇室から現金を貰ったら払おう」
「次来るときは前もって言ってくださいね」
「まったくだ。突然言われても金なんかすぐに出る訳なかろう」
え? オレが悪いの?




