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解析をする錬金術師⑧

「腹を捌いても何も出ない、か」


 ライオネルがいくつかの死体の腹を捌いたが、内臓から虫や小動物は出てこなかった。

 内臓も胃のようなものがあるだけで、腸が短い。

 ただし胃の中には例の毒が採取できた。毒は胃液だったようだ。

 ライオネル達も吐きかけられたと言っていたから間違いなさそうだ。


「何かを食っている様子はないなぁ」

「でも生きている以上は、何か食べてるはずだよね」

「そだねー」

「一度ものを食べたらしばらく何も食べなくても生きていけるとか? 砂漠の魔物とか雪山の魔物にその手のタイプの魔物がいたけど……ここは森だしな」

「関係あるの?」

「そういうところの魔物は大体食料が乏しいから少ない食料で長く活動できるような体の作りになっている、と思う。ラクダとかコブに栄養貯めてるだろ? あんな感じで」

「ものしりだ!」

「どーも」


 しかしそれらを調べるには長い時間が必要だ。あまり時間をかけたくない。

 体内には小さな魔石もあり、その属性は水属性。単一で混じりっけの無い魔石はあまり多くない。

 これは食糧も水属性が強いもので構成され、生活している場所も水属性が強く、風や土の属性の影響も多くない事が想像できる。

 もちろん地面を歩くし、蛙なので腹ばいで過ごしているから土属性の影響を受けている個体もいる。魔石自体が大きくないこともあり、水属性以外の余力がないのも関係しているのだろう。


「小川に魚とかはいるか?」

「多少はな」


 小川には木陰があまりない。岩場の影に蛙もいるが、水中の生き物や水上の生き物を捕食しようと待機している様子はない。


「夜になったら活発に動くのか?」

「そうだな。移動は夜間に行っているようだ。日中よりも活発といえば活発だが、そこまで大移動をするかといえばそうでもない」

「なるほど……」


 うーん。夜になったら捕食の風景が見られるかな?


「せめて何を食べているかわかればエイミーの幻術で誘導できるんだけど」

「日の光が嫌いなんだからそれで誘導したら?」

「ああ」


 栞が賢い提案をしてきた。


「エイちゃんの力なら森全体に日の光を誤認させられる幻術がかけられるでしょ? 魔法抵抗値も低そうだし、地面の中に隠れていようが川の中に隠れていようが効くんじゃない?」

「なるほど、確かに。こいつの様子だと見えてない位置にある木陰も分かるっぽいからな」


 水槽にいる蛙は、水槽からは見えないはずの木陰に向かって逃げようとしていた。


「大きい穴を掘って中に油でもぶちこんで、そこに誘導すればいいか」

「ざ、残酷な手を……」

「今回は狩りじゃなくて駆除だからな」


 方針は決まった。

 地属性の魔法で地面に穴を掘って、そこだけ木陰であるようにエイミーの幻術で認識させればいい。

 蛙達は勝手にそっちに移動してくれるだろう。


「エイミー、オレは穴を掘るからあいつら……というか、あの範囲にいる蛙達にちょっと試してみて」

「わ、わかった。そんな難しくないからできると思う」


 とりあえず魔法で穴を掘る。


「水湧いたね」

「失敗失敗」


 うん。小川の近くで穴を掘ったらすぐに水がしみ出して来た。川の近くに穴なんか掘ったらそうなるよね。






「では、改めまして」

「ほーい」

「うん」


 ライオネル達とキンカムイ族達も作業を止めて手を洗わせ解毒ポーションを飲ませる。

 解毒剤作成の為、毒蛙は5匹程確保しておく。

 これはオレが作る為じゃない。この辺りの素材でキンカムイ族達が作れる解毒ポーションを作る為だ。

 オレはこの辺りの素材に明るくないからね。


 小川から少し離れた地点、木々も少なく地面が乾いている場所を見つけたので、そこに魔法で地面に大き目の穴を深めに掘って、湧き水の出るところは石で埋めた。

 そんで下に油をドバドバ流し込んで完成。

 どれだけ蛙がいるか分からないから、穴はかなり深めに堀ったので蛙じゃなくても一度落ちたら飛べない限りは出てこれないはずだ。

 蛙はこの森のどこにいるか分からないくらい分布している。オレ達が蛙まみれになる可能性もあるので、世界樹製の柵を使って蛙が侵入できないエリアを作成した。


「んと、それじゃあ行くね」


 エイミーが破魔弓に幻術札をセットし、空に向かって5枚飛ばす。


「願いますは、暖かなる太陽の光……」


 エイミーの放った5枚の幻術札は空中で静止すると、それぞれが鼓動するかのように波打って、空中に波紋を広げた。


「汝らが見るは陽だまりの世界。汝らを包むのは陽だまりの世界。ひとたび陽に包まれれば、暗闇はただの一つ」


 エイミーの魔力量はオレを余裕に超える量だ。それに関して言えばイドも勝てないと公言しているほどの量。

 本来は詠唱自体必要としない。

 エイミーが口に出しながらの方がイメージしやすいから、詠唱をしている。

 詠唱の文言は自分で考えているので、手元に詠唱を書いた紙を持っているのが微笑ましい。


「暗闇を求める者達よ、汝らの救いは遥か奈落。信じよ、感じよ、そして目指せ。奈落にこそ救いがあり、奈落にのみ楽園がある」


 最後に大きな波紋を生んだエイミーの幻術札は、火に包まれて燃え尽きる。


『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………』

「「「「「 ゲコゲコゲコゲコゲコ 」」」」」


 そして、そこら中から地響きが鳴り響いた。

 そしてそこら中から蛙の鳴き声も。


「嫌な予感がするなぁ」

「み、道長君……」

「目、閉じてた方がいいかな……」

「馬車に引っ込んでてもいいぞ?」

「あ、あたしはそうする!」

「わ、私も!」


 エイミーが自分の幻術の起こした結果を確認しないのは珍しい。

 それだけ蛙の群れを見るのが嫌なのだろう。まあオレも今は後ろを見る勇気がない。


「し、使徒殿」

「大丈夫、この結界の中なら大丈夫、なはずだ」


 炎竜でも突破できない結界だから大丈夫なはずだ!


「うわぁ……」

「べ、べぁぁ……」


 うん、すごい光景だ。

 具体的に描写したくないほど、すごい光景だ。


「ま、まさに大地が蛙で埋め尽くされて……激流のようにうねって」

「言わんでください殿下」


 蛙の川とかマジで気持ち悪い。


「こんなにもいたのか……これでは倒しきれぬな」

「ええ、人の手では手に余る状況で。あ、グールウルフも混じってるな」


 アンデッドも太陽の光を嫌うからか、穴に飛び込んでいった。

 確かにこれだけの規模ならば、魔物の死体がアンデッド化してもおかしくはないか。


「見境なしなのだな」

「エイミーの術の効果範囲内にいる魔物全部が対象だな」

「ど、どれくらいの広さなのだ?」

「どうだろ……」


 あの気合と魔力の込もりようだと、数キロ単位に見えなくもない。


「オタマジャクシが地面を跳ねとる……」

「良く見つけたな」

「穴、深めに作って良かったな」

「ああ、だが油は追加しないといけなそうだ」

「この後歩きたくない……」


 地面が蛙の粘液で滑るだろうからな。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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[一言] きゃーーーっ!
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