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解析をする錬金術師④

 勇者召喚の魔法陣の調査にあたって、まず始めるのが魔法陣の稼働時の手順の確認だ。

 この手の複数から構成される魔法陣は、魔力を帯びたらいきなり動き出す訳ではないで、それを一つ一つ調べる必要があるのだ。

 まず1の魔法陣。これは勿論吸魔の魔法陣だ。この魔法陣は魔法陣の上に置かれた魔力媒体、黒竜王の子供のような魔物の魔石から魔力を吸収していたので、その代用品の準備から始める。


「子竜の魔石が残っていればそのまま使ったのになぁ」

「文句を言う割には不満は無さそうっすね」

「うっせ」


 代用品として、エーテルボトルを利用する。黒竜王の子供、なんといっても王竜の子だ。魔力量は莫大だっただろう。普通の魔物の、最上位に位置するような存在の魔石の代用品になるものなんかあまりに少ない。

 セーナのフルアーマー状態を維持するためだったり、ロードボートや装甲車を稼働させるために使ったエーテルを使用する事にする。


「準備するのはいいっすけど、いきなりなんか呼び出さないで欲しいっすけど?」

「もちろんやらんよ」


 召喚の魔法陣は一番最後だ。中央の魔法陣。

 これに魔力が流れ込まない様に、魔法陣に魔力を拡散させる魔道具を置く。

 これはオレが使っている吸魔の手袋の技術を応用した品だ。召喚の魔法陣に流れ込んだ魔力を吸い上げ、空になり魔力を失ったエーテルボトルに飲み込ませるのである。

 元のエーテルボトル程には到底ならないが、多少は魔力が戻る仕組みにした。リサイクルである。


「そうなんっすね。あのでっかい水槽の中に裸の女の子でも召喚するのかと思ったっす」

「お前はオレをなんだと思ってるんだ」

「セッティング、終わりましたでございます」


 ジェシカを問い詰めたいところではあるが、ユーナが準備完了と声を掛けてきた。

 そんな水槽と吸魔の能力を与えた土台を繋げたのはユーナだ。オレの考えを伝えればすぐに理解してくれるホムンクルスなのでとても重宝する。

 普段雑用ばかりお願いしてごめんなさい。


「魔力の制御魔法陣は弄りたいなぁ」

「意味あるんすかそれ」

「なんか装置に対して程度の低い部分があると修正したくなるのよ」


 これはモノヅクリをしている人間の習性だろう。ジジイも同じことを言うと思う。


「直さないんすか?」

「直してもいいけど、結局放棄するからな」


 調べ物が完全に終わったら、ここの召喚魔法陣を完全に破壊する予定だ。

 一応魔法陣はすべてコピーしたので別のところでも実験はできるが、人目に付かないし誰もこれないのでこの場所は都合がいい。


「魔力供給の魔法陣から制御と拡散の魔法陣を通って、召喚魔法の周りの魔法陣に魔力が流れ込んでいき、それぞれの魔法陣がその役目を果たす」


 吸魔の魔法陣と魔力制御の魔法陣、それと用途不明の魔法陣が3つに召喚の魔法陣。

 一つが恐らく勇者の才能を持つ人間を探し出す魔法陣だろうと考えている。

 もう一つの魔法陣が、その才能を持つ物とこちらの召喚魔法との探索した勇者候補を繋げる魔法陣だろう。

 もう一つは、なんだろ? やっぱり見た事が無い魔法陣だ。同系統の魔法陣も見た事が無いから全く想像がつかない。

 動いている状態を見た事のある魔法陣であれば役割がなんとなくわかるが、見た事のない魔法陣であれば稼働させた上で解析しないと理解ができない。

 その上でその魔法陣を改良しないといけないのだ。


「さて、緊張の瞬間だな」


 吸魔の魔法陣は比較的シンプルな作りだ。調べた結果、きちんと起動キーがあったので魔力を流し込んだだけでは作動しないことが分かった。

 なので柵は一応そのままだが、魔法陣の中央に満タンのエーテルボトル(小)が置いてある状態である。

 王竜の子がエネルギー源だったからこのエーテルボトルでは足りないかもしれないが、全体を完全に満たせるほどの量を流し込んだら何かトラブルが起きる可能性も考えられる。

 出来るだけ慎重に行動したい。


「よし、エイミー。起動キーを」

「わ、わかりました!」


 エイミーにはエーテルボトルに直結した有線式のスイッチを渡してある。

 このスイッチをオンにすれば魔法陣が作動し、エーテルボトルから魔力が供給されるのだ。

 勿論スイッチを持っているだけのエイミーからは魔力が持っていかれる事はない。

 緊張した面持ちでエイミーがスイッチを入れる。

 エーテルボトルの中のエーテルが光を放ち、中に空気の玉がゴボゴボと生まれてエーテルの嵩が下に降りていく。

 吸魔の魔法陣が光を放ち、そこから溢れた光が魔力制御の魔法陣を満たしていく。

 やがてその光は勇者召喚の魔法陣全体を満たしていき、地下の闘技場は神秘的な光に包まれていった。

 静寂と共に闘技場を包んだ光は、すぐに収まる。


「なんも起きないっすね」

「それでいいんだけど、ちょっと短すぎた」


 コレじゃ何もわからんわ。


「……やっぱ制御の魔法陣、作り変えるか」


 ため息をつきながら、魔力制御の魔法陣に視線を落とす。

 地面を魔法で埋め立てて真っさらにした後で、上から描かないといけないのだ。

 ああー更に細かい作業がオレを待っているっ!






 魔力制御の魔法陣。これを作り変えるには、魔力制御そのものの特性を変えなければならない。

 エーテルから溢れた魔力を、魔法陣を通して順番に満たしていくのだが現在の魔法陣は単純に大量の魔力で満たし、その大量の魔力を吸魔の魔法陣から引き出し続けていくだけの代物だ。

 これでは無駄にエーテルを消費するだけである。

 エーテルからの魔力を取り出して満たしていくだけでなく、効率的かつ持続的にそれぞれの魔法陣に流し続けるタイプの物に作り変えなければならない。

 錬金術師ってなんだっけ?


「大丈夫。道長君に作れないものなんてないんだから!」


 エイミーの信頼が重いぜ。


「取り合えず下書きしないとだな」


 大きい魔法陣は線が歪みやすいから慎重にやらないといけない。

 しかも周りの魔法陣が地面に彫り込まれているタイプなので、同じように彫り込まないといけないのだ。しかも彫りの深さも同じ深さに均等にしないといけない。

 くうっ、面倒だっ!

 現状ある制御の魔法陣の、彫り幅に合わせて一つ一つを丁寧に測量。

 消す部分、残す部分を紙に書いていく。

 ……四つん這いで。


「えーっと、手伝うっすか?」

「細かい作業だからいいよ……」

「の、飲み物を準備しておこうかな!」


 いたたまれなくなったエイミーが逃げ出す。

 オレとユーナが地面に伏せて作業をする中、微妙な表情でオレ達を見つめるのが今のジェシカの仕事である。

 一応他の通路から魔物が入ってくるかもしれないので、ジェシカがここから離れるのは許さない。


「じ、自分もエイミー様の」

「ここにいなさい」

「うっす」


 逃がしません。


 この魔法陣を描いた人はかなりのやり手だったようだ。道具も良い物を使っていたはず。円は歪みなく均一で線も真っすぐ。

 術式が術式だけに、国一番の魔導士か錬金術師がこの魔法陣を描いたんだろうな。

 とても正確で丁寧な仕事である。

 200年以上前の技術と考えても、この仕事っぷりと魔法陣の作り込み加減からいって相当に腕のいい人間の仕事のはずだ。

 ほんと、勿体ない。

 流石に更に歴史のあるダランベールの術を仕込まれたオレからすれば魔法陣自体のシステムのレベルが低かったが、当時は最先端技術だったんだろう。

 この魔法陣を描いた人間の著書とか研究資料とかあったら読みたいくらいだ。城に残っていた本は流石に200年モノで崩れて読めなくなっていたから残念である。


「だ、旦那様、深さの基準が分かりましたであります!」

「よし、オレはこの深さで彫れるノミを作るからこの用紙に書いた魔法陣を地面に下書きしてくれ」


 チョークをユーナに渡すと早速書き始める。

 ホムンクルスは人間と違い、集中力が途切れないし丁寧な仕事をするのでこういった仕事を任せやすい。

 間違いを犯さない訳ではないので、必ずオレに確認を求めて来るし信用できる。


「それはなんっすか?」

「ノミだ」


 地面を掘るものだからノミじゃないかもしれないけど、形がノミである。

 オレが錬成し、オレの魔力に染まったミスリルと魔鉱石の合金インゴットを取り出して粘土のようにちぎって長さを測って作る。


「おお! 面白そうっす!」

「お前にゃ出来んよ」

「なんかずるいっす! 粘土みたいなのに硬いんすね!」


 オレ以外が触ってもただの金属の塊だからな。

 それで同じように持ち手を作って合わせる。火入れをしないと強度が足りないので武器を作るのには使えない手法だが、この程度の道具を作るならばこれで十分だ。


「ライト様ってすげーっすよね。作れない物ないんじゃないっすか?」

「あるぞ」


 聖剣とか。


「ただいま……ジェシカ、近い」

「あ、すいませんっす」

「おかえり」


 エイミーの小さな嫉妬にほんわかした。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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