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解析をする錬金術師③

「黒竜王の子供の躯を返す?」

「ああ。ハイランドの血を引く私がするべき事だと思う」


 食事の時間になり作業を止めて上に戻ると、アラドバル殿下が獅子王騎士団を連れてオレに言ってきた。ライオネルも横で頷いている。


「黒竜王の元眷属であり、現王竜の赤樹竜の居場所は我が知っている。あの方が黒竜王様の跡目を継いでこの地の竜を収めておられるのだ」

「つまり、殿下は獅子王騎士団とその赤樹竜の場所まで行って遺体を返したいと?」

「そうだ……彼らの怒りがこの地を分断していると聞いた。上手くいけばこの大陸の分断を解除できるかもしれん」

「うむ、こやつの国と我らの都が国交を開けば、より豊かな世界になろう」

「馬鹿か」


 ライオネルはわかってない。


「こっちの大陸にも人間の街や村が発展していたら多少は考えてもいいと思うけど、現状獣族が中心の世界に人間の国家なんか入ったらどうなるか……殿下も想像はつくでしょう?」

「……争いは起きるだろう。だが私が皇族としてそれを許しはしない」

「結果としてそれが出来たとして殿下が死んだあとは? 殿下の考えを快く思わない他の貴族達が殿下を失脚させたら? ハッキリ言って獣族は人間じゃない、奴隷にしても構わないって勢力は絶対に出て来る。オレが来たダランベールでは獣族は存在していない。滅ぼされたか併合されたか、どっちにしても平民にしか獣人はいなかったぞ」

「そうですわね。ダランベールの貴族たちの中にも獣人の血が混じっているものはいるでしょうが、見た目で獣の影響が出ている者を貴族と考える者はおりません」


 高貴な血を繋いでいるって奴だ。


「しかし……」

「大陸を分断している守護樹血は今のままの方が絶対にいい。どちらかがオレ達みたいに突破したのならそういう運命なんだと思うが、王竜だっていつでも解ける守護樹血をそのままにしているのには何かしら理由があるからだろう。そこにお前みたいなのがノコノコ顔出して意見してみろ。良くて笑い飛ばされて終わり、普通なら殺される。最悪黒竜王の二の舞だ」


 そうなったらオレは全力で逃げるぞ。


「黒竜王の子供の遺体を返して代わりに大陸の分断を解除してもらう? そもそも勝手に奪ったものを勝手に殺して返しに行って要求を飲んで貰うとか誘拐犯の言い分と変わらないじゃねえか」

「そ、それは……」

「近づいただけで赤樹竜の眷属に殺されて終わりって事も考えられる。オレは反対だね」

「せ、せめて亡骸だけでも返したい! これは人間としてのケジメだ」


 別に殿下がやった訳じゃないだろうに。


「……亡骸を返すのはいい、でも分断の解除を伝えるのならばオレは反対だ。獣族のみんながライオネルのように強ければいいが、圧倒的に弱い種族の方が多い。人間をこの環境に混ぜるのは絶対に良くない」


 こちらに残る人間達は太陽神教という宗教と黒竜王の怒りという絶望に身を委ねているから独立した集団は発生しない。

 しかし外の人間は違う。自分達の欲に忠実な人間の典型がシルドニアの貴族にはいたし、それ以外の人間も信用できない。


「第一シルドニアはダランベールとの国交が始まったばかりなんだ。まずはそっちに注力すべきなんじゃないか?」

「むぐ」

「今は別の勢力と新しく関係を構築する必要はないだろ。自分の力だけで守護樹血の、草原の悪夢のエリアを突破出来るようにならない限り、獣族達のエリアに干渉するのは間違っていると思う」

「わたくしはどちらでも構わないと思いますが、代償を払うのが殿下の命だけでは済まないと自覚したうえで考えるべきだと思いますわ」


 ミリアもオレの意見に賛成という立ち位置だ。

 まあミリアの場合シルドニアと獣族が一つになれば、ダランベールとの国交に支障が出ると考えているかもしれないが。


「……赤樹竜様に、亡骸を返却し、謝罪にいく。その際に何も要求しないと誓えば、行っても構わぬか?」

「別にいいですけど、契約魔法で言動を縛りますからね?」


 最高品質の契約魔法を使うぞ。


「それでいいのであれば、行きたい」

「一度シルドニアに戻って遺書を書いてからにしてくださいね」


 アラドバル殿下が行うことは、基本的に殺される可能性があるという事だ。

 王竜にまつわる伝説の大半は基本的に滅びが絡んでくる。竜と人のラブロマンスなんて存在しない。『〇〇な事があり王竜の怒りを買って〇〇国が一夜にして消滅した』とか『王竜が〇〇領を滅ぼした。それは王竜の通り道で火が起きていたからだ』とかそういう話ばかりである。

 ハクオウとて例外ではない。オレ達とハクオウの付き合いが例外なだけだ。

 ハクオウの気分を損なえばダランベールだって消し飛んでもおかしくはないのだから。


「契約魔法も受け入れよう。遺書も書くし、兄や妻にも別れを伝えよう」

「こっちに来てる事も言えない様に契約しますからね?」

「も、もちろんだとも!」


 それでどうやって皇族のあんたが兄である皇王や奥さんを説得するんですかね?






「許可を取って来たぞ」

「殿下マジすげぇ」


 スーパーすげぇ。こっちに来ている状況を説明できないように言動を魔法で縛ったうえで遺書を奥さんに渡して皇王である兄を説得してきやがった。


「なに。お爺様と命懸けの修行をするからと伝えたら簡単だったよ」

「そうだった。こいつの兄もエルフだわ」


 ハーフエルフだけどエルフののうき……特性をしっかり受け継いでたんだ。


「それに私の耳を見て大層喜んでくれたぞ。もう本場のエルフ達と同じくらい耳は長いんだからな」

「そっちはどうでもいいわ」


 マジで。


「いいけど、あんま手伝えないぞ。こっちは忙しいし」

「むろんだ。ライオネル殿も同行してくれるそうだ。何人かそちらから人手を出してくれるそうだ」

「同行者全員、魔法で縛るぞ」

「分かっている。その縛りを受け入れる者だけで行こう。それと、魔法の袋を借りたいのだが……」

「あー、分かった。いいぞ、遺体が入るサイズとある程度の食糧や水が入れられる容量でいいか?」

「助かる!」


 魔法の袋は基本的にダンジョン産の超高級品だ。殿下も国に帰れば使える物があるだろうが、ここには持ち込んでいない。


「食料は自分で確保しておいてくれよ?」

「ああ。ここの行軍で使った分の余りを使う手はずになっている。むろん金は払う」

「その辺はいいよ。こっちとしては誰も出さないからな?」

「ああ」


 ここの浄化を聖騎士達が進めていて、その護衛に獣族の実力者や赤角族、獅子王騎士団の面々が駆り出されている。

 随時食料を生産して運び込んではいるが、そこまで余剰分はないはずだけど?


「なんでも赤角族の集落で作った食料が余り気味らしいからな」

「あ、なんかすいません」


 オレが原因でした。


「出発は明日だ。走竜で移動をし往復2週間程度らしい」

「1か月くらいして戻らなければ死んだと考えて?」

「構わない」

「了解だ。じゃあ……こいつを渡しておこうか」


 オレは1本の剣を取り出す。

 いま殿下が使っている剣と同じくらいの大きさで、更に上質な魔法剣だ。


「……良いのか?」

「出来る事なら帰ってきて欲しいですから。ただ王竜を怒らせてしまったら大人しく死を受け入れてください。抵抗しても無駄ですし、場合によっては殿下以外に報復に走る可能性もありますから」

「その時は私だけの命で勘弁して貰うように懇願するよ」


 覚悟の決まった殿下は、オレから剣を受け取り鞘から抜いた。


「見事な一品だ。エルフの里にもこれほどのものは……お爺様が持っているものくらいか」

「アレよりか程度は劣るけどな。風の魔法が付与されているから殿下との相性もいいだろうさ」


 ミスリル合金製の魔法剣だ。切れ味もいいぞ。


「これほどの品、無駄にしないようにせねばな……」

「矛盾するようですが、無事に帰ってきてください」

「ありがとう」


 殿下はそう言って腰の剣を取り、オレに差し出した。


「私が死んだら、その証として妻か兄に届けてくれ」

「恨まれごとを言われたくないです。もう一度言いますが、帰って来てくださいね」


 オレは殿下の剣を受け取ると、魔法の手提げに収納する。

 はあ。食事のテンションじゃなくなっちまったな。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[良い点] いいヒトなんだよな、王族として優秀なのかは解らんけど。
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