攻略準備の錬金術師②
「で」
「出た!」
「「「 出たぁぁ! 」」」
レドリックが慌てて槍を構え直すと共に、ミリアと栞も戦闘態勢に。
セーナが先んじて弓を構え矢を放つ!
薄い体に命中するも、軽く弾かれるだけで効果が見られない。
「やはり弓はダメですね」
矢はその性質上、体に刺さってダメージを与えるものだ。
セーナの弓がいかに強弓であっても、しっかり刺さらなければあまり効果が見込めないのである。
「はあああああ!」
だっちょんの上に乗ったイリーナが近くの地面から飛び出して来た魔物に切りかかると、見事に両断する!
空中で両断されたその魔物は、飛び出した勢いのまま地面へと落下して崩れ落ちた。
「硬いと聞いてはいましたが、対抗出来ないレベルではないですわっ!」
ミリアも同様に、着地したその魔物の正面から細剣を振るう。もちろん突き刺す形ではなく、振るって切る動きだ。
ミリアは【剣聖】と呼ばれる実力者。その剣は魔物を豆腐の様に切り刻み、あっさりと片付けてしまう。
「確かにねっ! っと!」
栞は地面から飛び出し、こちらに飛び込んできた魔物を空中に飛んで蹴り飛ばした。
ブレードは展開しておらず、魔物も空中にいたのでそいつを吹き飛ばすにとどまるが、吹き飛ばした先にやはり魔物が飛び出しており、それらをまとめて遠くに追いやった。
「かったぁぁ」
想像していたより硬かったようで、栞が驚きの声をあげた。
「噂通りというか、資料通りの見た目だな」
赤黒い葉っぱに手足がくっついたようなデザインの魔物。
そう表現すれば単純ではあるが、その明らかに硬質な手足は凶悪の一言だ。見た目がシンプルな故に危険な部分がわかりやすい。
そしてやはり目や耳、鼻の様な器官は見つからない。
平べったい姿から、突き刺し系の攻撃が有効打になりにくそうだ。
早々にそれを感じ取ったレドリックは槍の刃の部分ではなく、柄の部分での打撃を中心に行っていた。
平べったい体に亀裂が入ったその魔物が時たま吹き飛んでいく。
「聞いてはいたが、突進が厄介だ」
泣き言を軽くいいつつ、レドリックがその突進を正面から槍で受け止める。
足を止めたその魔物の上に飛びあがり、上部から槍を突き刺した。
「あ?」
そして槍が突き刺さったまま動き出す魔物。運ばれるレドリック。
「あほ!」
「うっせ!」
栞の罵倒に返事をしつつ、魔物を足場に槍を横に振るってその体を切り裂いて自由を得る。そのまま地面に降り立って魔物の体を掴んで、他の魔物に放り投げる。
「ちょっと、これって……」
「すげえな」
多いとは聞いていたが、これほどか。
ひざ下くらいから高いとろではオレの身長くらいある草原の中、その先にはその平べったい手足のついた魔物、魔物、魔物。
とんでもなく多い。
「っす!」
オレ達のところにもどんどん向かってくる。そんな魔物はセリアさんが盾で受け止めてジェシカがハルバードで叩き斬って対応。
ジェシカも随分強くなったな。
念のためジェシカが倒した魔物を魔法の袋に回収する。
「一旦引くぞ!」
オレは馬に跨って、エイミーの手をとり抱きあげる。
今ならまだ囲まれていない! 後方に退避が出来る!
オレの言葉にみんな判断が早い。
セリナさん、セーナ、レドリックもそれぞれ近くに待機させていた馬に飛び乗った。
だっちょんに乗ったイリーナも即座に退避、栞とミリアを包囲しようとしていた魔物をだっちょんに乗り蹴散らしながらミリアを回収。
栞は大地を蹴り上げ、更に空を何度か蹴ってセーナの乗る馬の後ろに着地。
「ダッシュダッシュ!」
「わかってるわよ!」
そんなオレ達目掛けて物凄い数の魔物がガシャガシャドスドスと凶悪な音と土煙を上げて追いかけてくる。
こえええ!
「み、みちながくん」
「だ、大丈夫。たぶん」
「うん。いくつか幻術かけてみるね」
オレの前で横乗りしているエイミーがオレの腰に手をまわしてしっかり捕まると、腕に取り付けていた幻魔弓から幻魔札をいくつか放っていく。
「視覚、効果なし。嗅覚も、聴覚もダメ。えっと、熱も違うみたい……」
「エイちゃんあぶねーぞ!」
「エイミー! こちらを避けてくださいませっ!」
先頭を走るオレとエイミーの馬から札が飛び出すのだ。その通り道にいたセーナとミリアから苦情があがる。
「魂? これもダメ? ええと、蚊みたいに息とか? でもどこから感知を……まあいいか。むう、これもダメなの?」
いくつもの幻魔札を放出し、展開していくが、後方から聞こえてくる追跡音に変化はない。
マジか。エイミーの幻術にひっかからないとかどういう生き物だよ。
「エイミー。ちょっと強くしがみついてくれ、柵を跳び越す」
「うん」
エイミーは幻魔弓を再び袖で隠すと、オレにしっかりと抱き着いて嬉しそうにこちらに顔をよせる。
「……そんな場合じゃないと思うんですけど?」
「だって、なんか新鮮なんだもん」
「まあいいか、口を閉じてて。舌を噛むなよ」
エイミーが頷くのを確認すると、オレは錬金馬に合図をして徐々に近づいて来る木の柵を目標に見据える。
疲れを知らない錬金馬は、嘶きもせずにその柵を綺麗なフォームで飛び越してくれた。
「さて、ここから先には向かってこないはずだが……」
後方のメンバーのために柵から離れつつ、魔物達の動向を探る。
そしてセーナ、セリア、レドリックが柵を飛び越え、イリーナも柵を飛び越える。
凶悪な足音を立てて追いかけてきたその魔物は徐々にスピードを落としていき、柵の手前辺りで動きを止める。
目がないから視線も感じないが、それでも何らかの方法でこちらの様子を伺っているように見える。
だが、それもやめると1匹、2匹と回れ右をして後退していった。
うわぁ、見える範囲で数百って数がいるんですけど……。
「すごかったねぇ」
「こ、怖かったです」
「エイミー、後でお話がありますよ」
「あうあう」
未だにオレにくっついてるエイミーが焦った声を出す。
「あれが『草原の悪夢』か」
「ああ、まさに悪夢みたいな光景だったな」
戦えば倒す事も出来るだろうが、あの数は問題だ。
どうしても直接的な戦闘が苦手なオレとエイミーが足を引っ張ってしまう。
さて、どう対応すればいいだろうか。