攻城の錬金術師⑦
「神聖なる光の矢!」
『ぐっふあぁ!』
白部先頭の元、左右にエルフが構えて侵入した城内。
城門を突破したあと、更に第二の門も破壊してようやく城内に侵入する事に成功した。
その城内に入ると、むせかえるようなにおいが鼻を刺激した。
そんな中、敵を撃破した白部が扉の先に視線を送る。
「この先、大広間でしたっけ?」
「ああ、しかしまいったな」
「鼻曲がりそう……」
「うん」
ちなみにイドはとっくに鼻が麻痺してしまったようだ。
「ええ、先ほどから襲撃はこちらから増員されている様子でした。あの先に何かいるのでしょう」
「ん、早く終わらせる……」
エルフの精鋭達の2人を白部の護衛につけ、残りはケンブリッジさんの指揮の元、城内に散っている。
残敵掃討の任務を与えておいた。なるべく城を破壊しないように言ってあるけど不安だ。
正門から城内に侵入していくつかの分岐を進み、城主たる王がいるであろう謁見の間。そこに向かうべく見取り図を確認しながら進んでおいた。
お城の割には随分と道が分かれてるなと思ったが、わざと通路を狭くして侵入者が大量に走れないようになっているらしい。
そういった分岐には必ず敵が配置されていた。例のマテリアルゴーストや、デュラハン、リビングアーマーといった中位から上位アンデッド達だ。
白部は『大聖女』だからか、アンデッドの潜んでいる位置が分かるらしく、どんどんそれらを迎撃、足止めを行いエルフの護衛にトドメをさせたりしていた。
偽物だけど頼もしい。
「ねえエイミー」
「はい? どうしましたイドさん」
「あの女、ライトの女じゃないわよね?」
「う、うん違うよ?」
「ならいい」
怖い事を言わないでくれ。
「エイミー、わたくしからも一つよろしいかしら?」
「はい、ミリア様」
「あの、幻術で、旦那様を増やしませんこと?」
「何を言い出すんですかね!」
「少々いい事を思いつきまして……主に夜に関する事ですけど」
「そ、そんなこと……ごにょごにょ」
「そんな事に使ったら、もう幻魔札作らんからな」
「し、しないよ!」
当たり前だ。普通の幻魔札だってトレントといった植物の木の系統の魔物から紙を作ったり、エイミーの魔力との融和性に合わせた上質な魔物素材が必要なのに、それよりもすべてのレベルで高品質の素材が必要なのだ。
作るのもそうだが、もう材料がない。素材を集めるのも大変なのだ。
「残念ですわ。二人の旦那様から責められたりしたら……」
「やめーい!」
本当にヤメテくれ、考えただけでおぞましい。
「そ、そもそも、み、道長くんは、無理だよぅ」
「え? どうして?」
「だって、毎日かっこいいところが、違うもの」
そう言って赤くなるエイミー。
「どうよ、オレの嫁さん可愛いだろ」
「エイちゃんはあたしんだ!」
「エイミーは可愛い妹。でもその胸は生意気」
「ふふ、本当ですわね」
「ねえ、緊張感が薄れるんだけど。それと光君、そんな爛れた生活を送ってはいけないわよ?」
「すんません!」
幻術に作られた白部が一番まともだ!
「蚊帳の外っすね」
「あそこにゃまぜれねえわ」
「あれが王の器だというのか……流石は使徒といった所か」
「マスター達は仲いいですね」
「ご主人様ですから」
「あるじ! イリーナも! イリーナも!」
「「「 にゃー!! 」」」
後ろの人達、うるさいでーす。
「スポーンマザー……こんな大きいの」
「冥界でもこんな大きいのは珍しい、ね」
「「「 こわいにゃああああああ! 臭いにゃああああああ! 」」」
スポーンマザー。
大きく黒い岩のような体に同じく手や足、目や口や耳が統一性もなくごちゃごちゃと生えているアンデッドの魔物だ。
その特性は瘴気を取り込んで、アンデッドの魔物を生み出す事だ。
生み出す魔物に統合性はなく、周りの環境に合わせたアンデッドを適当に生み出すのだ。
今回グールではなくスケルトンが中心だったのは、ここの環境がグール向きだったからとかそんな話だからだろう。
『く、ここまで侵入されるとは!』
『だがまだだ! 我らが力を今見せる時!』
オレ達が広間に入るや否や、黒い岩にある口から次々とアンデッドが吐き出される。
その際にその体にうっすらと血管のような物が浮き上がり脈動する。
においの原因はアンデッドが吐き出される時に同時に排出される唾液のようなものだ。
「神聖なる領域」
『ぎゃああああああ!』
『ぐああああああああああああ!』
『『『 ゴオオオオオオオ! 』』』
吐き出されたばかりのアンデッド、マテリアルゴーストが悲鳴をあげ、スケルトンが砂になり、深淵の騎士が膝をつく。
そしていくつもある口から様々な声色の悲鳴を上げるスポーンマザー。
口からは吐しゃ物も吐き出されている。
神聖なる領域、これは一時的に自分のいる場を聖域とする魔法。悪しきものを退けて回復魔法や聖に属する魔法の威力を増大する効果のある魔法だ。
流石に上位に位置するマテリアルゴーストや、同じく上位にいる深淵の騎士はスケルトンのように消滅しないものの、この場にいるだけで体から闇色の煙が出ている。
スポーンマザーの等級は知らないが、それでも苦しんでいるようで口や目、耳から闇色の煙が噴き出している。
「今更なんだけどさ」
「お?」
「エイちゃんの魔法なのに聖属性の魔法になってるんだね……」
「そういえば」
栞の指摘の通り、白部を象っている魔力はエイミーの魔力だ。幻術がどのような属性で構成されているか良く分からないが、闇と光の属性が基本のはずだ。
しかし幻術の白部が放っている魔法は聖属性の魔法だ。
「清浄なる刃」
『『『 ギイイヤアアアアアアアアアア 』』』
ダメージを受け、口という口から苦悶の声を呻いていたスポーンマザーの口から絶叫が生まれる。
口がたくさんあり、声もでかいので大分うるさい。
「くっ!」
「ぐうっ!」
「なんだっ!?」
「「「 にゃああああー! 」」」
その叫び声を聞いて、エルフの二人が片膝をつく。
アラドバル殿下も耳を抑えているが、距離がある程度離れているからかそこまでダメージを受けていない。
猫達三人は大慌てで離れていった。
「く、これは、呪詛か」
「大丈夫ですか? いま強化しますね」
白部はそう言うと、神聖なる領域に更に力を加えて強化を行った。
その余波を受けてマテリアルゴーストの体が更に薄まっていき、深淵の騎士が地面に臥せる。リビングアーマーは耐えきる事が出来ず、足からヒビが入り割れ、立っていることもできなくなってしまった。
「奏、恐ろしい子」
「アンデッド特攻っぷりが酷いな」
「白部さん流石だよね」
「カナデ、相変わらずですね」
「えー、こんなに強力だったでしょうか?」
「まああの白部はエイミーの想像の産物だしな……」
白部を直接知るみんなの感想がこれだ。
エルフ達が持ち直し立ち上がる頃、スポーンマザーの体に亀裂が入っていく。
その亀裂は飛び出していた無数の手足を分離させ、耳も地面に落下。全身に亀裂が走ったころには、その姿が部分部分で崩れていく。
「神聖なる雨」
更にダメ押しと言わんばかりに白部が魔法を放つ。
オレのライトニングシャワーの魔法の元になった魔法、神聖なる雨だ。白部の聖なる魔力が宿った水。つまり聖水。それを上空から雨のように降らせる魔法である。
もはや虫の息となっていたマテリアルゴーストはその雨を受けて人の形を失っていった。
巨体を誇る深淵の騎士に、同じく大きなスポーンマザーももはや叫ぶ力も残っていない。
リビングアーマーは既にその姿を消している。
「こんのものかしら?」
「やりすぎじゃね?」
「ええ? だってアンデッドなのよ? そもそも臭かったし」
「異臭を洗い流したかっただけかよ」
この辺はオレの知っている白部だな。
聖水に濡れた髪の毛を手櫛で梳かしつつ、その先に視線を送った。
「勝ったミャン?」
「もう怖くないニャム?」
「やっつけたニャル?」
「もうお前ら帰れよ」
守るのにも負担があるんだから。
「この先に王の間があるのよね?」
「ああ」
「……多分、高位のアンデッドがいるわ。今のみたいなのじゃなくて、戦闘に特化してる奴が」
その言葉にエルフ2人とイドが目を輝かせる。
白部の感覚すごくない?




