攻城の錬金術師⑤
「討伐完了致しました!」
「ご苦労様。聖堂に先に向かったチームに合流して聖域の作成を行ってください。余力があれば周辺の浄化も」
「出来るだけ寝床も用意しておきます!」
「お願いします」
大物であるドラゴンゾンビはすべて倒した、城下町内ではいまだに路地やら家やら商店からスケルトンが現れているが、それらは獅子王騎士団や赤角族の敵ではない。
太陽の光が強く当たるチロロの作った道であれば、ゴースト類は先ほどのマテリアルゴースト達以外出てこれない。
マテリアルゴースト達との戦いで獅子王騎士団の半数以上のメンバーがダメージを負ったが、思っていた以上に損害が少ない。
それもこれもエルフ達の活躍があったからだろう。
そんなエルフ達は「あのスケルトンは凄かったな、腕が6本もあって面白かった」とか「リッチの魔法程度でダメージを受けるとは」とか楽しそうに話をしている。
どうやら通常よりもかなり強い個体が中には混じっていたようだ。
本来は英雄クラスの人間が戦い苦戦をする相手でも、全員が人間の英雄クラスであり、それでも未熟者と言われるエルフ達だ。
突撃バカが多いが頼りになる戦力である。
「エルフはこのまま街に散ってスケルトンやゴースト達の相手をお願いします。くれぐれも、くれぐれも単独行動は控えて、森の中のように3名以上で行動をお願いします」
「「「 おう 」」」
「以前からの調査で、スケルトン系列以外のアンデッドがもっといるのが分かっています。街の西の区画、冒険者ギルドのあった区画が特に強い個体がいるそうです。そこは精鋭部隊の皆さんでお願いします」
「「「 おう 」」」
「ケンブリッジさん。アラドバル殿下から目を離さないでくださいね」
「確かにの、あの程度のゴーストも瞬殺できぬようではまだまだひよっこか」
「も、申し訳ございませんお爺様」
「良い良い、孫の成長をみるのもじじいの楽しみじゃての」
「お義父さんも、ケンブリッジさんと殿下をお願いしますね」
「うむ、任せてくれ婿殿」
その返事にオレは頷く。
「ライオネルさん。負傷者をまとめて後方に。貴方も負傷者ですからね?」
「わ、わかっとるわ!」
「ポーションで怪我は治ってますけど、失った血は戻りませんから。後方で造血剤を飲んでも一日は休むように」
「おうよ!」
「無事な獅子王騎士団はミリアの下に。聖堂の周辺の安全を確保します」
「わたくしが指揮をしますわ」
「「「 よろしくおねがいします! 」」」
「セリアさん、イリーナ。と、トーガ達はミリアの警護を頼む」
「ええ」
「はい!」
「お仕事だニャン!」
「任せるニャル!」
「腕がなるニャム!」
……現状一番戦力の整っている聖騎士達と獅子王騎士団の中にいればトーガ達は安全だろう。
あれだけ気張って連れてけコールをしてきて、置いて行こうとしたら馬車に潜んでいたこいつらだが、戦いが始まって近くまでスケルトンが来たら大騒ぎだった。
心配すぎる……。
今度トーガ達専用の装備でも作ろうかな?
「オレ達は王城方面だ。突入は明日の早朝だが情報を集めれるだけ集めたい」
オレとイド、栞、エイミー、リアナ、セーナ、ジェシカ、レドリックだ。
「気をつけて」
「ああ」
ミリアに軽く抱き着かれたので、彼女の頭を撫でる。
「行ってきますわ」
「そっちも気を付けて、後で会おう」
ここで下手に何か言うとフラグになるかもしれないから、軽い調子でお互いに別れる。
王城を守っている近衛兵は片付けたが、あれだけって訳じゃないはずだ。
夕方になり、調査を終えたオレ達は聖騎士達が解放した聖堂に辿り着いた。
殿下を含めたエルフ達も大半はこちらに集合しており、ミリア達も既に合流していた。
「ゴーストが多すぎですわね。これ以上の活動は無理ですわ」
「ああ。活動しようと思えばできるだろうが、満足に行動ができん」
そう。太陽が赤く染まりだしたころから、スケルトンだけでなく大量にゴースト達が溢れ出てきたのだ。
空を自在に飛び回り、壁をすり抜け、地面からも顔を出すゴースト達。
物理攻撃の類が効かず、一般の兵士達の持つ武器ではダメージが与えられない厄介者だ。魔剣を使ったり魔法で倒さないといけない。
元々は神聖な力で覆われていたハイランド城下町の太陽神教の聖堂、そこを中心に聖騎士達が聖域の復活と、周辺の土地を魔法と聖水による浄化をしてくれたのでここらへんにゴーストは近寄れない。
それでも聖域の外に視線を向けると、幾千、万にも数えられるゴースト達が大騒ぎである。
空の三割がゴーストで埋まるほどだ。
「冥界でもこんな光景なかったよー」
「うん、近くの冥界門が機能してないのかも」
冥界事情に詳しい栞とエイミーが気味悪そうにゴースト達の群れに視線を向ける。
「ごめんなさい、旦那様。思いのほか被害が……」
「いや、そもそも倒壊した建物が多いのは分かってたんだ。対策を怠ったオレのミスだよ」
被害が出たのはミリアが連れていた獅子王騎士団と赤角族の混成チームだ。
スケルトン達が無限と言える程湧き出る土地で、聖堂の中に入り聖騎士達は祈りを捧げて聖域を復活させた。
その聖堂を確保するために、移動していた道の建物などがゴースト達によって崩されたりし、何人もの兵が被害を受けた。
聖堂を確保後にも、周辺に安全な土地を作る為、土地を浄化し聖域を広げようと聖騎士は活動していた。
それらを護衛していたのはバステト族や赤角族だ。
ゴースト達は倒壊している建物のがれきなどを使ったり、瓦礫の上を通過していたメンバー相手に攻撃をしかけてきた。
ゴーストも日中とはいえ、活動できなかった訳じゃなかったのだ。建物の中や路地裏などからこちらの様子を伺っていた。
そんなゴースト達の、影から影へ逃れるようなゲリラ戦術に随分苦しめられたのである。
夕方に差し掛かると、更にゴーストの量が増え今はもうお祭り状態だ。実際にお祭りのようにゴースト達の笑い声や歌声、それとそれ以上のうめき声がそこら中に響き渡っていいる。
中にはレイスやパンシー、テラーヘイラーといった中級以上のゴーストの姿も見え始めてきた。特に耐性の低そうなバステト族や赤角族達は聖騎士達が作り出した聖域へ押し込んで、そこから出ない様に厳命している。
耐性がある聖騎士達は、聖域の強化と維持にローテーションを組んで対応しているから手が空いていない。
エルフ達の一部は外に出て上級アンデッドを求めて彷徨っている。連中は夜目も効くし、アンデッドであろうとも魔物ならばいくらでも感知して戦いを挑んでいる。アンデッドよりアンデッドしている気がする。
戦いに疲れたり飽きたり、満足した者は酒盛りをはじめて大騒ぎだ。
一応里でも実力者に数えられているケンブリッジさんが統率してくれているが、あまり信用できない。
もう好きにしておくれって感じだ。
……お義父さんはイアンナの可愛さ談義をしている。正直そっちに混ざりたい。それとイアンナが可愛いのはイドが可愛いからだ。そっちの自慢もするべきである。
「ライト?」
「なんでもない」
本当になんでもない。
流石に拠点は出せないので馬車だ。
そこから転移ドアを使って、都で大量生産させている食事をこちらに運び込んで食わせている。
その他獣族の面々、第一から第八部隊は城下町の外に作った簡易の基地にいる。
城下町からかなり離れている分、ゴースト達もこないしアンデッド達もあまりこない地点だ。
「それで? 王城はどうなのだ?」
アラドバル殿下は、戦略的な話が出来そうなのでこちらに合流。
明日は王城の攻略だ。今日のような数に任せた戦いがしにくいので少数精鋭……エルフによるゴリ押しの予定だ。
「城壁には多数の弓兵とリッチ系統と思われる魔導士が多数配置されていました。弓兵は射程がそこまでじゃないからイドやセーナが撃てば射程外から攻撃できたけど、あんまり続けても対策されるだけじゃないかな」
「そうね、2,30体は弓兵撃ったけど顔を隠されたわ」
「セーナの矢が魔法で弾かれたしね」
「ぜ、全部じゃないわよ!」
ある程度攻撃を続けたら魔法の使える魔物に障壁を張られてしまった。
イドもセーナも力と魔力を込めれば破壊できると言って、実行していた。
そうなると城門からアンデッドが群れて出て来た。
昼間戦ったマテリアルゴーストだけではなく、深淵の騎士やらリッチやら。見た事のない魔物もいた。まあアンデッドだろうけど。
かなり距離を取っていたので、出て来た瞬間に撤退させて貰ったのでこちらの被害は使用した矢くらいのものだ。
「海東くんみたいな、広範囲魔法が欲しいね……」
「あいつがいたら建物ごと吹き飛ばしちまうかもな」
「あー、後半結構すごかったよねぇ」
アンデッドがいつでるか分からない場所で土木工事と解体作業するのは嫌だ。
「でだ、これがハイランド城の見取り図なんですけど」
「当然のように持っているのだな」
「ええ、陛下に閲覧許可を貰いましたので写しました」
ドリファスが。
「ハイランド城の制圧はエルフ達に任せて、オレ達は援護に周ります」
「おい」
「ちょっとスケルトンやゴーストではエルフ達が満足しなそうなんですよね。手数が多くて実力がイドクラス……とまではいかなくても、人間で言う英雄レベルがゴロゴロいるんですから、活用しましょうよ」
「むう、しかしだな……」
「オレの嫁さん方が怪我をしないならその方がいいし。エルフ達を巻き込んだ以上は、もう全力で使いますよオレは」
「そうか、ならば城の周りや城下町の制圧はどうするのだ? このままではゴーストが片付かないだろう?」
「城下町は放置しますよ? 城の制圧は調べ物の関係上必須ですが、城下町は対象じゃないですから。聖騎士達の半数はここの聖域の維持に、残りの半数と獅子王騎士団を使って城を制圧します」
荒廃してアンデッドに支配されている城下町はどこか物悲しい……はずである。エルフの笑い声や歌が聞こえてこなければ。
「オレは地下にある召喚陣を調べられればいいだけですからね。それにこの広さの汚染された土地を浄化するには借りてる聖騎士達では人数も聖水も足りないでしょうし」
「それはそうだが」
「オレがハイランドの関係者であれば故郷の復興をと考えるかもしれませんけどね。オレは外様の人間ですし、殿下もですよ? こんな飛び地はシルドニアでもいらないでしょう?」
「まあ、そうだな……そもそも人に言えん、か」
「ですです」
この土地自体を諦めるのに難色を示す殿下に苦笑して答える。
そして再び表情を引き締める。
「城下町を囲う壁が修復されている以上、ハイランド城も修復されていると見ていいと思います。中が大幅に変更されていればこの見取り図も役に立ちませんので、参考程度に聞いてください」
「うむ」
既に何度もミリアと話し合った内容だが、一応アラドバル殿下に再度説明をする。
「王城は外門、中門、そして城の構成です。外門、我々が見えてる外壁部分ですね。そこの周りは平原になっております。まあ今は荒廃した岩場みたいな感じですけど」
「ああ、アンデッドの影響で草木が生えなくなるのは良く聞く話だ。城下町から離れているのだな」
「恐らく侵入者対策の一環でしょう」
城下町の建物と、城の外門の間には空白地帯がある。
「……確かに、城下町で反乱などが会った時には有用だな」
「そうならないようにするのが王族の務めですわ」
王族さん達はいちいち重い。
「外門の間の空白地帯。ここに兵を集中させる、と思うんですけど……」
「歯切れが悪いな」
「相手が人間じゃないので確証が持てないんです」
「そうなんですわよね……ゴースト系の魔物は壁も地面も関係無しですし」
「城となると遮蔽物が多いからな。目に見える位置に敵がいても、それ以外から来ない保証はないか」
殿下の言葉にオレとミリアが頷く。
「そもそも主力がエルフですから。細かい作戦を考えてもしょうがないですし」
「ん、流石ライト。わかってる」
思わず脱力するオレとミリアと殿下、そして小さく笑う栞とエイミーだ。
「とにかく、敵が来たら倒す。聖騎士達に城の浄化を頼むから、聖騎士達を守るの精神で頑張ろう」
とりあえず外壁の確保が最優先だな。




