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攻城の錬金術師④

『我らが守護竜が!』

「ふっ!」

『ぐっほっ!』


 オレ達の眼前では獅子王騎士団所属のバステト族とエイミーのいうマテリアルゴーストの戦いが苛烈を極めていた。といっても劣勢であるように見える。

 最初のぶつかりの際に、物理攻撃のみでぶつかったバステト族の騎士達は負傷を、中には一撃で致命傷を負った者もおり、それらの作った穴が未だに埋まっていないのだ。

 指揮官であり、一番の使い手でもあるライオネルも、複数人を相手にしなければならない状況で苦戦を強いられている。


『負傷者を狙え!』

「負傷者を下げろ! これ以上の損害は看過できぬ!」

「何が騎士団だ! 弱者から狙うか!」

『我らは騎士だ! 国を守る為ならばどんな汚いことだってしよう!』

『このような体になった時点で汚いも何もない! 我らは王を守護するのみ!』

「守る国などなかろうが!」

『王さえいれば国は成る!』


 マテリアルゴースト達の攻撃は、ただの皮鎧程度ならば通過してしまう。

 その為バステト族達は常に全身に炎の魔力で覆っていなければ、彼らの攻撃をほぼ無条件で受けてしまうのだ。

 鎧による防御が期待できない以上、魔力による防御力の向上をするか、すべての攻撃をかわすしかない。


「甘いわっ!」


 そんな中一人で3人ものマテリアルゴーストの相手をするライオネルは、すべての攻撃の回避を行っていない。

 攻撃に合わせて、最も魔力を通わせている爪でその攻撃を受け、致命傷に繋がらない攻撃であればあえてその身を晒している。


『部下を庇うか!』

「庇われるような軟弱な部下などおらん!」

『随分と立派な物言いよ! だがいつまで持つかな?』

『そら!』

「ガルルルルル!」


 獣の、獅子の嘶きを放ちながらライオネルはそれらの攻撃を一身に受けつつ、隙を見て攻撃を繰り出そうとする。

 しかし、ライオネルの攻撃は手の爪。相手は剣や槍を持った騎士だ。

 攻撃範囲に違いがある以上、ライオネルが反撃を行うには常に身を晒す危険を伴っている。

 ライオネルの表情に焦りが生じた時、オレの頼もしい仲間が彼の近くに到着をした。


「せいっ!」

『ぐっ! くあっ!』


 突如ライオネルの横から伸びた槍の一撃。

 その攻撃を何とか小盾で受けたマテリアルゴーストだが、勢いに負けて後ろに大きく後退を強要された。


「よっと、っす!」

『がふっ!』


 そしてバランスを崩しかけたマテリアルゴーストの直上から重い一撃が叩き込まれ、その体に吸い込まれる。

 槍はレドリック、斧はジェシカだ。


『貴様っ! ぬうっ!』


 ライオネルを攻めていた3体のマテリアルゴーストの1体が倒れ、体が消えていく。

 ハルバードを地面に振り下ろし、動きが一瞬止まったジェシカに冷静に攻撃しようとしたマテリアルゴーストの一人の肩に、一本の矢が刺さる。


『どこから』

「ガアアア!」


 矢が刺さり、一瞬動きが硬直した隙にライオネルの喧嘩キックがさく裂。

 一体が倒され、一体は蹴りにより転倒。それを庇うように最後の一体がライオネルに剣を振るいつつ、3人を警戒する。


「ご主人様、もう射線が通らなそうよ」

「いや、いい仕事だ。狙えそうならまた頼む」


 先ほど矢を放ったのがセーナが次の矢を構えながら言う。

 オレ達の前にもスケルトン兵と戦っている赤角族がいるし、ライオネル達も獅子王騎士団とマテリアルゴーストの混戦状態だ。

 一度でも矢を通せた。それだけでもセーナの技は神がかっている。


「ところでご主人様。あの人いいの?」

「「 あ! 」」


 オレとセリアさんの声が重なる。視線の先にはマテリアルゴーストと切り結んでいる殿下だ。

 ちょっと目を離した隙に!


「エイミー、イリーナは姫様から離れない様に。セーナは付いて来てくれ」


 オレの指示にエイミー達は頷き、セーナは弓を魔法の袋に仕舞い腰の剣に手をかける。

 オレはセーナを伴って前進を開始。獅子王騎士団の背後に構え、怪我をした獅子王騎士団の面々に代わろうとしていた太陽神教の聖騎士達の後ろで杖を構えた。






「殿下! 下がってくれ!」

「そうっす! 邪魔っすよ!」

「邪魔とは言ってくれる!」


 レドリックの武器は火と風の混合属性武器で、持ち手が魔力を込めずとも元々纏った属性によりゴースト類にもダメージを与えられるようになった魔武器だ。

 ジェシカの武器もそう。今回の戦いの為、白部印の聖水を使って作ったハルバードだ。

 それに対し殿下の武器はエルフの里の剣だろう。

 半年程度前まで魔導炉が無かったシルドニアの剣と比べれば業物だろうけど……。


『殿下? 他国の軍勢であったか!』

『城下町まで侵入を許すとは!』

『打ち取れ! 首を取れ!』


 レドリックの不要な一言にアラドバル殿下へのヘイトが増える。


「やべっ! そおいっ!」


 そんな集中戦力をまとめて槍で牽制し、一度に4体ものマテリアルゴーストを相手取り殿下の横に立つレドリック。

 ジェシカも逆側に立ち、マテリアルゴーストにハルバードを振り回す。ジェシカのハルバードはマテリアルゴーストの剣を腕ごと簡単に破壊していく。


「ジェシカ、やりますね」

「ゴースト系が持つ武器は自分の体の一部みたいなものだからな」


 恐らく剣も連中からすれば自分を構成する力の一つだろう。生前の物を再現しているのだから。


『こやつら、手練れ……』

『あの槍使いは厄介だ。既に何人もの同志が狩られた』

『あの武器とは打ち合えぬ! 回避だ! 食らえば鎧ごと体が消滅するぞ!』

『総員! 後退っ! 別れの陣!』

『『『 はっ! 』』』


 マテリアルゴーストの騎士団、その中の指揮官と思われる一体が声を上げる。その声に呼応するように攻撃を進めていたマテリアルゴースト達は背中を見せずにジリジリと下がる。


「追撃をするな! 手痛い反撃に合うぞ!」


 アラドバル殿下が声を張り、獅子王騎士団の面々と一部残っていたエルフ達の行動を制御する。


「こちらも一度体制を立て直す! 負傷者を下げよ! 獅子並びに我が同胞は中央へ集結! 左右に聖騎士隊を並べよ!」


 ジェシカが困った顔でこちらに視線を向けて来たので、オレは頷いて返す。

 レドリックは殿下の前に立ち、警戒を解いていない。


『見事な統率である! 我はハイランド王国第1近衛騎士団! すまぬが名や肩書までは覚えておらぬ!』

「我が名はアラドバル=ハイナリック=シルドニア! シルドニア皇国第一王位継承者である!」

『返礼ありがたく! ここは戦場のしきたりに従い一騎打ちを願いたく!』


 あ、こらあかん。


「心得た! 我が剣の錆になりた」

「心得んな!」


 気持ちよく口上を垂れている殿下の後ろから蹴りを入れる。

 そして殿下はもんどりうって頭から地面に倒れ込んでしまう。


「ちょ、何するんだ!」

「ざけんな、何が一騎打ちだ。勝手に決めんな潰すぞ」

「……きみ、そんな乱暴だったっけ?」

「殿下はただのエルフとしてここに来たんだろうが」

「むぐ」

「指揮に口を出すのは構わないけど、これはオレが始めた戦いだ。勝手に命を賭けんな」


 オレは殿下の前に出る。


『魔法使いか』

「嫌いか?」

『戦である。好きも嫌いも言えぬのは当然であろう』

「そうか。まあいい、セーナ!」


 オレは懐から素早く一つの球を取り出して、連中に投げる。

 その球は空中でセーナの矢に射抜かれて、二つに割れる。そしてその中からオーロラのような青白い光の波が溢れ出した。


『がああああああ!』

『いぎゃああああああ!』

『ながああああ!』

「聖騎士隊突撃! 連中がまともに動けない内に止めを刺せ。あれは騎士という形を残したアンデッドだ。確実に息の根を止めろ」

「し、しかし」

「殿下は残ってください。動けない内に殲滅しろ! 使徒としての命令だ!」

「「「 はっ! 」」」


 聖騎士達が前進を開始、清浄なる光に包まれたアンデッドであるマテリアルゴースト達は全員、激痛に苛まれもはや立っていられない状態だ。


「ひとまず聖騎士達が連中を片付けるのを待とう」

「……何をしたんだ?」

「あれは聖光玉っていう、対アンデッド用の手投げ弾です。錬金術で作れます」


 素材は天界にある聖光石や神聖水、浄化楓など。天界にいけさえすればいくらでも手に入る物だ。

 それを野球ボールくらいのサイズのカプセルに入れておいたものだ。

 そこから発せられる光は、アンデッドに対して致命的なダメージを与える。今回のアンデッド対策に用意しておいたものの一つだ。


「彼らは国を守ろうとした騎士だった」

「彼らの国はもうありませんよ。守りきれずに、滅んだのですから」


 オレの言葉に殿下は苦々しい顔をする。

 殿下は騎士団にも籍を置いている身だ。彼らになにか、思うものがあったのかもしれない。

 視界の端でチロロがドラゴンゾンビを、エルフの精鋭部隊がもう1体のドラゴンゾンビの撃破に成功していた。

 太陽はまだお昼にさしかかったところ。

 よし、まだ時間はあるな。

書籍化ぁぁぁぁぁぁ!


挿絵(By みてみん)


MFブックスより、2023年4月25日発売です!

イラストはでんきち ひさな様が綺麗に仕上げてくれました!

表紙があって挿絵が入ってて、一部書店では書籍限定のSSがついております。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 守り切れず滅んだ、というか欲を出して余計な事をしでかしたせいで、自国が滅んだだけで済まなかった駄目な人たち。
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