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攻城の錬金術師③

「赤角族!」

「わがりましたべ! いくぞおめえら!」

「「「 応っ! 」」」


 ミリアの合図に大きな返事をするのはロドリゲス大族長だ。

 城壁の上のスケルトン弓兵やリッチ達があらかた排除出来たので、次は門の破壊だ。

 この手の門はかなり頑丈に出来ている。魔法耐性も強い希少な魔法金属でできているのが普通であり、ハイランドの門もその例に漏れない。

 エルフ達を集めて攻撃魔法を集中させれば壊せるだろうが、魔力の無駄以前にそんな統率の取れる生き物ではない。

 結局力でこじ開けるのが一番だ。


 ロドリゲス達は2人一組になり、太い木の杭を持った。

 先端を尖らせて、ちょいと真ん中から後ろ側を細工をした攻城兵器である。


「「 ゴオオオオオオ! 」」


 雄たけびを上げてロドリゲスのペアがまず門にその杭を先端から叩きつけた。

 その杭は扉を貫通する。


「次っ!」

「「 応っ! 」」


 ミリアの合図でその杭が更に追加される。

 門自体はとても大きい。なので上の方には杭は突き刺せないが、それでもロドリゲス達が肩に担いで叩きつければ3メートル程度の高さに刺すことができる。


「ミチナガさま」

「あ、みんな。もうちょい離れてくれ。耳も塞いでね」


 オレも耳栓を付けるのを忘れない。

 そして手に持った起爆用のボタンをぽちっとする。

 その瞬間に杭が爆発。扉を周りの城壁ごと吹き飛ばした。


「さあ、次はリアナの番ですわ」


 土煙もまだ晴れぬ中、どこかゆっくりした言葉を放つのはミリア。

 その言葉にリアナは手に持っていたバスケットを地面に降ろした。


「チロロ、もういいですよ」


 そのバスケットの中から出てきたのは、今やハクオウの眷属竜であるチロロだ。

 手も足もないただの蛇だが眷属竜だ。

 言葉も発しないチロロは体をウネウネと蛇行させつつ、徐々にその本来の大きさを取り戻していった。


「……またでかくなってないか?」

「何食べてるんだろうね」

「「「 怖いニャン! 」」」


 つい先日まで一般的な(?)大蛇と呼べるサイズだったチロロだが、今はただの怪獣である。

 何かの役に立つかもしれないから連れていけと、ハクオウがチロロに直接指導をし小型化の魔法を覚えさせたのだ。それでも大蛇だけど。

 無事に小型化に成功したチロロだが、今は小型化の魔法を解除しつつ前進。

 爆発により空いた穴を通り、そのまま城下町まで突っ込んでいった。


「おっけー! チロロ真っすぐ進んで!」

「左側は、貰うわ」

「させぬぞイドリアル! 空を進むな卑怯じゃ!」


 チロロの役目は大まかに2つだ。

 先ほどの爆発だったり、過去の戦いが原因だったりで城下町は中々真っすぐ進めないのだ。

 そんな瓦礫を拭き飛ばして貰いつつ、城下町に城までの道を作って貰う役目。

 そしてもう一つが、城下町内の城に近い位置にいるドラゴンゾンビの相手である。

 人間の街がゴーストタウンになったところだが、その原因となった黒竜王の眷属竜達もこの街で多く力尽きている。

 それらの亡骸はそのままになっており、気が付くとアンデッド化していたのだ。

 討伐されることも昇天することなく。

 3頭確認されていたそれの力は未知数だ。

 普通の竜ならまだしも黒竜王の眷属が素体のゾンビ。ハクオウ程の大きさはないが、十分に大きいそれが弱いわけはないだろう。

 外のスケルトン達と違い、腐肉も残っている。


「ああ、やっぱな……」


 チロロが勢いよく瓦礫を吹き飛ばし道を作りながら壁内に吸い込まれていく。住人がいる街でこれが起きたら大惨事だっただろう。

 しかしその太い体が引きずられた跡は、砂ぼこりが少ない。

 よって見通しが良くなる。

 チロロが蛇行しつつ旧ハイランド城の手前まで進み、そこで方向転換。

 ドラゴンゾンビに城を破壊されてはたまらない。チロロの巨体を使ってドラゴンゾンビをおびき寄せるのだ。


『野蛮な侵入者に裁きを!』

『おおおおおおお!』


 城から何かが出て来た。

 騎馬に乗った騎士に見える。まあアンデッドだろうけど。

 100騎近くいるように見える。チロロの作った道があるから進軍が早い!


「マテリアルゴースト! あんなのもいるの!?」


 うちのアンデッドの専門家さんが驚きの声を上げる。


「前面で展開せよ!」

「あ、待って!」


 その敵に即座に反応したのはドラゴンゾンビに釣られなかった一部のエルフ達と獅子王騎士団。

 先ほどの声はライオネルだ。

 バステト族の雄たけびが大きく、エイミーの制止の声が届かない。


「不味いのか?」

「物理攻撃が、効かないの」

「マジ?」


 コクン。とエイミーが首を縦に振る。

 その言葉に顔色を変えたのはミリアとアラドバル殿下。


「聖騎士隊! 半数は前へ! 聖なるエンチャント! エイミー、詳しく教えてくださいまし!」


 だっちょんに乗ったミリアがこちらに駆け寄ってくる。


「マテリアルゴーストっていうのは、生前の能力をそのまま引き継いだ魔物なの」

「ゴースト、なのよね?」

「うん。属性ののっていない攻撃は体を通過しちゃう。でも向こうの攻撃は普通に当たるよ」

「弱点は?」

「そこはアンデッドだから火とか光……でも、その辺も生前の装備の性能もあれば効かない事も。個体によって核の位置が違うし」

「ライオネル! 下がれ!」


 絶対に聞こえないだろう位置まで行かれちまってる!


「がああ!」

「ぐうっ!」

「ゴーストだ! 爪が効かんぞ!」


 獅子王騎士団の面々から悲鳴があがる!


「身体強化だ! 己が炎を顕現せよ!」

『全員下馬! 侵入者を討伐せよ! 獣畜生を駆逐するのだ!』

「良い練度だ! 血が滾る!」


 そんな中ライオネルと敵の騎士の指示、それとエルフの喜声が交差する。

 その声に顔をしかめるミリアはだっちょんを操って地面から屋根、屋根から城壁に登る。


「姫様!?」

「一度高い位置で戦況を確かめますわ!」

「イリーナ!」

「はい!」


 馬にも乗らず戦っていたイリーナがオレの声に察してミリアの護衛についてくれた。


「エンチャントを終えた聖騎士達は獅子王騎士団の後方に配備! 残りは予定通り教会を目指してください! エルフ達! いつまで城壁の上で遊んでおりますの!? そちらは第六、第七にお任せなさい! 更なる強敵がおりますわよ!」

「「「 待ってましたぁ! 」」」


 拡大された声でミリアが指示を放つと、城壁の上でなお戦っていたエルフ達が飛び降りて来た。

 オレ達の後方にいた第六、七隊はすでに第八の援護を貰いつつ、一部城壁にとりついている。


「第一、第二は壁内に侵入許可! 城壁付近の敵を順次粉砕! 第三、第四は壁外の残敵掃討! 第五はわたくしたちが空けた門の守護についてくださいまし!」

「「「 うおおおおおおおおお! 」」」

「「「 グロオオオオオオ! 」」」


 人と獣の入り混じった返事が戦場にこだまする。

 それをミリアは確認すると、再び城壁から降りて来る。


「ミリア様! お一人で勝手をしないでください!」

「想定外の事が起きたのです。一度確認せねばなりません。リアナ、獅子王騎士団の怪我人が下がってくるはずですので治療の準備を」

「かしこまりました」


 医療隊は開戦時のオレ達が位置より更に後方に配置されている。

 そこはスケルトンが警戒してくるエリアより更に後ろだ。

 重傷者を対応できるように、この本陣にも30人程度配置されている。


「間もなく第五がこちらに来ます。壁の外側に医療隊の救護所を作ってください。壁の内側はまだかかりそうです」

「「「 はいっ! 」」」

「第八の工作が完了次第そちらに合流します。戦えない者は彼らに護衛させて後方へ下がらせてください」

「予定通りですね。かしこまりました」


 リアナが恭しく頭を下げてミリアに返事をすると、同行してた救護隊の面々と、それらの荷物を持つ兵士達を連れて門(があった場所)に向かう。


 入れ違いで左右に散っていた第一、第二が入ってくるがチロロの開いた穴が大きいので問題なかった。

 攻城兵器、要らなかったかも?






「はぁ!」


 遠目に見えるイドの剣がドラゴンゾンビの首を両断した、かに見えた。

 切られたドラゴンゾンビの首はずるりと横にスライドし、再び逆方向にスライドし元の位置に繋がってしまった。


「ん、切れ味が良すぎるのも考え物」

「剣ってただ切れればいいと思ってた!」


 即座に首が戻るようでは、栞の靴でも同じ結果になってしまいそうだ。

 栞の蹴り技も展開されたブレードによる斬撃だし、腰に吊るしてある短剣もやはり切る武器だ。


「ちぇい! 嵐脚ぅ!」


 そんな栞は、空中で回し蹴りを行う。

 先ほどヒュージスケルトンの体を拭き飛ばした技だ。


『グルルルル、ガアアアア!』


 ドラゴンゾンビの頬肉はこそげて飛び散り、その肩肉が大きくえぐられて地面に落ちていく。

 しかし、その傷口はそれ自体が別の生き物のようにボコボコと動きだしていく。再生しようとしているのだ。

 叫び声こそあげているが、大してダメージはなさそうだ。

 イドと栞は空中でそれぞれ停止しその再生を観察している。


「むー、厄介」

「どう料理しようかしら」


 口を尖らせる栞と、冷静にドラゴンゾンビを見つめるイド。


「冥界にいた時は魔法使いの人がでっかい爆発とかさせて倒してたんだけどなー。何かいい魔法ある?」

「あるけど、使えない」

「あ、城に近いか。もうちょっと城下町の中央に引っ張る?」

「……足が遅そうだけど、やってみる?」


 呑気に話をしているように見えるが、二人は警戒を怠っていない。


『ガアアァァァ!』


 ドラゴンゾンビが黒い炎のブレスを放つと同時に、イドは左に栞は上に回避行動を取った。

 ドラゴンゾンビの首元が再生していた時のようにボコボコと波打って、首がもう1本出て来て頭が生えた。


「うへぇ」


 栞が呻く気持ちもわからなくはない。

 元々あった首は栞に向かい顔を向け、もう一つの頭はイドを視界に収めている。


『ガアアアア!』


 更に背中が隆起する。ドラゴンゾンビなのだが、そこに現れたのは紛れもない人間の腕。大きさや色合いは全然違うが、人間の手だ。


「おっと」

「ん」


 総勢4本の腕がドラゴンゾンビの背中から生えると、その腕のうち2本は栞に、残り2本はイドに向かって突き進んでいった。


「うひょー」

「ちょっと、聞いてないんだけど? 腕生やすとか再生の事とか」


 あんな攻撃してくるなんて話は確かに聞いてなかった。

 栞と共にドラゴンゾンビとの戦闘経験のあるエイミーもオレの横で驚いている。


「冥界のっ! ドラゴンゾンビはっ! こんなに厄介じゃなかったから!」


 そうは言ってるが冥界のドラゴンゾンビの方が厄介なはずだ。冥界の専門家達が強すぎるし、装備も対アンデッド用の専門の物だったからここまで苦戦をしていなかったのだろう。


「んっ」


 回避行動を重視しつつ、栞が返事をする。

 イドは冷静に腕の長さを見極めて、ギリギリのところで待機。腕が伸びきった瞬間にボードを操作し腕の真下に飛び込んで剣を振るう。

 そしてついでと言わんばかりに通過した先、栞に襲い掛かってきた腕も肘辺りから切り落としてそのままの勢いで栞の横に並んだ。


「さーんきゅ」

「ん」


 軽く挨拶するも、再び二人の位置が離れる。

 二つの頭からブレスが襲い掛かったからだ。


「仕方ない、勿体ないけど……」


 栞はそのまま空中で一回転して、空から比較的背の高い建物の屋根に着地する。

 そして銀斬脚甲の刃の部分にポケットから出した試験管の水【大聖女】であった白部が作成した【聖水】を振りかけた。

 そして少しだけ余らせたそれを口にする。


「カナカナの味がするなー」


 変態ちっく。

 そんな事をいいながら、栞はイドのところに再び飛ぶ。

 イドは栞が戦場から離れた分、2本の頭と4本の腕を相手にしていた。


「でえええええええええい!」


 そんなイドに襲い掛かってきた腕がまとめて、栞の飛び込むような両足を揃えた蹴りで吹き飛ばされる。


「再生、しない?」

「ウチらの仲間の作った聖水だよ! アンデッドには効果てきめん!」

「例の女ね」

「大聖女サマだよ! なんでもみっちーの女にしちゃだめ!」

「だといいけど? 栞、最後まで見てなかったんでしょ?」

「……そういえば」


 そういえばじゃねえよ。


「頭は何度切っても再生する、多分体の、腰とかお腹」

「了解っ!」

「風の刃」


 イドが魔法を撃って、腰の部分を傷つける。

 その姿を見た栞は、その場で空中を蹴り、空高く飛び上がる。

 そして上下を反転し、今度は大空に向かって両足を揃えて蹴りを入れる。

 態勢を戻し右足を下に向け、超速で地面にいるドラゴンゾンビに向かって降下を開始。更にイドがその右足を一瞬だけ掴んで下に投げこみ、その速度を増加させる。


「でりゃああああああああ! とんでもキーーーーーーーック!」

「技名よ」


 思わずつぶやいてしまった。

 栞の繰り出した蹴りはイドの印をつけ、再生が開始されていた部分にぶち当てた。

 どこか神秘的な光を放ったその一撃にドラゴンゾンビの体が歪んで、亀裂が走りだす。

 技名通りとんでもない衝撃波を繰り出して、ドラゴンゾンビが爆ぜた。


「うーっし、こんだけ吹き飛ばせば再生無理っしょ」


 地面に立って、ホットパンツのズレを治しながら栞が勝鬨をあげた。

 最重量のアンデッドが1体排除されたのだ。

書籍化ぁぁぁぁぁぁ!


挿絵(By みてみん)


MFブックスより、2023年4月25日発売です!

イラストはでんきち ひさな様が綺麗に仕上げてくれました!

表紙があって挿絵が入ってて、一部書店では書籍限定のSSがついております。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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[気になる点] チェイクいつの間にチロロになった?
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