攻城の錬金術師②
そんな悲しい目に合った比較的若手のエルフ達だったが、弓兵の排除をしている彼らに魔法が襲い掛かった。
リッチ系だろう。
「きたぁ!」
嬉しい悲鳴と共に、城壁の弓兵の抑えをさせられていたエルフの男が剣を構えてリッチに飛び掛かっていく。
弓兵で外のエルフ達の勢いを抑えきれなかったから、より強力な魔法使いを配置し始めたのだろう。
「遅い対応ですわね。間違ってるとまでは言いませんが」
「ああ。私が指揮をするのであれば、弓兵の排除が始まる前に配置をしたな。まあ今出すくらいなら温存するが」
王族二人がそんな事を話しております。
ただ若手がそんな戦いを、しかも城壁の上だなどという目立った場所で戦い始めたので他のエルフ達が気づいた。
「抜け駆けは許さんっ!」
「ほう、狭い範囲で魔法師との戦いか……燃えるな」
「弓兵が前衛もこなすか、面白い」
そんな事を口々に言いながら城壁に飛び乗っていく。
「ぼーっと見てる訳には行きませんわ! 重撃隊と護衛隊に一時後退指示を! 第一から第五隊を動かしますわ!」
ミリアが戦況の変化に応じて隊に指示を与える。
エルフ達が城壁に飛び乗った結果、城下町の外にいるエルフ達が減ったのだ。その分自由に動けるスケルトンが増えてしまう。
最後に残った獣族の部隊。第一から第八までに区分けされた部隊の内、5つの部隊を前進させそれらのスケルトンの迎撃にあてるのだ。
今まで仕事をしていた重撃隊と護衛隊は一度後方に下がり休憩である。
勿論すぐに同じ仕事に走って貰う。特に重い武器を振り回していた重撃隊に休憩が必要だ。
「最後の隊ももう出すのですか?」
「もう少し待ちますわ」
第六と第七は城壁の制圧が仕事だ。
なるべく高い位置を取り、弓を構えて城下町に睨みを効かせるのが彼らの仕事だ。
彼らには聖騎士達がそれぞれ護衛につく。
「こちらのペースだな」
「ああ」
早朝からの活動の為、日の光に極端に弱いゴースト系の魔物は未だに出てこない。
下位のゴーストは日中はほぼ活動できず、中位ゴーストも行動が制限されるためだ。
城下町内に侵入すれば日影が増えるからゴースト種も現れるだろう。その前に対応するべく展開をしておくのだ。
第八隊は工兵である。
未だに小さな扉からスケルトンが出てきているが、すべての扉から出てきているわけではない。
追加のスケルトンが外に溢れない様にその扉を塞ぐ目的、それと土魔法の使い手を多く配置しているので、彼らに城壁までの階段を作らせるのが目的だ。
第六、七隊が彼らを護衛し、彼らと共に城壁まで取りつき、第八隊の作業を援護するのが目的である。
全部ミリアが考えた策だ。ここまでは順調である。
もう少し平原のアンデッドの数が減ったら彼らの出番だ。
「でかいのが来るぞ!」
スケルトンが多くいると、当然のように現れるヒュージスケルトン。
小さなスケルトンが合わさって一つのスケルトンになる存在だ。
1体が城のように大きく、集結したスケルトン達の体はかなり硬くなる。更に周りのスケルトンも吸収して巨大になる為非常に厄介な相手だ。
「獅子王騎士団! 出るぞっ!」
「「「 おう! 」」」
ライオネル達が走竜に騎乗し、戦場へと躍り出る。
できれば出現位置に合わせたかったが、ヒュージスケルトンはスケルトンの集合体。
スケルトンが大量にいるところにならばどこにでも現れる。
前兆はあるが、見える位置にそれが起きるかは不明だ。
エルフ達が中央門に集まりつつあったので、その外側で前兆が見られた。
ライオネル率いる獅子王騎士団は二手に分かれて、そのスケルトン達が重なり合う骨の山へと颯爽と走り込む。
そして体が完成しきる前にその骨の山の一角を吹き飛ばした!
「獅子達よ! 猛々しい咆哮と共に我らが一撃で敵を滅ぼすぞ!」
「「「 グルオオオオオ! 」」」
ライオン特有の重低音でお腹に響く咆哮が辺りを包み込む。
上半身だけ完成していたヒュージスケルトンは、一掴みで家を叩き潰しそうな手を振り上げてライオネル達に襲い掛かった。
「散開っ!」
ライオネルの合図と共に、左右に散った獅子王騎士団はそのままの勢いでヒュージスケルトンを挟み込む。
そして地面に刺さっているあばら骨の何本かにそれぞれが攻撃を仕掛けていく。
「おおー、あそこ結構堅いのに! すごいね!」
冥界でヒュージスケルトンとの戦闘を何度もこなしていた栞が声を上げる。
「あっちにも兆候があるな。エルフ達でいけるか?」
ヒュージスケルトンの登場に目を輝かせているエルフの何人かが、そちらに向かって駆け出している。
勿論自らの手で倒すためだ。
ライオネル達と同じようにだが、彼らは魔法を使って集結しようとしていたスケルトンの群れを吹き飛ばしている。
「森の守護者とはいったい……」
「ん?」
「いや、なんでもない」
日本人的な勝手なイメージで申し訳ないが、エルフ達に火や爆烈魔法は似合わない。
弓や風の魔法で戦って欲しいと思う。まあこういう戦いでは爆裂魔法のが効率いいけど。
魔王城攻略の時もそうだったけど、エルフ達は弓での戦いよりも白兵戦を好むのは分かっていたんだけどいまだに違和感。
美形の揃いのエルフが戦いの最中、狂気に染まるような笑顔を見せるのがすっごい怖い。
「中央門が閉まりました。スケルトンナイトや深淵の騎士は打ち止めのようですわね。エルフの皆様方が我慢出来ているうちに進みますわ」
「ほいほーい!」
「「「 出番だにゃー! 」」」
栞とトーガ達、何故か混ざっているイリーナの返事に苦笑いだ。
トーガ達、ついてこなくていいのに……。
「第六、七、八隊に合図を。わたくしたちもエルフ達の後方につきますわ」
「ああ、そろそろスケルトンナイトの相手は飽きたって言い出して街に突入するエルフが出るだろうからな」
「ん、わたしも飽きてきた」
「援護が届く範囲で、戦ってね?」
「……善処する」
「本当にお願いしますね?」
小さな呟きに、エイミーの言葉と追い打ちのリアナの攻撃。そして嫌そうな顔をするイド。
まあイドもエルフだ。おんぶ抱っこの状況で戦うのは好きじゃないだろう。
「……少し、先行する」
「はいはい」
「あたしもいくー!」
イドはそういうと、スノーボードのような飛行板を空に投げてそこに飛び上がる。
「脚部固定」
「銀斬脚甲、装脚」
飛行板に乗ったイドと、空中を蹴る様に飛び上がりつつ脚甲のブレードを展開させる栞。オレ達の進行方向で今まさに生まれようとしている白骨の山。ヒュージスケルトンを目標に定めた。
「ふっ!」
イドは腰の剣を抜き去って、一文字にその頭を両断。首の骨も同時に絶った。
頭を失ったヒュージスケルトンの体に亀裂が入る。
「嵐脚!」
そこに飛び込む栞は、空中で回転しながら回し蹴りを大地に向かって放つ。
そこから発生した衝撃波が未だに集まっていたスケルトン達の山を他のスケルトンごと吹き飛ばし、ヒュージスケルトンの体も粉々に消し飛ばした。
「歯ごたえないわ」
「そんなもんでしょ」
「……体も鈍ってる」
「そう?」
「ライトの剣よ? もっと楽に斬れたはず」
「ああー。そういう話?」
イドは空中を滑るように進み、体の大きな深淵の騎士にそのまま進んでいく。
栞は露払いをすることに決めたのか、エルフとアンデッドナイトの集まっている一角に空から飛び込んで、そのアンデッドナイト達の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばして……中には砕けるのもいるからその表現は正確じゃないな。
とにかく蹴って蹂躙していった。
「ラ、ライトロード殿」
「殿下はダメ」
「今は我慢の時ですわ」
「仕方ない、だが前には出るぞ!」
戦いたがりの王子様はステイである。
とはいうものの、オレ達も別に戦っていない訳ではない。
本陣を取っていた場所から中央の門まではそこそこ距離があるのだ。
そしてスケルトン達はまだかなりの数がいる。エルフ達が手抜きだから結構残っているのだ。
当然進行方向にはそんなうち漏らしが多数存在する。
それらをロドリゲスを中心とした赤角族が倒して道を作ってくれている。
そこにはジェシカがハルバードで、レドリックが長い槍で、小さいバージョンのイリーナが大剣を持って参戦しているのだ。
ミリアがこちらにいるため、セリアさんはミリアの横にいる。
エイミーとリアナ、セーナはオレと一緒だ。
「殿下、連中と一緒ならいいですよ」
「ああ! 分かった!」
アラドバル殿下は借りた走竜に跨って駆け出す。
「レドリック! ジェシカ! 殿下のフォローを頼む!」
「面倒だなっ!」
「面倒っす!」
「命令ですわ!」
「「 了解っ! 」」
なんでミリアの言葉には素直に従うんですかね!
殿下の参戦はオレ達の前進速度を上げてくれた。元々騎士団に所属している武闘派だ。声の通りもいいのでオレ達の前に未だに現れる大量のアンデッド達を適切に、対処してくれている。
前線指揮を彼が取っているおかげでミリアの手も空くし、悪い事ではないだろう。
「「「 倒したニャ! 」」」
イドと栞も空を翔けて深淵の騎士をなぎ倒している。
周りのエルフ達が更に前進していく。既に中央門の前に辿り着かんばかりだ。




