攻城の錬金術師①
※ この章は主にこの世界のエルフを爆走させるために書かれております。
「エルフ隊、前進っ!」
「「「 おおおおーーーーーーー! 」」」
拡張魔法によって拡大されただっちょんに乗ったミリアの声。その返事の雄たけびは拡大されたミリアの声を圧倒的に凌駕し、辺り一面を埋め尽くす。
太陽が出たばかりの朝日が世界を照らす中に怒号が響き渡る。
その声の大半がエルフ達である。
砂ぼこりを上げるのもエルフ達。
都と呼ばれる太陽神教の大聖堂のある街から3日ほど進んだ平地。旧ハイランド王国の城下町付近である。
竜による被害があったにも関わらず、外壁が修復されているのはアンデッド達の仕事だろうか?
壁の外から見える高い建物は崩れてるのが多いのに。
そんなオレ達の視線の先には、大量のスケルトンである。オレ達が近づいた段階で、正面の中央門や城壁に備え付けられている小さな門から次々と現れたのだ。
瞳の無い眼孔で我々を見据えて、骨がぶつかりきしむ音で歓迎をしてくれている。
動きに素早さはない物の、その手には剣や槍などを装備し鎧も着込んでいる。
正にスケルトンの兵士だ。
「耳長人間すごいニャン!」
「耳長人間強いニャル!」
「耳長人間早いニャム!」
トーガ達が目を光らせながら彼らの活躍に興奮している。
エルフ達が走り込んでいく先々でスケルトンが宙を飛び、吹き飛ばされているのだ。戦場で見た事があるとはいえ、それは迫力のある光景だ。
「やっぱり、トドメは刺さないようですわね」
「うむ、そろそろ我らの出番だろう」
そう。エルフ達は一度吹き飛ばした相手に興味を示さないのだ。
吹き飛ばしたスケルトンが地面に叩きつけられ、バラバラになった段階で勝利を確信している。
スケルトン達は体中が骨折していても、核さえ無事なら立ち上がろうとするし、パーツが足りなければ復元しようとするのだが。
エルフ達も近くでそれを行おうとするスケルトンがいれば頭蓋骨の中の核を頭もろとも破壊するが、手の届かない場所まで走ってわざわざトドメを刺そうとはしない。
いちいち弱ったスケルトンを相手にするよりも、より強い敵を求めて戦場を走り周るのである。
喝采の中から笑い声が聞こえてくるのもそのせいである。
「エルフ達が弱らせたスケルトンを放置する理由もありませんわ。重撃隊は護衛隊を伴って。前進です!」
ミリアの言葉に、セリアさんが鐘を鳴らす。
そのセリアさんの合図に、獣族達の部隊。オレ達の周辺にいる獅子王騎士団以外の、周りに展開していた部隊の約半数が前進を開始した。
エルフ達と違い、規律だった動きにライオネルが感嘆の声を上げるが、疑問をこちらに投げかけてきた。
「投入が早いのではないか?」
「エルフ達の動きが思った以上にいいからな。まあミリアの判断なら信頼できる」
今回前進した重撃隊は、体躯の優れた虎のレオンガル族や牛のミノス族達が中心の部隊だ。
エルフ達が倒したスケルトンが地面に転がった状態で放置されるのは前もって分かっていたので、それを潰す専用の部隊だ。東西でそれぞれロドリゲスの父と都の赤角族のリーダー。元族長コンビが指揮を執っている。存分に働いてくれ。
ハンマーや斧など重い武器を扱う以上鈍重になる。そんな彼らを守る専属の部隊が護衛隊。虎狼軍の精鋭達で構成されている。
再生中のため、地面に伏しているスケルトン達の頭部を破壊すべくハンマーや棍棒を叩きつける重撃隊。再生が間に合ったスケルトン達も、護衛隊の面々によって再度行動不能になっていく。
虎狼軍は獣族の荒くれものを普段相手にしているのだ、動きの遅いスケルトン程度に遅れをとる者はそうはいないだろう。
そんな彼らと違い、エルフ達は数が多くない。エルフ達の攻撃範囲外にも続々と普通のスケルトンが追加されていくのだ。
彼らは近くのエルフに近づこうと動くが、中には獣族達に向かっていく者達もいる。
「城壁に辿りつくエルフがそろそろでそうだな」
城壁の上には弓兵のスケルトンが配備されており、そこから大量の弓が射られている。
エルフ達はそれらを躱して弾いて切り払いつつ、周りのスケルトン達を相手にしているから頭がおかしい。
むしろ壁外にいるスケルトン兵の頭を、反撃とばかりに矢で文字通り吹き飛ばしている。矢が刺さるのではなく頭蓋骨を吹き飛ばしているのだ。まあ鎧とかに矢が刺さっても問題ないのがスケルトンだ。頭に刺さっても核にさえダメージが入らなければ動けるのでうってつけの戦術と言える……が、エルフの腕力は頭がおかしい。あんなに細腕っぽい人が多いのに。
「重撃隊と護衛隊は矢の雨の中に入らないようになさい!」
ミリアの拡張された声が戦場に広がっていく。
そんな中、視界の中に変化が現れ始めた。
「中央の門から」
「あれは……違うな」
オレの言葉に続くように言ったのはアラドバル殿下だ。
そして、その門からは整列した状態の統一された鎧のアンデッドが騎乗して登場した。あの馬もアンデッドなのだろうか?
見た目で分かるのは首のない騎士であるデュラハンに、漆黒の鎧が体でもあるリビングアーマー。
漆黒の闇を身に纏ったスケルトン、タナトスの怨念やジェネラルスケルトンもいる。
「主力はスケルトンナイトですわね。それに指揮官もいるようですわ」
「行っていい?」
「いいわけないだろ。殿下も行くなよ?」
「エイちゃんにお願いする?」
「その方がいい?」
「や、例の術の消費を考えるとエイミーはまだ出せないな。ヤバそうなら頼むけど、エルフで対応できるところは対応させたい」
イドはアラドバル殿下と共に肩を落としている。
エイミーも難しい顔をしている。自分の術を使えば怪我人が減るって知ってるからな。
でもエルフならきっと大丈夫だよ。
「こっちの出番だ! 婿殿、イド! 行ってくるぞ」
「お願いします」
お義父さん率いるエルフの精鋭達12人は走竜を駆り、突撃していく。
エルフの精鋭、言うのは簡単だけど一人一人が稲荷火や明穂並の戦闘能力を持っていて魔法も自在に操る化け物軍団だ。流石に魔法は専門職の海東程じゃないけど、それでもこの人数がいれば一国を相手取れるレベルだ。マジでこの世界、エルフが世界征服する気になったらできてしまう。良く無事だな。
走竜は獅子王騎士団の物だ。彼らから借り受けている。
大きな口と、鋭い瞳。灰色と茶色の間の色合いを持った小型二足歩行の小型の竜の集団はそれこそ強靭な大地の支配者と言わんばかりの様相だ。
そんな走竜達がエルフの集団と初めて顔を合わせた時、尻尾を股に挟んで震えていた姿といったら……。
とはいえ走竜達の堅い鱗は飛んでくる矢を弾けるほどだ。この矢が雨のように降っている状況でも難なく走破できる。
走竜の顔に飛んでくる矢は騎乗したエルフ達が弾いているので目や口に入る心配もない。
絶対的強者が背にいるため、走竜達も安心して突撃が行えるのである。
「「「 おおおおお! 」」」
雄たけびを上げて、門より現れたスケルトンナイト達に向かって一直線のエルフの精鋭達。
それに呼応するように、そして走竜を駆る精鋭達よりも近くにいたエルフ達が嬉々としてその集団に襲い掛かった!
「……作戦の意味よ」
「ん、早い者勝ち」
「こうなるとだろうと思っていましたわ」
「ホントよ」
「すごい、ね」
「羨ましいぞ」
「「「 にゃーーー! 」」」
エルフ達の集団戦を見た事がなかったエイミーとトーガ達が驚く。
イドと殿下は羨ましそうに見ているが、却下である。
「若造がぁ! 我らの前を取るかぁ!」
「年寄は足がおせぇんだよォ!」
「ほざきおったなぁ!」
「うははは! いいじゃないか骨の騎士よ! 中々の歯ごたえ!」
「ふん、この程度では相手にならぬ!」
エルフ達が大騒ぎしながらもスケルトンナイト達に群がる。
はじめはエルフ達の勢いが強かったが、徐々に扉から出て来るスケルトンナイト達の数が増え、更に指揮をとる大型のスケルトンナイト【深淵の騎士】も現れた為戦場が混沌と化していった。
流石に種族的な強者であるエルフだが、スケルトンナイト達も中級のアンデッドに数えられる魔物である。攻撃が当たれば一撃で倒せているが、剣や盾を装備している連中だ。ガードしつつ3,4体で1人のエルフを相手取るように動いているので攻めあぐねている様子である。
魔物の方が組織立って動いているってどうよ?
「指揮官っ! 辿り着いたぁ!」
「儂が先じゃぞいっ!」
そんな中、深淵の騎士に辿り着いた二人のエルフ。
お義父さんとケンブリッジさんだ。とても元気。
「ぬおおおお!」
「だああああ!」
二人は競うように剣を振るう!
深淵の騎士はその二人を一瞥したかと思うと、配下のアンデッドナイトを嗾けてその猛攻に蓋をしようとする。
「「 甘いわぁ! 」」
二人が声を合わせると同時に、深淵の騎士を守るべく動いたアンデッドナイト達が吹き飛ばされた。
そして勢いそのままに深淵の騎士に襲い掛かる!
「うわ、すごいな」
思わず深淵の騎士に同情してしまいそうになる。
深淵の騎士は以前アラドバル殿下とジェシカが2人掛かりで討伐出来た相手だ。もちろんお義父さんとケンブリッジさんの2人であれば問題なく倒せるだろう。
ただ以前と違い、中位アンデッド達で周りが固められているのだ。簡単ではないはずである。
だがそんな状況をあざ笑うかのように、二人は構わずに深淵の騎士に向かっていった。
深淵の騎士もその状況に脅威を感じ取ったのだろう。騎乗している巨大な馬を巧みに操り、お義父さんの剣をその手の巨大な剣で受け、ケンブリッジさんの剣をその壁のような豪華で漆黒な盾で防ごうとした。
「はぁ!?」
驚きの声をあげたのはアラドバル殿下だ。
お義父さんの剣は深淵の騎士の剣により防がれていた。お義父さんが走竜に乗って攻撃をしていたのだが、それでも深淵の騎士を圧倒できる重みがなかったのだろう。
体格差を考えると当たり前だ。
だがケンブリッジさんは違った。その大きな盾を両断し、深淵の騎士の脇腹を剣で切り裂いたのだ。
殿下は深淵の騎士を相手するのに苦戦をしていたから驚くのはしょうがないだろう。
「ねえ、ケンブリッジの剣って」
「あー、イドの剣の制作の時に試し打ちしたやつだな」
そういえば貸したままだった。
「膝をついたわ」
「膝をついたな」
「雄たけびをあげてるニャン。怖いニャン」
「あげてるなぁ」
「顔を上げたニャル!」
「お義父さんがその顔に飛びついたな」
「ぶった切ったニャム!」
憐れ……。
「ま、まあでも、まだ出て来たし」
中央の門からはスケルトンナイトが慌ただしく出撃をしてきて、中には深淵の騎士も数体混じっている。
その白と黒の集団に飛び込んでいくエルフ達。
集団戦を仕掛けてきているスケルトンナイトと深淵の騎士達にジェネラルスケルトン。
エルフ達もダメージを負っているだろうが、多少の怪我であれば彼らは引かない。タナトスの怨念と一騎打ちをしているエルフの一人が、周りのエルフ達から苦情を受けている。
自分が戦いたいとかそんな内容なんだろうなぁ。
自分で回復魔法をかけたりオレが支給したポーションを飲んではどんどんと敵を倒していく。
「お、恐ろしいほど順調であるな」
「お、城壁に上がったエルフがいるな」
「弓兵を倒してくれているみたいね」
同じようにエルフ達が何人か城壁に飛び乗って弓兵を片付けていった。
全員なぜか顔に殴られた形跡があって涙目だが。
「腑抜けの雑魚がぁ! 上の鬱陶しいのの相手をしてきやがれぇ!」
「さ、さーせんっ!」
詳しい描写は……やめておこう。
エルフは体育会系だなぁ。




