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攻略準備の錬金術師①

「のどかだねぇ」

「ああ! 遂に言っちゃった!」


 先導役を栞に代わり、馬車の横で馬を歩かせるレドリック。

 変わらない風景に飽きて来たのか、そんな呑気な事を言いだした。

 うん。オレもそう思う。


「とは言っても、魔物は出て来てるぞ」

「近寄る前にセーナの弓で殺されてるけどな」


 出て来る魔物は背の高い草に隠れてこちらを狙ってきていた。

 緑色の体毛をした犬の魔物であるフィールドドッグ、小型で人型の魔物であるゴブリン、中型犬くらいの大きさで2つの頭を持つ虫の魔物、ツインカマキリなどだ。

 危険感知の能力の高い栞とセーナが敵を即座に見つけており、更にセーナは弓を装備しているので馬上から即座に敵を射っている。

 基本的にセーナの弓だけで終わるが、場合によっては栞や他のメンバーも敵を倒している。


 栞とセーナが先頭、右にレドリック、左にセリアーネさん、後方にジェシカがそれぞれ錬金術で作成した錬金生物の馬に乗っている。

 その中心にだっちょん馬車があり、御者台にオレとイリーナ。馬車の中にエイミーとミリアだ。

 お留守番組みはイド、リアナ、ユーナだ。

 イドは来たがったが、流石に目に見えてお腹が大きくなってきたので却下。

 リアナはイドのお世話、ユーナはイドの食事担当。


 オレやイリーナは時々馬車の連中と入れ替わっているが、この隊列が基本布陣である。


 ある程度魔物に襲われているとはいえ、命の危険を感じるほどの敵はまったくいないのだ。

 緊張感が薄れるのも分からなくはない。


「まあこれでも色々温存してるんだがな……」


 セーナも特別な矢を使わず普通の木の矢を使っているし、レドリックにセリアーネさん、ジェシカも武器に魔力を通さずに敵を攻撃している。

 エイミー、ミリア、イリーナは馬車から降りず戦闘に参加していない。

 死体の剥ぎ取りや解体といった手間のかかる作業どころか、そもそも死体の回収すら行わずに極力無駄を省いて進んでいるのだ。


 それもすべて、この後に控えている戦いに備えてだ。


「はあ、さっきの兎は見た事ないヤツだったのに」

「みっちー、自分でそういうのしないって言ってたじゃん」

「ご主人様、初志貫徹が大事なのよ?」


 セーナが弓から矢を放ちながらそんな事を言う。


「今度は何が出て来たんだ?」

「興味を持たれても困るから言わないもん」

「なあセーナ、最近オレの扱い悪くない?」

「って栞が言えって」

「うおいっ!」


 栞さん、親指立ててますが別にグッジョブなんて誰も言わないからな?


「結構遠目で見てるけど、例の魔物は姿を現さないですね」

「縄張りに入ると地面から出て来るって話だな」

「逆に何もなくて気味悪いっすよぅ」

「ええ、でも縄張りを守っているタイプの魔物が常に地面にいるっていうのも違和感を感じるのよね」

「セリアさんは慎重だねー」

「栞、貴女は楽観視しすぎじゃない?」

「確かに、隊長さんの言う通り常に土の中にいるってのも違和感があるわな。そもそも地面の中にしかいないのならば上を守る必要もないわけだし」

「ええ。これまで見た通り魔物もそれなりにいますし。人間が縄張りに入ったら地面から出て来て襲ってくるんですよね?」


 オレが独自で調べたり、ドリファスが調べてくれた資料を読み込んだオレにセリアーネさんが聞いて来る。


「そうらしい。この辺りにはゴブリンはもちろん、オークやスケルトンやグールなんかの二足歩行の魔物もいるって話なんだけどな。まあアンデッド系統は夜にならないと出てこないから分からないが……足音で判別って難しいと思うんだよな」


 人間が例の魔物の縄張りに入ると途端に地面から湧き出て来るらしい。そしてそれらは魔物に反応せず、その縄張りには魔物が普通に跋扈しているとのことだ。

 二足歩行で人間を判別してるのか? とも思ったが……記録にある通り、そして実際に見た通りゴブリンなんかがいるのを確認している。

 まあ縄張りにゴブリンがいない可能性もあるが、結構な頻度で遭遇しているからそれはなさそう。

 ゴブリンが上位種に率いられていて、上位種の指示に従っていれば話は別だが、今のところゴブリン達が組織で動いている印象は受けない。


「臭い……とか?」

「人間特有の匂いとかあるかわからんが、無いとは言えないな。でも地面の中にいる魔物が地面の外の匂いを常に感じているのかな?」

「地中に住む魔物に詳しい訳じゃないが、中にはそういうのもいると聞くな」


 セリアさんの言葉にオレも頷く。


「かなりの数がいると聞いたけど、何を食ってるんだろうな?」

「そりゃあ、襲ってくるんだから肉なんじゃないか? 雑食の可能性もあるけど」


 肉を欲する魔物が人に襲い掛かるからな。逆に肉を食わない魔物は人に襲い掛かって来ないものがほとんどだ。


「その魔物の標本なりなんなりがあれば良かったんだけど」


 シルドニアでもその魔物の研究はされていたが死体は現在残っておらず、研究資料しかなかった。

 その資料も首を傾げたくなる代物だった。嘘ではないと思うけど。


「平べったい葉っぱみたいな魔物なんだろ? 昆虫系か?」

「むっちゃ硬いって聞いたっす」

「目も口も無いと聞きましたが……」

「鋭く指のない手足で地面を突き刺しながら歩くとか」

「個別に言うな個別に」


 誰が言ってるかわからんではないか。


「まあ全部合ってるらしいけど」


 その魔物の特徴である。

 体の高さは1,5メートルくらい。ただし鋭い手足で持ち上がっているからで、体の太さは手足も含めて数センチとのこと。大きな葉っぱに手足をつけて四足歩行可能になった感じという雑なデザインらしい。

 赤黒い体には葉脈のように線が入っており、主な攻撃方法は体当たりと手足による突き刺し攻撃。

 昆虫の様に動き回り、突進はともかく左右に機敏には動けないらしい。

 手足も体も非常に硬く、鉄の武器では武器が負けてしまうらしいが、それらに対抗できる武器を持っていれば攻撃さえ食らわなければ討伐する事は可能である。

 ただひたすらに数が多く、地平線の彼方までその魔物が大地を埋め尽くすとの事だ。その圧倒的な数に、万もの人員を揃えて攻め入ったシルドニアの兵団は敗走している。

 個々の突出した実力者ならば問題ないだろうが、戦いながら先の見えないその魔物の群生地を抜けなければならないため、補給の兼ね合いで突破を断念したらしい。

 と、記録にはあった。


「空から行ければいいんだけどな」


 見上げるとそこには空飛ぶ大地。そしてその大地に周りにギリギリ視認できるのは飛行型の魔物である。

 飛行型の魔物の多くは地上に降りる事は可能だが、一度降りたら高々度にある空飛ぶ大地まで戻れない魔物が多いらしい。なので地上までは降りて来ないのがほとんどだ。

 ロードボートを使えばこの草原を横断できるが、あれは風の結界を纏って飛ぶのである程度高度が必要だ。その高さによっては飛行型の魔物に目を付けられてしまう。

 遠距離攻撃で対応できるとは思うけど、もしもの時に不時着する事を考えると危険すぎる。


「俺、空飛んでみたかったなぁ」

「わ、私も興味が無いといえば嘘になるが」

「危ないからダメ」


 エイミーとオレが危険だ。


「エイちゃんの幻術で誤魔化せればいいんだけどね」

「魔物によって感知機能というか感覚器官が違うからなんとも」


 先日のアンデッドとの戦いの様に、すべての魔物に同じ方向性の幻術を掛けるというのであればエイミーの実力ならば問題はない。

 ただ未知の魔物相手だと、どのような幻術をかければいいかが判断出来ないのが難しいところだ。

 旧港町の常識外れの大蛇、ベインのように単体にかけるのであれば効かなければかけなおしと試行錯誤が出来るのだが、種類の違う魔物が個別で襲ってきた場合には、エイミーに負担がかかるのでやらせたくない。


「基本は目と鼻と耳だろうけどな、魔力やら生命力やらその他を感知してくる魔物もいるから過信出来ないよ」


 エイミーの能力は凄いし汎用性も高いが、安全性を度外視して使っていい訳ではない。


「そういう意味では、この先で出て来る魔物も良くわかんないよね。目も耳も鼻もないんでしょ?」

「らしいな、何でも一定以上ダメージを与えると行動不能になって、それを置いておくと一気に体が崩れて砂の様になってしまうらしい。時間停止のかかった魔法の袋なんかに入れて持って帰ってきたらしいが、魔物学者が調べ始める前に崩れてしまってて手が付けられないんだと」


 枯葉の様な存在ではないかという魔物学者もいるらしいが、分類もされていない。

 獣の魔物なのか、爬虫類の魔物なのか、鳥なのか竜なのか植物なのか、それ以外の魔物なのか。

 系統が分かるだけでも対策が取れるんだけど、今回は不明だ。まあダンジョンなんかでも見た事のない魔物が出るし、そう言うものだと思って諦めるしかないな。


「見えてきたな」

「ああ、意外と早かった」


 それは先人たちが作ってくれたデッドライン。

 風化した赤く、太くて長い杭が地面にいくつも突き刺さっている。先人たちの努力の結晶で、北と南にずっとそれが続いている。

 この魔物の縄張りは大陸を横断するように延々と縦に伸びているらしい、湿地帯や森、山岳にも。もしかしたら大陸の東側はすべて彼らの縄張りなのでは? という研究もあったくらいだ。そうでない事を祈る。


「この杭に一歩でも踏み込めば……お出ましって話だな」

「そうだな、全員戦闘態勢を」


 オレの言葉に全員が頷いて、馬や馬車から降りる。

 錬金馬たちはもしもの時の為に出しておくが、馬車は魔法の手提げにしまっておく。

 さて、どのレベルなんだろうな。






「先陣はイリーナ、頼んだぞ」

「お任せください」


 馬車から外しただっちょんに跨り、大剣を背に担いだのは大人バージョンのイリーナだ。

 他のホムンクルス達と同様にメイド服である。スカートだからスパッツ履いてるよ。


「イリーナにも負けた……」

「くうっ」


 何故か栞とミリアがダメージを受けているが気にしてはいけない。


 緊張した面持ちで、いつでも剣を抜けるように手にかけたイリーナがだっちょんを操作して杭の向こう側に足を踏み入れる。


「……」

「…………」

「………………」


 出てこないな。


「出てこないな」

「ああ、縄張りの範囲が変わったか?」

「どうでしょう、だっちょんに乗ってるからとか?」


 いつでも武器を振るえるように構えてたイリーナが困ったような顔でこちらを見ている。

 突然足元から湧き出た場合や、遠目から出てきた場合、剣の届く範囲から出て来た場合と様々な奇襲に対するシミュレーションをイリーナと行ってきたが、出てこなかった場合は想定していなかった。


「あ、あるじ?」

「すまん、わからん。そのままもう少し前に出てくれるか?」

「心得た!」


 武人然とした返事をし、表情を引き締めて前にだっちょんを進める。

 それに合わせて栞、ミリア、レドリックは武器を構え、セーナとセリアさん、ジェシカはオレとエイミーの守りにつく。


 イリーナは更に前進するも、出てこない。走り周り、だっちょんに足踏みをさせ、それでも出てこない。


「もういないのかしら?」

「緊張して損したー」

「しかし、そうなるとどこに姿を眩ませたのが問題になりますね」


 ミリアと栞、セリアさんが交互に呟く。


「なんだか締まらねえなぁ」

「オレ達らしいといえばオレ達らしいだろ」

「そもそも魔物はいない方がいいっすよ?」


 レドリックが槍を肩に担いで安堵の言葉放ちつつ前に進む。


 ボゴン!


「あ?」

「「「 あ 」」」


 そんなレドリックが杭の先に足を踏み入れた瞬間に、そこらじゅうの大地が隆起して中から何かが飛び出してきた。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] 変に突破することを考えるより何とか迂回はできないのかな? 横断するように、というのは完全に大陸上を横断しているのか、海岸線上はどうなのか、川はどうか、など試してみる価値はあるかと思うが…
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