表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/68

戦支度と錬金術師③

 エルフ達は別として、赤角族の面々の武器も作らなければならない。

 レドリックとジェシカの分は元々オレが作った武器なので、新しく作るのもそこまで手間はかからないかな。

 そんな計算をしつつ、都で与えられた寮で食事を取っていると、扉を叩く音がした。

 セーナが来客に対応すると、困り顔のライオネルが来ていたらしい。

 そのライオネルの前に一人の人間。


「ようやく会えましたね」


 真っ白な布をベースに、金色のラインが施された立派な法衣を来た若い男が訪ねて来た。

 この人の気配に、オレはすぐにピンとくるものがあった。

 栞とエイミーも思わず椅子から腰を上げる。


「光殿、川北殿、相良殿。お初にお目にかかります」


 その男は柔らかい笑みを浮かべて、オレに視線を向ける。


「クリア様からの神託が降りました。どうかご挨拶をさせてください、我が同志よ」


 これほどまでに清浄で、温かい気配を放つ存在はそうはいない。

 この人は……人かどうかはわからないが、女神クリア様の眷属だ。


 いかにも偉い神官ですという格好の人を立ったままにすることもできないので、リビングに通す。

 ここは士官達が作戦会議をしたり出来るようになっているので、それなりに大きな机と椅子があるから大人数でも問題ない。


「貴方達に力を貸すように、我が主よりご命令を受けております」

「クリア様、起きられたんですか?」


 随分前だが天界に顔を出した時には話も出来なかったのに。


「ええ、まあまだ眠られている時間の方が長いですけど……それと、勇者召喚に起因する事件をお話しに参りました」

「大司祭様、それは我も聞いて良いお話だろうか?」

「ニャン達も席を外した方がいいかニャン?」


 一緒にご飯を食べていたトーガ達も遠慮がちにこちらに視線を向ける。食べこぼしやらが飛び散って顔が汚い。


「別に構いません。やましい話をする訳ではございませんから」


 立派な法衣の男が立ち姿を正す。それに合わせて法衣の飾りがシャンと音をならした。


「では改めて、女神クリア様に仕えるレコーズと申します」


 そうして綺麗に礼をする。青く長い髪がそれに合わせて波打っている。


「……光道長です」

「川北栞です」

「相良エイミーです」


 オレが挨拶を返すと、栞とエイミーも順に返事をする。


「同志方とお会いできるのを楽しみにしておりました」

「ええっと、オレって同志なんですかね……」

「勿論です。互いにクリア様より使命を与えられた者でございますから」

「自分らの仕事はもう終わりましたけど……」


 魔王は既に倒した後だ。


「クリア様は下界に干渉はなさいませんが、今回だけは特例だとおっしゃいました」

「はぁ」


 聞いてくれない。


「ハイランド城を目指されておいでですよね? クリア様よりお話を聞いております」


 レコーズの言葉にライオネルが目を見開く。

 別の意味でオレも驚いた。まさかクリア様がオレ達の動向を気にしていたとは。


「まさか、使徒であったか!」

「さっきも言ったが使命は終わっている。まあ『元』使徒だな」

「だ、だがクリア様に見初められたのであろう!? 妙な連中だとは思っていたが!」

「妙ってオイ」

「ミチニャガ凄いニャン!」

「シオリもすごかったニャム」

「エイミーは元々すごいニャル」

「「「 ニャー! 」」」


 はいはい。


「使命ってにゃんだったニャン?」

「悪者退治だ。退治は終わった」

「「「 おお~~! 」」」


 盛り上がるトーガ達。


「アレを悪者って言うんですかね?」

「伝われば、問題ない、かな?」


 自分達のやったことを吹聴するのなんて恥ずかしいし。


「みっちー照れてる」

「私は、最後までいれなかったから……」

「あ、あたしもあたしも」


 キミ達は死んでいたからね。


「クリア様は貴方には借りがあるから尽力せよとおっしゃいました。それとハイランド王国で起きた悲劇についてお話しましょう」

「はい」


 ドリファスが調べてくれた事との照らし合わせにもなるしちょうどいい。


「黒竜王と呼ばれる王竜。彼の怒りを買ったのが発端です」


 黒竜王はハクオウと同じ王竜だ。

 ハクオウよりも巨体を持つ漆黒の竜。数多の竜を眷属とし、過去を鑑みても黒竜王よりも戦闘に特化した王竜は存在しなかったと言われる程の圧倒的な存在らしい。


「黒竜王の子がハイランド王国によって捕えられました。あれの子供は勇者召喚の生贄に選ばれたのです」


 その言葉にオレは頷く。

 しかし他の面々は驚きの表情を見せていた。


「光殿は驚いていないようですね?」

「旧ハイランド王国の資料を多く見ています。黒竜王の襲撃と勇者召喚のタイミングの齟齬に気づいていましたから。こちらの世界の人間の多くが黒竜王に襲われたハイランド王国がそれに対抗する為に勇者召喚を行ったと思っていますが……」

「そうですね。順番が逆です」


 勇者はその強力な力を持って黒竜王と戦ったが、専用の装備である聖剣も無かったのでハイランド城を守る事が出来ずに命を落としたと伝わっている。

 だけど、王竜が本気でハイランドを滅ぼす気であれば勇者召喚などする暇もなくハイランド城は灰燼と化していたはずだ。空を飛べる上に、ハクオウ基準であれば城どころか街を丸ごと吹き飛ばせるブレスも吐き出せるのだ。

 そんな事をされればハイランドの城及び城下町に生き残った者はおらず、過去の資料なども消え去っている。しかしそのような事はどこにも記されていない。


「黒竜王はここから見た北部の山岳地帯に居を構えておりました。ハイランド王国の人間は王竜を監視しており、その住処から離れていくのを確認するとその子供を攫いました」

「眷属の竜達もいただろうに、それだけでもすごい事だよな」


 黒竜王の子供だ。護衛の眷属も竜で固められていたのではないだろうか?


「流石に細かい経緯は把握しておりません。ですが当時の王国にもそれ相応に腕のいい者がおりました」

「なるほど」


 確かにこの世界には規格外の実力を持った存在がいる。

 イド達エルフやミリアがそうだ。騎士や冒険者の中にも多くはいないが、英雄と呼ばれるレベルの化け物を何人か知っている。


「次元を繋げるには膨大な魔力が必要で、その依り代に黒竜王の子供は選ばれました。当時の王は聖剣の正当な持ち主を用意し、ダランベールから聖剣の所有権を奪いたかったのでしょう」

「あれにそんな価値があるかねぇ……」


 オレからすれば制御が効かない危険な兵器にすぎないんだけど。


「ここは太陽神教のお膝元でしたから。国内の、しかも城の近くに太陽神教の大聖堂があるのにも関わらず、その象徴たる聖剣がないのが王には我慢できなかったのです」


 どういった経緯でダランベールが聖剣を管理する事になったかはわからないが、勝手な話だな。


「聖剣は勇者の物、なれば勇者がいればと王は考えました。そして王はその勇者を獲得する為に国内から勇者の捜索を行いましたが……発見されませんでした」

「そもそも聖剣を使えるかどうかだもんな、勇者って」


 稲荷火は武器を持てばその武器の特性が分かるって謎のスキルを持ってた。だから聖剣を使った時に『自分の命を犠牲にしない』方法が感覚で分かったらしい。

 どうせなら力の制御方法も分かるようになってもらいたかった。


「調べれば『勇者』であるかは分かります。偽物を擁立する事はできません。ですから次の方法を取りました。勇者召喚です」

「なるほど。勇者と指定して呼び出したわけだ」

「そういう事です。勇者召喚は過去に何度か女神クリア様が行っておりました。我ら太陽神教の大聖堂の書庫には魔法陣が残っておりまして、それを彼らは使いました……お恥ずかしい話ですが、我らの身内も当時の王に力を貸しております」

「まあレコーズ様はともかく、人間だったらな」


 この人は多分別の存在だ。


「その結果黒竜王は唯一の子供を失い、怒りを持って人類に敵対しました。ハイランド王国も対抗しましたが」

「まあ普通に勝てないわな。でも王竜は子が望めないって聞いたが……」

「そのようなお話は聞いたことございませんが」


 先日ハクオウから聞いたばかりなんだけど、なんだろね。イレギュラーかな? それとも王竜に選ばれる前に生まれた子供か?


「召喚された勇者もただの人間でした。女神様が呼び出された貴方達と違って、勝手に連れてこられた訳ですからね。言葉も通じず加護もない。勇者としての素質だけは本物だったかもしれませんが、それだけです」


 そうか。オレ達は女神様に呼ばれたから女神様のご加護があった。意思の疎通の為に言葉が不自由にならないようにしてもらったうえで、それぞれの個性に合わせた職業の能力を授かった。

 まあ言葉は分かるが文字が読めないし、職業の能力もいきなり最上位の能力を与える事は出来ないから素質の部分を大きくしたりとか。

 マスタービルダーレベル1みたいな感じだ。いきなりレベル99にはしてくれなかった。

 おかげで大分苦労をしたものである。


 呼び出された当初どころか、魔王討伐レベルになってもハクオウと戦って勝てるかと聞かれれば……全員揃っていたとしても、どうだろうか。


「そんな状態で黒竜王との戦いの矢面に立たされたのか、ぶっちゃけ不幸だな」

「ですね。その勇者は何の抵抗も出来ずに眷属竜に殺されたと聞いております」


 王竜の前に他の竜に負けたとか。可哀想すぎる。


「竜達は黒竜王の子を探すべく、人の居座る土地をすべて荒らしました。せめて亡骸だけでも、と考えたのでしょう。ですが見つからず、人々が隠しているのではないかと虐殺の限りを尽くしました。既にその在処を知っているハイランドの人間は滅ぼされていたので、誰かに聞くこともできず、がむしゃらに探しましたが一向に見つかりませんでした」

「……そういえばダランベール側にも攻め込みましたね」

「シルドニアの一部の貴族がダランベールへ逃げ込んだからです。彼らが亡骸を持って逃亡したかもと考えたのでしょう」


 その結果が先王様との相打ちか。


「それは別として、大聖堂は良く無事でしたね」

「我々も一時期大聖堂を明け渡しておりますよ? 人化した竜達に当時はかなり荒らされました。いくらでも調べていいですけど、壊さないでと真摯にお願い致しましたので大聖堂の外見だけは無事でしたが、片付けが大変でしたね……」


 心底大変だったという顔をするって事は、当時からこの人は大聖堂にいたんだろう。

 月神教大聖堂のディルグランデと同じ立ち位置かな。


「結果として人間側のほとんどの居住区がその機能を失いました。組織立って動ける者達がいなくなり、この大陸は魔物が謳歌する大陸になりかけましたが、獣族の皆様のお力で我々もなんとか平和を取り戻しております」






 レコーズ様の言葉に、先ほどから驚いて口を挟めないでいたライオネルが咳ばらいをする。


「あの不死者の城を攻略するつもりなのか? 何の為に?」

「勇者召喚が行われた魔法陣を確認し調査する為だ」

「……今の話を聞いたうえで、勇者召喚を行うと?」

「違う。そもそもオレ達はクリア様によって勇者召喚された側だ」

「は?」

「「「 すごいにゃ! 」」」


 獅子顔なのに間抜けな顔になった。相当驚いたようだ。

 まあ隠してたからな。そのリアクションはなんとなくわかる。


「女神クリア様がこの世界の、すべての生き物の危機を防ぐために勇者召喚を行いました。光殿達の活躍により危機は去りこの世界に平和が訪れたのです」

「なんと! 誠であるか!」

「オレは勇者じゃないけどな」

「すでに勇者本人は帰られましたが、彼らはその際にこちらに残られた者達ですよ」

「帰りそびれたんだ。うっかりでな」


 オレが工房にこもっていたのはうっかりと言っていいのだろうか?

 栞やエイミーを蘇生させたことは流石に言えない。


「だから元の世界に帰る手がかりを探しているんだ。召喚できるんなら送還も可能かもしれないだろ? 女神クリア様はその奇跡の力でオレ達をこっちに呼んだけど、人の力で戻るには奇跡なんて曖昧なものは頼れない。人の手で行える送還の技術が必要だ。旧シルドニアの資料を読み漁ったから送還の技術の確立はできると思う。でも帰る為の座標、道筋を調べる方法がさっぱりわからん」


 召喚の魔法陣自体は見つけたが、とても成功するとは思えない作りだった。恐らく更に改良された物が使われたはずだ。それをしっかり調べたい。


「なるほど、確かに迷子だ」

「そういう事だ」


 ライオネルは頷いて、レコーズ様に視線を向ける。


「大司教様、そちらは彼らにどのように対応されるおつもりですか?」

「我が主より既に力を貸すよう命じられております。ですが私自身の直接の介入は禁じられております。ですので聖騎士達100人を彼に預けましょう」

「ひゃく!?」


 驚きの声を上げるのはトーガだ。


「力を貸すと……竜の怒りの引き金に」

「黒竜王はもうおりませんし、それに彼らは使徒であり私と同じく主の眷属です。何よりクリア様の命ですので否はありません……なぜクリア様がご許可を出されたかまでは分かりかねますが、命を受けた以上力にならねばなりません」


 その言葉にライオネルが思案顔になる。


「……わかりました。我らも力を貸しましょう」

「!? いいのか?」

「うむ。我らの認識ではあの城はダンジョンのようなものだ。いずれ攻略せねばとは思っておったし、何より大司教様のお言葉だ。是非もない」


 獣族の部隊まで……。


「お主らだけでは数も少なかろう」

「一応、伝手を頼って人を集めてるけど……」


 エルフの部隊と赤角族がいる。


「ついでに聖騎士達に土地の浄化もさせる事にしましょう。不死者の討伐は我らの領分ではないですが、やれない事はないですから」

「不死者の城と城下町が片付けば、北部や西部の部族との交易が盛んになります。アンデッドの襲撃をさけて大回りさせている現状ですから。いっそ城を奪って我らの物にしてしまいましょうぞ。我らにも利点は十分ある」

「素晴らしいですね、。私は北部のキンカムイ族の蜂蜜が大好きなんです」


 笑いながら今後の事を話すレコーズ様とライオネル。

 それは取らぬ狸のなんとかって奴だ。


「そうだな、手が借りれるならばありがたい。こちらもそのつもりで準備をしよう」


 赤角族が戦準備に入ってるから、ユーナにもポーション作りをさせている。

 100人以上の増員があるならばポーション類も想定以上の数を用意しなければならないだろう。


「ちなみに獣族はどんくらい?」

「未熟者を篩にかけねばならぬからな、1万くらいか?」

「思った以上に多かった!」

「む? 城攻めなのだぞ? しかも万を超すアンデッドの群れが相手だ」

「別に兵糧攻めをする訳じゃないんだから……」


 とはいうものの交代で休めるのであれば人数は多い方がいいか。


「数が多いからな。とりあえずしばらくは狩りをさせて兵站を作らねばなるまいか」

「あー、なるほど」

「こちらの準備はどれほどかかるか……とりあえず兵站事情に明るい者に確認をさせるところからか」


 これだけの人数になると、行軍するだけでも大変だ。

 旧ハイランド城にはここからだと全然離れていないけど。行軍するとなるとそれなりに準備がかかりそうだ。1万以上の軍となると指揮の問題もあるし。

 助かるけど、助かりますけど。

書籍化ぁぁぁぁぁぁ!


挿絵(By みてみん)


MFブックスより、2023年4月25日発売です!

イラストはでんきち ひさな様が綺麗に仕上げてくれました!

表紙があって挿絵が入ってて、一部書店では書籍限定のSSがついております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ