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赤鬼族と錬金術師⑦

「ハクオウ様」

「うむ。決まったか?」


 まったりハクオウとダベっていたら、ロドリゲスが再びこちらに来た。先ほどの農作業の服ではなく、しっかりとしたものに着替えたようだ。

 赤い中華風の民族衣装に身を包んだジェニファーも伴っている。


「今まで、ハクオウ様の庇護下の元、オデたづは健やがにすごすごとができたべ」

「我は何もしておらんがな」

「んだごとないべ! ハグオウ様は村に襲い掛かってきた魔物を倒してくれただ!」


 ジェニファーも頷いている。


「んだども、オデたづはこのままじゃ滅んじまう。新しい血をいれでも、村さ大きさにゃ限界があるから結局子の数は増やせねぇ」

「広くすればよかろう」

「村が増えれば森が減りまず。んだばオデたづは食うもんが結局なぐなっちまう」

「海で獲ればいい」

「漁は危険だす。人が増えれば外海に出にゃならんぐなります」

「それに、森が減れば船も作れなくなります」


 ロドリゲスの言葉にジェニファーも続く。


「ミチナガに作らせればよかろう」

「いづまでも頼れません。道長様ならお作りになれっでしょうが、彼は人間だ。オデたづの半分も生きれません」


 赤角族の寿命はオレ達より長いからな。


「ミチナガ様には田畑を教わりますた、酒もくれます。でも、それに頼りっきりでは、オデたづは結局滅びますべ。だがら、だがら」


 そこまで言うとロドリゲスは地面に膝をつき、土下座の姿勢を取った。

 ジェニファーもそれに続く。


「どうかハグオウ様! オデたづのどぐりつを許して欲しいべ! オデたづは同族のいる大陸にいぎでぇ!」

「お願いいたします!」


 二人の後頭部を見える位置にはオレとハクオウ。

 オレはハクオウから距離を取った。ここではオレは部外者だ。


「ミチナガ」

「ん?」


 ここでオレ?


「こやつらの村をそのまま向こうに持っていく事は可能か?」

「「 ハクオウ様! 」」


 二人は頭だけ上げて、ハクオウを見つめる。


「や、村ごとは無理だ……家なんかは解体して向こうに持っていけるが、田畑の作物は向こうで育てられる保証はない」

「こやつらは冬を越せるか?」

「向こうの冬がどういうものか分からんから、知っている者に聞かないと判断出来ないが、なんの準備もせずに行って冬を越すって話ならば無理だと思う」


 冬自体が気候的にない可能性もあるけど。


「頑張りますべ!」

「何でもやるべな!」

「無理を言うでない……なあミチナガよ、我の鱗を新たに剥がそう。それで頼みを聞いて貰えるか?」

「頼みは聞くが、鱗とかは今まで通りで良いよ。向こうに行きたいってなったら、ある程度世話をするつもりだったし」

「「 ミチナガ様! 」」


 そりゃ、こんなにすぐに決断するとは思わなかったから何も考えてないですけど!


「連れて行くよ。ロドリゲス。ジェニファーも一緒に来るか?」


 向こうの赤角族に事情を話せば手を貸してくれるかもしれないしね。






「ここが、『都』だすか」

「ああ、賑やかだろ」

「ふむ、悪くないな」


 オレはハクオウとロドリゲスを連れて獣族達の都に来た。今回はセーナがお供だ。


「取り合えず赤角族の族長の娘ってのと面識が出来たから会いに行こうか」

「だ、だす!」

「気を負わなくていいぞ。向こうは族長の娘だが、お前も村長の息子なんだから」


 ロドリゲスが顔を強張らせているが、仕方のない事だろう。

 こいつは今まで離島の隠れ里に住んでいて、そこから出て来たことがないんだ。

 そもそも村の同族以外との繋がりがオレくらいしかいなかったんだ。


「よう、魔導士の兄ちゃん! 買い物か?」

「あー、違うが……違うぞ? ハクオウ」

「店主、これはこのまま食えるのか?」

「おうよ、白い兄ちゃん! うまいぜ?」


 ハクオウが目にしているのは梨のような果物だった。軽く目で解析をかけるが、毒素も感じない。まあハクオウに毒なんか効かないだろうが。


「赤角族の、フェイだっけ? あれを探してるんだ」


 ハクオウの視線に負けてセーナに会計をさせつつ、フェイローノネの居場所に心当たりがないか聞く。


「どうだろうな。虎狼軍の詰め所にいるんじゃねえのか」

「あいつ虎狼軍だったのか」

「だな。獅子王騎士団にいた事もあったらしいが、獅子王騎士団にいたんじゃライオネル様に喧嘩を売れねえってんでそっちに移ったらしいぞ」

「なんだそりゃぁ」


 なんとも脳筋な話だ。


「ありがと、行ってみるよ」

「おう、毎度あり!」


 オレもその果物を貰い、かじる。うん、みずみずしくてほのかに甘い。美味しい果物だ。


「魔導士の兄ちゃん!」

「あいあいー?」

「そっちじゃねえぞ!」

「あら失礼」


 だってハクオウが勝手に動き回るんだもん。


「すまんな、人の姿であれば人の街で過ごせるのか。まったく気づかなかった」


 角も尻尾も隠せるようになったハクオウだ。白くて目立つが、ここは人間以外の方が圧倒的に多いので多少白い人間という程度では注目を浴びない。

 角と尻尾が隠せるようになって初めて来た街で、角と尻尾を隠す必要のない場所に来たのだ。ハクオウの努力が浮かばれない。


「まあ来ても金がなけりゃ買い物もできないけどな」


 今回はオレが出してるけど。

 それと王竜が気ままに街に来られては、その街に住む人間はたまったものではない。


「ふうむ、闘争の気配を感じるな」

「誰かが争ってるってこと?」

「訓練だべか」


 さっきの果物屋さんに教えられ、市場の品に目移りするハクオウを抑えながら到着したのは虎狼軍の詰め所である。

 そこから聞こえるのは戦いの音。

 彼らはこの都の防衛機関だ。訓練所も当然あるのだろう。

 正面に建物があるが、ハクオウは戦いが気になるのか建物に囲まれた庭へと足を運んでいった。

 中に入ると、剥き身の茶色い大地に赤いシミを作っている、倒れ伏したフェイノローネの姿。

 そして、その目の前にはフェイノローネよりも体の大きい、ロドリゲスよりも圧倒的肉厚を持った彫りの深い赤角族の男が剣を振り下ろさんとしていた。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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