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赤鬼族と錬金術師⑥

「大丈夫かあいつ?」

「どうであろうな。まあ問題なかろう」


 憮然とした態度をしていたハクオウが地面に腰を落として胡坐をかいて座る。


「いきなりだったな」

「ふん。お前が持ってきた話であろう」

「そうだけどさ」


 赤角族、この島の連中は自分をオーガ族と呼んでいる種族だ。

 ダランベール王国のある大陸では、エルフの年寄りくらいしか知る者のいない種族。魔物のオーガと見た目が同じだったのと、過去の赤角族の多くがその気性の荒さから駆除対象となっていた。

 人間との争いが激化し、またその執拗さに嫌気がさした赤角族達はこの島に逃げ込んで住んでいるのだ。

 そんな彼らの辿り着いた島にはハクオウがいた。

 赤角族は明らかに勝てない相手に服従し、その庇護下に入った。

 あくまでも庇護下だ。

 ハクオウはこの時、守る対象として受け入れたのだ。

 しかし、ハクオウが守れるのは外敵からの襲撃のみだった。

 赤角族の生活を守っていた訳ではない。

 強い魔物の闊歩する森や海での狩り生活で、強者は怪我をしたり死亡したりした。

 また、食事も簡素なものが多く生まれる子供も長生きできずにいたのだ。

 そんな中に現れたのが、ハクオウの眷属の竜の1匹と友和を結んだのがオレ達の仲間、元クラスメートで【ビーストマスター】の篠塚宏美だった。

 眷属の竜からの話に、食事とかならなんとかなるんじゃない? と軽く答えてしまった篠塚。その眷属から話を聞いたハクオウが篠塚に頼み込み、篠塚は青い顔をしてオレ達に助けを求めて来た。

 あの時は遠征先の村で大変な事態になった……。


 そんな経由で、赤角族の村の開拓と島の開拓。島の近海の調整なんかを行った。

 ついでに日本食にも飢えていたオレらは、赤角族達を労働力に好き勝手やった。

 お酒の為に育てていた彼らのお米を日本のジャポニカ米的な物に品種改良して主食に昇華させもしたわけだ。


「さて、どう出るかの。このままあの連中の滅ぶ様を眺めるのはちと辛いが」

「確かに不憫ではあるがな」


 あと50年早くオレ達が来ていたらここまで悪い状況にはならなかっただろう。そう言っていたかつての仲間【大神官】の小太郎の言葉を思い出す。


「ただ、彼らの選択次第ではある。我はあくまでも我が眷属の王じゃ。故に眷属にもできん矮小な鬼なんぞ、どうなってもよい」

「はいはい、わかってるって」


 こうは言っているが、ハクオウは赤角族の連中が好きだ。何かにつけて一緒に酒盛りをしている。

 関心が無ければ庇護下に置かないし、気まぐれに庇護下に置いたとしたら、その後は放置していたはずだ。

 そもそもオレ達へ助けを求めたりはしなかったはずだ。


「彼らがもし、もしここから出ていく事を選択してくれなければどうするつもりだ?」

「変わらんさ。我は庇護下の者を見捨てはせぬ。最後の1匹になるまで、見つめ続けるだけだ」

「王竜ってのは難儀だね」

「ふ、我は言葉を理解するだけのただの竜じゃ」


 どこか遠い目を向けるハクオウ。


「そもそも王竜ってさ、特別に強い竜って認識でいいのか?」

「そうだが……どういう意図の質問じゃ?」

「あー、ほら。こう。実は世界を支えているとか、魔物を操る力があるとか、世界を終焉に導くとか」

「なんじゃそれは、どこぞではそう思われているのか? ふは! くだらぬ」

「ああ、やっぱり?」

「当然であろう。馬鹿な事を申すな」


 胡坐をかいて座っているから、オレも地面に腰を下ろして視線を合わせる。


「なんかハクオウも、それと向こうの大陸の赤樹竜ってのも、何かしら任務的な物があったりするのかなって」

「任務か、いったい我にそんな命令が出せると?」

「んー、女神様達とか?」


 ハクオウほどの存在を超える物は、恐らくこの世界では女神クリア様と女神ディープ様くらいしかいないだろう。

 クリア様はともかく、ディープ様はあれだけど。


「まあ竜の魔物であれば従えられるがの。我は王であるが故」

「そういや眷属いるもんな」

「うむ」


 何気にハクオウの眷属の竜もスーパー強い。


「それに女神と関わっておるといえば関わっておるな。何せ我ら王竜は女神に力を封じられておる」

「え? マジでか」

「うむ。太陽神の方だ」

「そうなのか……てか封印? 今でも阿呆みたいに強いのに?」

「阿呆とはなんじゃ阿呆とは。まあその通りではあるか」


 そう言いながら頭を掻くハクオウ。


「儂ら王竜と呼ばれるものはそれぞれが元は魔物の竜じゃ。竜という種は共通項目として『同格の魔物を食えば食う程強くなる』特徴がある。古き時代より生きておる我ら竜の強さは天井知らずだの」

「それは恐ろしい話だな」

「であろ? しかし一定レベルの力まで上がると、その力が制限されるのじゃ。天より監視しておる者がおるのであろうな。そやつらが来て交渉を持ちかけてきおるのじゃ」

「交渉?」

「うむ、より強い次元に向かってその力を発揮するか、この世界で力の制約を受けて生きるかとな」


 クリア様仕事してるんだ。


「むろん太陽神本人が来るわけではないぞ」

「そりゃそうか」


 ディープ様がそうだが、何かしら制限付きで降臨されていたからな。


「大半の竜は好戦的であるが故に高次元に旅立つ事を選ぶ。こちらの世界におっても同種の竜くらいしか対等に付き合える相手がおらんからの。しかも太陽神の目に留まるほどの能力を持った竜は、どこかしら変質しておる。この世界では子は残せぬほどの変化じゃ。じゃが高次元ならばあるいは……とな」

「ハクオウもか?」

「我は大きさじゃな。小さき時に子を残したのでもういらぬ」

「お前でかいもんな」

「同種のホワイトドラゴンと比較して3倍くらいじゃな」


 今は人型だけどな。


「こちらの世界に残る事を選択すると、力を封じられて同種の王竜との戦いを禁じられる。力を封じられておるとはいえ、王竜同士が戦えば大地は荒廃し海は枯れよう。生物の住めぬ土地が容易に生まれる。太陽神はそれが看過できぬらしい」

「ああ、まあそうだろうな……」


 聖剣を扱える人間がいないからって理由で、別世界から【勇者】になれる稲荷火と、そのサポートの為にオレ達を呼んだくらいだ。


「我は別に戦いを好むわけではない。ただ元々体が大きく、力が強かっただけである。襲ってくる人や魔物を相手取り、腹が減ったらそれらを食う。そうしておっただけなのじゃがなぁ」

「だからお前は力の制約を受け入れてこの世界に留まっているのか」

「そういうことじゃ。別の世界に渡って、我が強者である保証もないしの」

「あー、それはありそうだな」


 女神クリア様と女神ディープ様は様々な世界をお作りになられているらしい。

 冥界はそれらの世界の中で過去に滅んだ世界を利用しているし、栞やエイミーが冥界で聞いた話だと、他にも様々な世界を作っているとのこと。

 天界と冥界からそれらの世界を管理したり、しなかったりしているらしい。

 中にはハクオウがワンパンで倒されるようなパワーバランスおかしい世界があってもおかしくない。


「制約にも利点がある。まず腹が減らん。日の光や月明かりに適当に当たっておればそれだけで回復する。食事もできるがの」

「なんというエコっぷり」


 こいつソーラー式だった。


「それと眷属も王竜の力であるな。王竜にならなければ、ただ竜や魔物を力で押さえつけるだけの存在じゃ。【王】の力は封じられておる力が返還され漏れ出した物じゃ、我が体から発せられた波動は下々の竜達は自然と我に頭を下げさせる」

「ほほー」

「王竜同士が互いに近寄らぬのもその波動が理由じゃな。王竜同士の種類の違う【王】波動は下々の竜に混乱を生む」


 命令系統が2つになるからどちらの命令に従うべきか分からなくなるって事かな?


「故に我らは互いに縄張りを持ち、あまり近寄らぬ。我は波動を一時的に抑えることも出来るが、若い王竜はそれができぬしできる事も知らぬから近寄っただけで敵対行為と考える者もおる。お主らの大陸におる王竜は若いでな、以前挨拶に来た時に連れていた眷属を奪いかけてからあまり良い印象を持たれておらぬ」

「その時は波動を抑えてなかったのか?」

「我が抑えれば我の眷属が向こうに頭を垂れてしまう」

「ああ」


 それは確かに。


「むろん返してやったがな。それ以降は一度しか会っておらん。じゃからお主にも気を付けろと申したのじゃ……しかし我が庇護下の者を預けるとなれば、挨拶せねばなるまいな」

「そうなのか?」

「うむ」


 ハクオウの庇護下から向こうの、赤樹竜に預けるって事になるのか?

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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