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いざ! 旧ハイランド王国へ!

お久しぶりです。てぃるです。

いよいよ最終章の開幕! おまたせしました。

 気持ちいい風が走る草原が広がる中、簡素な木の柵が延々と横に伸びているのが見える。

 少し離れたところに見張り台があるものの、そこにいた人影は姿をくらましていた。

 ここはシルドニア皇国、皇都ハイナリックからさほど離れていない草原だ。

 いい天気である。


「柵があるねぃ」


 馬車の御者台に、オレの隣に座る彼女。風になびく薄いピンクの短い髪を抑えるのは、異世界から召喚された大盗賊の才能を神に与えられた少女。日本人の川北栞だ。


「あっちに馬車が通れそうな扉があるぞ?」


 馬車を護衛する形で馬に乗り、馬車の護衛として先導していたレドリック=ブラインが左手の指で扉を示している。


「きちんと開くでしょうか? 最後に使われたのは何十年も前という話ですし」


 同じく馬車の護衛をしていたセリアーネ=ゼムダランは眉を潜めてその扉に視線を向ける。


「最悪壊せばいいっすよ! ライト様ならすぐに直せるっすし」

「直せばいいってもんじゃねえだろ」


 この中のメンバーで唯一、奴隷という立場のジェシカがやはり馬上でそんな事を言いだす。


「良いのではないでしょうか?」

「私も、そう思うかな」


 馬車の中からそんな声が聞こえてくる。

 一人はダランベール王国元第一王女のミリミアネム=ライトロード。そうライトロードである。気が付いたらそう名乗ってた。

 金髪の長い髪と、青い大きな瞳の美人。


 もう一人は栞と同じく異世界から召喚された茶色い髪の少女。

 少女というよりは女性と表現した方がいい彼女は、やはり日本人の相良エイミーである。


「せめてエイミーだけは常識的な意見を言って欲しかった」

「ご、ごめんね?」

「あら? わたくしは構いませんですの?」

「乗り出してくるな、危ないぞ」

「そうです?」

「じゃあ危なくしてやるーぜー」

「わきゃきゃっ! ちょっ! ひゃんっ! シオリ! 脇は卑怯ですわ! それとエイミー! お尻を抑えないでくださいまし!」

「ミリミリ、油断大敵だぜー」

「ミリアさん、ごめんね?」

「お尻を撫でないでくださいましっ!」


 スーパー羨ましい。


「で、どうする? 旦那」

「とりあえず開くか見てくれ」


 馬車に繋がった飛ばない鳥、だっちょんを操作し馬車を止める。


「しかし、遠目から見てもあの柵の向こうには魔物がいるのだな」


 馬をこちらに近づけて、大きな盾を背負った女性がこちらに話しかけてくる。

 ミリアがオレと結婚する前は王族であったミリアの親衛隊の隊長だったセリアーネ=ゼムダランである。

 ミリアが結婚をし、王位継承権の永久放棄を宣言したので親衛隊は解散した。

 ダランベール王国の騎士団の要職に就くことも可能だった彼女だが、ミリアと共に行動する事を選択し、ここまでついて来てくれたのだ。


「ああ、そこは聞いた通りだな」


 旧ハイランド王国と現シルドニア皇国の境、まあシルドニアはこの先も自国と定めてはいるが、その柵から向こうの危険地帯には普通に魔物の姿が見える。

 あまり凶悪そうな魔物ではなく、草食系の魔物が多いが。まあ膝くらいの高さの草も生えているから見えないだけだろうけど。

 ぶっちゃけのどかだ。


「この柵を超えて半日程度進んだ先が戦場ヶ原とか血吸い草原とか軍の墓場とか、そんな物騒な名前で呼ばれているんだよな」


 旧ハイランド王都が竜の率いる魔物の群れに襲われて、人間達は何度も王都奪還のために派兵をした。


 当初は様々な魔物がその地への侵入を防ぐべく、目に見える形で草原に魔物が闊歩していたらしい。

 大型の魔物から狼程度の大きさの、主に竜や蛇、狼といった魔物が多くいたとシルドニアの王城資料室から出て来た資料に載っていた。

 だがある程度の時期を境に魔物が姿を消したという。

 忽然と姿を消したのでは勿論ない。

 ただいなくなった訳ではない。当時は皇国の名を持っていなかった、各領主たちが治めていた土地をまっすぐ東に横断していったのだ。

 黒竜王という強大な力を持つ王竜と呼ばれる存在に率いられて。

 それらは侵攻先に、不幸にもあった町や村を踏む潰して海へと消えていった。

 ダランベールの記録にあった大侵攻の事だろう。


 かくしてこの草原から巨大な魔物の姿はほとんどいなくなっていた。

 人々は海に消えていった魔物達に警戒をしていたが、やがて魔物達が戻って来ないと知ると旧ハイランド王都奪還のために動き出す。

 旧ハイランド王国には王城もあったが、何よりも太陽神教の総本山たる大聖堂がかつてはあった。

 今はどのような状態になっているが、知る由もない。ただ、現実に太陽の女神クリアという存在を知る者がいる世界だ。信仰の依り代たる大聖堂の奪還と、人々の領域の奪還を目標に、当時国の形を成していなかったものの、人の集団の中心にいた一人のエルフの号令の元、多くの騎士や兵士がその考えに賛同し、この草原へと集結したという。


 自分達の住居を構える都や街、村などの近くでも見る事のできる魔物しか草原にはいない。

 そう思っていた彼らを待ち受けていたのは、たった1種類の魔物の群れであったという。

 何度も何度も戦いを挑むものの、槍の様に鋭い手足で騎士や兵士達は貫かれた。

 騎士や兵士達の攻撃は、その強靭な体に致命傷を与える事が難しく、一部の手練れと呼ばれる存在以外では満足にダメージを与える事ができなかったという。


 その魔物は非常に数が多かったらしい。

 一部の手練れ達から見れば、強敵ではあるものの、決して倒せない相手ではなかった。

 だが、そんな強者は一握りだ。

 彼らが突出してその魔物を倒すことが出来ても、他の者達がついてこれない。


 何度も戦いを挑み、何度も敗走し、それでも挑み続けた彼らであったが、限界はいずれ来る。

 何より、その魔物の数が途方もない物だった。

 彼らの心が折れるのは仕方のない事だっただろう。

 それ以来、何度も魔物の湧き出る草原に様々な人間の集団が挑戦し続けて来たが、突破した人間は誰もいなかった。

 こちらに戻って来ていないだけで突破自体は成功した人間がいたかもしれないが、まあ不明だ。


「これから未知の領域に、挑戦するんだよなぁ」

「イドっちが文句言ってたよ? もうすぐ産むから待っててくれればいいのにって」

「産むって……産まれるって言えよ」


 戦いに間に合わせるために早く産むとか、そんな馬鹿な事を言ってやがったのはエルフのイドリアルである。

 三度のメシと戦闘に命をかけている残念美人だ。

 ……オレの子供を身ごもっているんだ。安静にしてて欲しい。


「まあイドさんですし……」

「エルフですもの、しょうがないですわ」

「母親になれば落ち着くと思ったんだがなぁ」

「「「 ないない 」」」


 大きいお腹のまま剣を振るえるか試してオレの造ったホムンクルスのリアナに怒られ、剣で怒られるなら弓だと試してまた怒られる。そんな残念な思考をしている種族の女である。


「あ」

「ん?」


 栞の視線の先のレドリックが扉を壊したのが見える。

 慌ててこっちを見て慌てて首を左右に振っている。


「違うぞ! 触っただけで外れたんだからな!?」

「あー、まあ最後に使われたのは80年くらい前って話なんだろ? 腐食して崩れやすくなってたんじゃないかね」


 そちらに近づくと言い訳を素敵にしていたので、軽くフォローを入れつつそちらに移動をする。


「軍での移動で約半日って話だからな。2時間程このまま進んで、そこから様子を見ながら慎重に移動ってとこだな。連中の活動範囲が広がってる可能性もあるけど」

「わたしが感知するから平気でしょ」

「まあ何とかなるだろ。装備も新調して貰ったしな」

「問題なしですわ」

「お任せください。ミリア様も道長も守ろう」

「ご主人様を守りのはセーナの仕事なんだから!」

「イリーナもあるじをまもるー!」

「自分は怖いっす!」

「私も、ちょっと怖いか、な」


 仲間達……家族達が一部を除き頼もしい声を上げてくれる。

 さて、行きましょうか。

 ハイランド王国とやらにね!

書籍版おいてけぼりの錬金術師第3巻、2023年1月30日発売! そちらもよろしく!

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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