赤鬼族と錬金術師⑤
「って訳なんだわな」
「どういう訳かよぐわがんねーけんど、同族が見つかっだんは感謝だべな」
翌日、オレ達で開拓した赤角族の島に事情を説明しに行く。
ハクオウも同席だ。
「ミチナガよ、お前の話はわかったが……それで?」
「そんだけだよ」
「は?」
真っ白な衣装と真っ白な長いストレートな髪を風になびかせるのは人化ハクオウ(男)だけどオレの言葉がそのイケメンフェイスを間抜けにする。
「一応知り合ったって事だけ報告をな」
「うむ、それは良い。ここの住人も多くはないからの」
「だろ?」
「それを伝えて、お主はこやつらをどうするつもりなんじゃ」
ハクオウがオレを値踏みするような視線を向けて来る。
「ここの集落の規模が徐々に小さくなっていったって話はオレも知ってたし。そこに関してはどうしようもないと思ってたんだけど、同種を見つけちまったんだ。逆に聞きたい。どうしたい?」
「こやつらに決めろというのか?」
「別にハクオウが決めてもいいぞ、ハクオウの指示にこいつらは従うだろ。だから村長の息子であるロドリゲスとあんたに先に話したんだ。ハクオウの指示によってはロドリゲスもこのことを忘れるだろ?」
「んだべな。ハクオウ様がおっしゃられば、オデはこのごどは誰にも言わんべ」
「でも誰にも知られないで、ハクオウだけで決めるのもなんか違う気がしてな……ハクオウは彼らを保護しているが、支配している訳じゃないし」
「当然じゃ」
憮然と腕を組んで、支配という言葉を否定するハクオウ。
「我は確かにこやつらの事をどうにかしたいと思っていたが、こやつらの同族を……か。ふむ、ロドリゲス。お主はどうしたい?」
「つええなら嫁さんにほしいべ」
「やあ、お前程強くはないぞ」
「むう、ウチのカミさんとぐらべてどうべな」
「ジェニファーとか? ジェニファーのが上じゃないかな」
この島にいる赤角族は強い。
エルフ程では当然ないが、上位の者はレドリックと訓練が成り立つ程度の実力があるのだ。
実力だけで言えばAクラス冒険者と同程度のレベルの者がゴロゴロいる。
ハクオウの庇護下にいるが、魔物が出現する森や海で狩りをしつづけて生計を立てている以上最低限の実力は求められる場所に住んでいるのだ。
それにこの島やこの島の近くの海域に住む魔物の危険度レベルはかなり高い。オレ達が武具を授けて、健康状態をチェックし、模擬戦などを通して実力を上げたうえで狩りも行えるように全体的にレベルの引き上げを行った結果だ。
代償として、明穂や稲荷火の名前を聞くと震えあがる者がいるが。
「奏様や小太郎様がおっしゃってた、血が濃くなりすぎだって話もあるがらな……年寄共はうげいれてるがや、オデは……」
ちらりとハクオウに視線を向けるロドリゲス。
「ロドリゲスよ」
「はっ!」
「貴様には、4つから選ばせよう」
「よろしくおねがいじます!」
ハクオウが指を一つ立てる。
ハクオウがロドリゲスに選択肢を突き付けた。
「一つ目の選択肢はお前だけが外に出る事じゃ。妻のジェニファーも連れていく事は許さん」
「オ、オデに村を捨てろと」
「そうだ」
「ありえません!」
まあロドリゲスならそう言うだろうな。
「では二つ目、外の者を誘致するか?」
続いて指をもう一つ上げる。
「それは、でも……」
「その場合はミチナガの扉を使い、我が彼らを導こう。我の命令であれば連中も頷く他あるまい」
「ここに、外のオーガ族を……」
「うむ」
ロドリゲスがその意見に唸り声を上げる。
ちらりとオレに視線を向けるが、オレは何も反応しない。
お米を作らせたり、現代日本の食べ物に近くなるように品種改良した野菜を作って貰ったり、海鮮類の取引を日々行っている。
しかし作物は彼らが消費する物で余らせる程の物と物々交換を行っているにすぎない。各種回復薬の素になる薬草を作ってもらっている畑もあるが、これらはすべて対価を払っている。
「外のオーガが増えれば、家や畑もふやさなばならんべ……」
ロドリゲスが村にある家々や畑を見つめる。
ここは比較的大きい離島だが、平野は限られている。畑の範囲を増やすならば、海東にやらせたように森を開かせないといけない。しかし彼らに【大魔導士】である海東と同じことはできないだろう。
「悩んでいるようじゃな。次の選択肢はこの島を捨てて、外の世界の同種との合流じゃ」
「ここを捨でろどいうべが!?」
驚きの声を上げるロドリゲスに
「うむ。この島に一人も残してはならん。もし隠れて残っている者がいれば村ごと焼き払おう」
「畑もだべか!」
「無論」
無表情のまま、ロドリゲスにハクオウは告げる。
「そんな……でもハグオウ様は、オデ達が必要ないべが?」
「別にいらんな。元々お前達がいなくても生きてきたのじゃ。勝手にお前達が我の島に来て、勝手に頭を垂れただけの関係よ」
「むぐっ」
オーガ達は何気に寿命は長い。普通の人間の倍以上らしい。だからロドリゲスの父である村長や、村の年寄衆はこの島に来た時の事を知っているし、それを子供らに伝えてもいる。
村の管理は若い者たちに既に任せており、彼らは健やかに過ごしているが、彼らの知識はなくてはならないものだ。
「最後はこのまま、何もしない。外の赤角族の事を忘れて、今までの生活を続けるのじゃ」
最後の提示をすると、ハクオウは腕を組んで尻尾を軽く動かしている。
「すごし、考えさせてもらえまぜんだべか」
泣きそうな顔のロドリゲスが、村の方を見る。
「お主の信頼するものになら相談をしてきても構わん。ただ、その場合その者達から話が漏れないようにした方が良かろう。外の世界を夢見て船を出す者がでるかもしれんからな」
「わがりましだ……」
ロドリゲスは肩を落とし、トボトボとこの場を去っていった。
村とは別の方向に。




