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赤鬼族と錬金術師③

「じゃあお願いね」

「ああ、わかった」


 シェリーさんが再び顔を出したので、彼女の案内で獅子王騎士団の訓練場に到着。

 訓練場といっても、街の外側のぽっかりあいた一角だ。普段はここで獅子王騎士団のメンバーが武器を振るって汗を掻いているらしい。

 今日はそこに大量の大きな樽と長い机と椅子がいくつも並んでいる。

 え? 何人呼ぶ気?


 オレが頼まれたのは確保したドでかいバッファローの解凍。それと肉に掛けるソースの提供だ。塩以外の調味料が乏しいこの世界では、お肉に掛けるソースの種類が限られている。

 それでもこの街であればある程度の数ある。なんならここは様々な種族が入り混じった『都』だ。それぞれ種族独自の味はあるのでオレ達もオリジナルのソースというか調味料があるのではと聞かれたので提供することになった。

 色々な種族が入り混じっての宴の場合、調味料は別皿らしい。ソースとパウダー系の調味料は別皿に用意して各々好きなものを取るらしい。もちろんシンプルな塩もあるし、乾燥した香草なんかもおいてある。

 ちなみにウチのメンバーの味の好みは結構分かれている。

 オレと栞、ジェシカがサッパリ系。

 エイミーとセリアさん、レドリックがこってり系。

 ミリアが辛い系が好みである。

 イドはとにかく美味しいと全部食べるから分からん、妊娠中も味覚は大きく変わって無かったし。

 バステト族は辛いのが好きらしく、真っ赤なソースが多い。毒々しいくらい赤いソースも混じっていて、ミリアが目を輝かせていた。

 それでいいのかお姫様。


 焼きたてのパンを提供するエリア、お肉を専属に焼いて提供するエリア、野菜や果物を提供するエリアと分かれており、料理人と思われる人たちが準備に追われていた。

 酒のエリアは……うん、近寄らないでおこう。

 待て、引っ張るなレドリック。そっちは嫌だ!


 食べて飲んで、いろんな種族と話して。

 落ち着いてきたので、赤角族が多く集まっている一角に目に行く。

 島の赤角族よりも、肌が若干赤黒い。頭に2本の角が生えているが、体は少し小柄か? それでも人間よりでかいが。

 酒を呑んで笑っている。

 女性が多いな。結構目に毒な恰好をしている人が多い。


「おう、あんたがこいつをここまで運んでくれたんだってな! 人間の癖にいい仕事するじゃねえか!」


 見ていたら声を掛けられたので、とりあえず近寄っていく。


「ちょっと手を貸しただけだよ。まあ喜んで貰えたなら幸いだ」

「謙虚だねぇ! その細い腕で大したもんだ!」

「人間は力が弱いから、その分考えないといけないんだよ」

「ああ、確かによええなぁ。普通は……」


 そう言って彼女が視線を向けるのは、オレの護衛役をしていたレドリック。


「結構なの連れてんじゃねえか。ただの獣ならあんたでもいけんだろ?」

「んあ? 俺か」


 他の赤角族の女性の肌面積の広さを堪能していたレドリックに鋭い視線が飛ぶ。


「ああ、そうだよ。あたしの見立てじゃ、あんたが一番面白そうだ」

「力って意味なら俺だろうな」


 そうしてレドリックは辛いソースを堪能しているミリアと、そのソースを味見して火を噴いている栞達に視線を向ける。


「俺はこいつの連れの中じゃ、まあ単純な戦闘だけで言えば最下層組だ」

「ほほー、あの女達そんなにすごいのかい」

「ああ、単純な力って意味ならオレだろうが。サシの勝負じゃあそうだろうな」

「普通の小娘にしか見えないな」

「俺とジェシカ。こいつだな、これ以外はちいとばかり普通じゃないぞ。もちろんこの男も別格だ」


 奴隷として戦闘経験はそこそこあるが、あくまでも常識の範囲の戦いしかしてこなかったジェシカが一番下。

 守る事に長けているものの、攻め手に欠けるセリアさんがレドリックとほぼ同格だが、オレの作成した武器といくつかの魔道具を組み合わせて戦えばセリアさんの方が上だろうな。

 イドと栞、ミリアとでは単純な戦闘能力が違い過ぎる。

 エイミーとは勝負にならない。まあコレはレドリックじゃなくてもそうだけど。


「勝負でなら道長に負けないだろうが、戦いになれば勝てないだろうしな」

「どうかなぁ」

「いや、お前えげつないし」


 それ魔王軍と戦ってた頃のオレだろ? 人間相手にそんなの使わんわ。


「へぇ、興味あるねぇ。どうだい? いっちょあたいと戦わないかい?」

「宴の席でやることじゃないだろ。メシに砂埃が飛んでくるぞ」

「トッピングみたいなもんだろ」

「ぜってー違うし」

「マジか! リーダーやんのか!」

「いいねぇ! いい余興じゃない!」

「あたしゃリーダーに賭けるぜ!」

「オレもだ!」

「我もフェイに賭けよう」

「ライトニャン!」

「ライトニャム!」

「鬼のお姉さんニャル!」


 勝手に賭けを始めんな! それと普通に混じるなライオネル! お前止める側じゃねえのかっ!


「あらあらー、戦うのですか? 旦那様」


 そこに顔を赤らめたミリアも近づいて来る。


「やらないよ……」

「いいじゃないのかしら? この間はライオネル様方のお力をお見せ頂いたのだもの。お礼にわたくし達のリーダーの力を見せてあげれば」

「オレは作り手だからな?」

「うふふ、ここのところわたくし達ばかり戦ってたもの。たまには格好いいところを見せてくださいな。旦那様ぁ」

「酔っ払ってやがるな……こいつ相当酒強いはずだったんだけど……」

「ちなみにエイちゃんはもう潰れたからセーナとイリーナに帰して貰ったよ! あたしは飲んでない! エグイくらい度が高そうだったから!」


 ちなみにイドは相変わらずエルフの里だ。リアナとユーナもそっちでイドとイアンナのお世話中。


「それは酒なのか?」


 アルコールでも飲んだのか?


「ミリア様、どうかお休みになってください。せめて座って……」

「わたくし達の旦那様にわたくしも賭けますわー」

「ああ、俺もだな」

「あー、そうっすねぇ。ライト様の魔法すごかったっすから。自分もライト様に賭けたいっす」


 なんでお前らまで賭けに乗るっ。


「お前らオレの護衛だろうが……」

「たまには自分の体動かせよ、鈍るぞ」

「流石に範囲魔法は禁止にした方がいいんじゃないっすか?」

「ほう、ライトロード殿が戦うのか。楽しみね」

「シェリーさんまで」

「ここまで言われて、引くのは男じゃねえよなぁ?」

「リーダー! やっちまってください!」

「リーダーと戦えるなんて幸運だな!」

「オレ、魔法使いですけど」

「見りゃ分かるさ。あっちの離れた場所でやろうぜ」

「「「 やんややんや! 」」」


 え? オレ、本当に戦わないとダメなの?


「っつってもただの喧嘩じゃあお互いに怪我しちまう。模擬戦形式で相手をしてやるぜ」

「はぁ。杖とか武器は使っていいんですよね……」


 周りの熱に押されてこうなってしまった。

 これでまだ宴が始まってないから驚きである。


「構わねえよ! 人間は非力だかんな! なんでも使いな!」

「それじゃあ、遠慮なく」


 オレは鞄から浮遊する絶対防御(フロート・ガーディアン)を4つ取り出して地面に浮かべる。

 更に新しく考案したホムンクルスの魔導媒体【影食い蛇(ブラック・ヴェノム)】を鞄から出した。


「おいおい、まさか魔物使いか?」

「魔物とは違うけど、まあ似た感じ? ダメなら仕舞うが」

「……なんでも使えって言った手前、ダメとは言えねえさ」


 影食い(ブラック・ヴェノム)はオレの体に上ってきて、そのままローブの模様の一つのようにぴったりと平らになってくっついた。

 こいつはオレの魔力を使って、自動で魔法を使ってくれるホムンクルスだ。

 リアナ達のように自分で思考をし、必要に応じて迎撃や防御の魔法を考えて撃ってくれるし、オレの指示に従って魔法も放ってくれる。

 しかもこいつ、オレの放つ魔法よりも発動が早くて威力が高い。その上オレが自分で魔力を使うよりも魔力コストを低く放ってくれる優れものだ。

 ホムンクルスの魔法使いである。

 ちなみにモデルは小さい頃のチェイク。

 本物のチェイクはどうしたって? 体がでかくなりすぎて転移ドア潜れないのよ。今は赤角族のいる島で、眷属としてハクオウに従っている。

 たまにリアナが会いに行くついでにエサを与えてたりする。脱皮したときに出来た皮や生え変わりの牙、それと牙から採取できる毒が素晴らしい素材になったりする。


 最後にいつものようにカートリッジ式のオレの身長よりも高い杖。これももうちょっと弄りたいんだけど、どうにも考えがまとまらないんだよな。

 それを片手で持って相手に視線を向ける。


「お待たせ」

「……魔法の鞄は見た事あるから驚かねえが。それがあんたの本気の姿か」


 まだ錬金靴や黒銀の籠手、それと聖剣があるけど。流石にオーバーすぎる。でも逆にここまでは装備しないと、近寄られてしまうと勝てない。

 ローブも中に着てる服も特別製で自慢の品だが、顔は剥き身だ。近接戦闘を仕掛けられると単純に怖い。


「ライトロードだ」

「あ?」

「お互い名乗ってないだろ? ミリアに実力を見せろって言われてるから、真面目にやるぞ」

「そうかい! あたいはフェイロノーネ! 赤角族の族長の娘だ!」

「では、お互い構えてください」


 気が付くと、オレ達の間にシェリーさんが立っていた。

 あんたが審判か。


「ルールはお互いに敗北を認めさせるか、わたしが戦闘不能と判断するかです。それと外部からの支援や援護が発生した時点で止めます。フェイ、武器はいいの?」

「はっ! 人間相手に武器なんか使うかよ!」


 腰と胸元を隠す程度の布しか身に着けていない、オレよりも身長の高いフェイノローネが声を上げる。

 その言葉にシェリーさんは頷き……。


「ライトロードさん、そんなに本気装備でいいんですか?」

「だって、近寄られて殴られたら痛いじゃん」


 や、そんな呆れた顔をしないでしよ。

 痛そう、じゃない。絶対に痛い。

 オレは痛いのは嫌なんだ。


「では、互いに構えて……始め!」

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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