赤鬼族と錬金術師②
「「「 都会にゃ~! 」」」
トーガ達3人が都の中に足を踏み入れての第一声。
ダランベールやシルドニアの都市と違い、木造りの家が多く建物の高さも低い。
それらと比較すると、ちょっと人の多い街といった印象だ。
それでもケットシー族の村や、ここに来るまでに立ち寄った獣族の村や里と比べると随分と明るく、賑やかである。
「お、帰って来たな5代目!」
「例の魔物はどうだった?」
「いいねぇ、凱旋の宴はやるんだろ? 注文はウチにしてくれよな!」
「格好いいコン!」
獅子王騎士団は人気があるのか、都の様々な獣族に囲まれている。
「ほら、危ないから道を開けてくれ。走竜が通るんだぞ」
騎士団の面々が注意を促し人を避けて動いている。
しかし、獣族の子供達はそんな事おかまいなしにライオネルや他の騎士団員に突撃をしかけていた。
「毎度だけど騒がしいわね。ごめんなさい」
「賑やかでいいじゃんか」
そして獣族の大人達は騎士団が率いていた荷車に集まっている。
堅苦しいのはむずがゆいと言われたので、普通に話す。
「ほお、これはなかなか」
「なかなかになかなか」
「なかなかな獲物でなかなかですね」
「なかなかですなぁ」
道中で討伐した毛深い巨大なバッファローの魔物が注目の的である。
獅子王騎士団の面々が協力して倒したものの、あまりにも巨大で処理を騎士団の面々が諦めたのだ。
ダメにならないようにオレが氷魔法で凍らせた上で、近くの木を伐採し簡易的な荷車も作って乗せて来た。
オレが処理しても良かったが『これだけの獲物、見せびらかせて凱旋したいじゃないか!』と謎の主張をライオネルさんがし始めたので悪くならない様にしてここまで運んだのだ。
走竜5匹掛かりで運んできたそのバッファロー、そりゃあもう注目の的である。
「この大きさだ! 肉屋は後で道具を持って騎士団の訓練所に来てくれ! そこで適当に切り分けるぞ! そして宴だ! 酒を持ってこい! 金は我が出そうぞ!」
そう言った瞬間、割れんばかりの歓声が都の一角に広まる。
ちなみにこのサイズの魔物を見かけるのは珍しくないらしい。ただ騎士団などの集団でないと倒せないから普通の狩人は狙わないそうだ。
獅子王騎士団や虎狼軍などが狩りを目的で外に出たうえで討伐する相手だそうだが、彼らも暇ではないので滅多に相手をしないそうだ。
危険な相手であるが、極端に美味しい訳でもない。他に食べ物があるから普通は相手にしないそうだ。
草食で、気性の荒くない個体だ。駆除対象でもないらしい。
……オレ達に自分達の実力を見せる為に戦ったのだろう、というのがミリアの予想だ。
「重ねて申し訳ないんだけど、一緒に来てもらっていいかしら? あれの氷を剥がして欲しいのよ。代わりに宿というか騎士団の寮、士官や士官候補生達の使う部屋を用意させるわ」
「どうするか……いいか?」
オレがミリアや栞に視線を送ると、二人が頷いてるから問題なさそうだ。オレもその二人に頷いて返す。
「お世話になります」
「構わないわよ。それにキミのポーションや解毒薬なんかも売って欲しいしね」
「オレらが使う分が確保できればいいから問題ないぞ」
オレの返事にシェリーさんが頷くと、騒ぎになった広い通りを先導すると言って前に出る。
ほかの騎士団の面々は置いて行く気? そんな事を思ってると、シェリーさんがウィンクをこちらに飛ばして来た。
置いて行く気満々らしい。
まあオレ達は今添え物状態だから別にいいか……。
士官用の寮と聞いていたが、普通の一軒家でした。
士官達は士官同士で共同生活を送る者もいるらしく、そういった者達の為に一軒家もあるそうだ。
まあバステト族基準の建物だから全体的にでかいのが微妙に使いにくいがそこはしょうがない。
「ここで旅の疲れを落としてね。夕方の宴の前に声を掛けるから出来れば全員揃っててね」
「了解。まあ参加したい奴だけでいい?」
「構わないわ。誰もがお酒とお肉が好きって訳じゃないもの」
その返事にオレ達は頷いて、それぞれ部屋割りを決めたり転移ドアを設置したりの準備をする。
さて、可愛いイアンナの顔を見に行こうかな!
イアンナは可愛い。何時間でも見ていられる。
生まれた時はやや短いエルフ耳だったのだが、最近になって耳がイドのように長くなってきてこれも可愛い。
小さい手足、たまに開くつぶらな瞳。そして泣き声。
可愛すぎる。
ベビーベッドに寝かせておくと、突然泣き出し抱っこをしてさすってあげると泣き止み、落ち着いたからベビーベッドに寝かせ直そうとするとまた泣き出す。
抱っこ魔だ。可愛い。
そんな事を繰り返しているだけで何時間も経ってしまう。
そんな時間が愛おしい。
「わたしの惚れた男、こんなのだったかしら」
「イアンナが可愛すぎるせいだな」
「デレデレですね、マスター」
再び抱っこしてオレでは泣き止まなかった。苦戦してたらリアナに取り上げられた。
リアナが抱いたらすぐに泣き止んでジェラシーだ。
「おのれリアナ」
「変な対抗心を燃やさないでください。リアナもイド様には勝てませんから」
「おっぱい、あげてるから?」
「おのれイド」
「マスター、やはりリアナにも授乳機能を」
「付けれんわ……」
リアナが本気でお願いしてきたので、本気で理論的に考えたが、付けれん。
細かく言うと『既存のホムンクルスには付けれない』だ。
新規で作成する際に、授乳させれるように作ればいい。でもオレに赤ん坊のいる期間だけしか活躍の機会のないホムンクルスなんて悲しすぎるから作らない。
「まだ早いと思ってたけど、哺乳瓶でも作るかな……」
「ほにゅうびん?」
イドが気にしたのでイラストを描いて見せる。
「ん、いらない」
「そうなのか?」
「飲んでもらわないと、張るから」
なんて答えればいいのかわかりませんっ!
「離乳食が始まったらリアナの出番だ。それまではイドに母親をさせてやってくれ」
「仕方ありませんね」
これがセーナだったら文句言いそうだ。リアナで良かった。
「大陸、どう?」
「獣族ばっかだな。オーガ族もいた」
「オーガ族が? じゃあ……」
「そうだな。離れ島に住む連中に聞いてみるつもりだ」
彼らは人数が少ない。
しかも外から新しい血が入って来ないから、恐らくこのままでは緩やかに滅んでしまうだろう。
子供があまりにも少ないから心配だったんだ。
オレやオレの仲間達ではどうしようもない問題だったが、彼らと同族が見つかったのであれば話は別だ。
彼らにそれらの話をし、その上で彼らに選択させるつもりだ。
「誘拐する?」
「しねえわ! 場合によってはあの島を無人にしてもいいと思っている。まあ連中はハクオウの守護の元で生活しているからあそこから離れたいとは思わないだろうがな」
「そう」
かと言って転移ドアを常備させるのもまた違うだろう。あれはオーバーテクノロジーだ。流石にこれを使っていつでもご自由に行き来してくださいと言うのはちょっと違うし、島のオーガ達の危険に繋がる可能性が十分に考えられる。
「オーガ、赤角族の村も都の近辺にあるらしいし、都にも赤角族が集まって生活している区画があるらしいからそこで話を通してみる」
「ん、でもそれなら島のオーガ族を動かすべき」
「まあ彼らが接触を求めるかどうかもわからないけどな」
「先にハクオウ様に話を。彼らはハクオウ様の眷属みたいなもの」
確かに。ハクオウの庇護下にあるからな。
「そうか。ハクオウに聞いて、そこからか」
「ん、ハクオウ様に黙って動いては、ダメ」
そうか。
「そうだ! イアンナも紹介しよう!」
「マスター、自分の娘を見せびらかせたいだけでは?」
「ん、ハクオウ様にお目通りさせるのは、賛成」
そうだよな、ハクオウもオレとは浅くない縁があるからな。
イドも賛成してくれたし、オーガ……赤角族の連中にもイアンナを紹介しておこう。
今日は無理だから、明日な!




