赤鬼族と錬金術師①
ここのところ移動の時間が長かったのでライオネルさん達から色々と話が聞けた。
旧ハイランド王国と黒竜王の襲撃、そしてそれ以降のこの大陸の中央から西側の話だ。
まずハイランド城とハイランド城下町。周辺の人間の住んでいた街や村。
ほとんどが黒竜王とその眷属の攻撃に遭い壊滅。人間の生存者はほとんどいなかったらしい。
でも細々と生活をしていた獣族達は、黒竜王にもその眷属達にも攻撃される事はなかった。
そのおかげで人間がいなくなった広い大地と破壊を免れた一部の街や村。それと人間達の使っていた道具を入手する事ができたそうだ。
人間がいなくなって無人となった街や村に住みついたり、それらを直したり。
人間達の耕していた畑なんかも入手したりして、獣族の者達は徐々に数を増やし勢力を広げていったとのこと。
彼らの言う『都』は太陽神教の大聖堂を中心に作り上げた街らしい。
むろん人間も完全に滅んだ訳ではない。生き残った人間達は、太陽神教の大聖堂に勤めていた人間達。そして運よく眷属達の攻撃から生存したり、獣族達と敵対しなかった一握りの者達だけだった。
黒竜王の眷属は現在ほとんど見かける事がなく、黒竜王の拠点があったと言われる北の山脈に何頭かいるのと、海にいる何頭かだけらしい。
それでも人間達は眷属達の襲撃を恐れている。
人間は女神クリア様の加護により守られているという大聖堂の近くに住むようになった。
しかしそれでは広さ的に限界がある。
そこで目を付けたのがダンジョンだ。
外の世界から切り離された場所にあるというダンジョン。いざという時に逃げ込む事が目的である。
ライオネルさんが物心ついた時には、人間はダンジョンに籠り腕を磨き、神官や巫女、警護の為の聖戦士など神職につくのが当たり前の種族になっていたそうだ。
ライオネルさんはバステト族という獅子の獣族の長の家系にあり、歴史も詳しかったので色々と話を聞くことができた。意外とインテリだ。
シェリーさんのフォローもあり、とても分かりやすく教えてくれた。
というかほぼシェリーさんが教えてくれた。スーパーインテリライオンだ。
「ちなみに守護樹血は黒竜王様の後を継いだ王竜、赤樹竜様の鱗よ? あの方が東側の人間の侵攻を防いでくれているの。黒竜王様の意思を継いだあの方は、こちらで人間の国家の存在をお許しになりませんから」
あれは魔物ではなく王竜の体の鱗だそうだ。ホムンクルスみたいなものか?
王竜の鱗ならば魔核もなく、硬い訳だ。あの砂、もっとちゃんと調べた方がいいかもしれない。
……オーガの里の畑に撒かせちゃったな。まだ残ってたか?
「お前達も気を付けるんだな。どこに向かうかは知らんがあそこには近寄るな。赤樹竜様のお言葉では魔石を持たぬ生き物すべてに、100年以上撒かれ続けた守護樹血がまとまって襲い掛かってくるぞ」
背中に汗が垂れていく気配を感じます。きっとオレだけじゃないはず。
すいません、もう突破した後です。
しかし魔石を持たない生き物、つまり獣族や獣人も襲われるって事だな。
逆にセーナやイリーナと言ったホムンクルス達は魔核があるから、魔石があると認識された、ってところだろうか。
これ、セーナとイリーナに馬車で普通に移動して守護樹血の縄張りの外に行って貰って、転移ドアを使って抜けれたんじゃね?
まあ縄張りの範囲が分からないから結局賭けだったか。第一守護樹血も一度出てきたらセーナとイリーナにも襲いかかってたし。
うん。考えるのはやめよう。
ライオネル達に歩を合わせて3日程経過し、彼らの足である走竜を確保。
そして足を入手した彼らの速度が一気に上がったので、それに合わせる形で進行速度もかなりアップした。
彼らの狩りに手を貸したり、食事に香辛料を提供したりセーナとオレで作ったりしてだんだんと仲良くなってきたころ、彼らの言う『都』が見えて来た。
「おおう、分かりやすいな大聖堂」
「そりゃそうだ。そもそも一度は焼け野原になった街だかんな。あれよりもでかい建物を作るには何かと金がかかる。まあそもそも必要ないしな」
黒竜王の襲撃の際に、この『都』も大聖堂以外の人間の住む場所の大半は破壊されてしまったらしい。
大聖堂が無事だったのは、神のご加護があったからだそうだ。
雑な説明だが、実際に神様がいるから馬鹿にはできない。
ほとんどの人がいなくなり、様々な種の獣族の達が集まって再建された『都』。
そこには王はおらず、それぞれの種族の族長や、それに近い立場の者達で運営されているらしい。
バステト族である彼らは、力が強く体も丈夫なので魔物の相手を中心とした騎士団と、それに近い仕事に多くついてるとのこと。
虎狼軍と呼ばれる虎や狼、虎のレオンガル族や狼のアセナ族、犬のアヌビス族などが所属している狩りや都内での警察のような組織もあるそうだ。
人間に近しい種族、赤角族。オレ達がオーガ族と呼んでいる彼らも街には多くいるらしい。
住民も獣族が多い。ケットシー族はもちろん、魔物で言うところのミノタウロスこと、牛のミノス族。半人半馬のケンタウロス族、狐のフォックステイル族といった者まで雑多に住んでいるそうだ。
そんな名前もない『都』と呼ばれる地に、オレ達はとうとう到着したのであった。




