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猫の里と錬金術師⑤

「ちょっとしか苦くない……不思議だ。斑点が消えていくぞ!」

「そりゃ解毒薬だからだ」


 獅子王騎士団の連中は毒を放置して休んでる人間が多かったらしい。連中の天幕には男女混ざった、30人近くの獅子人間が休んでいた。

 女性のが多いか?

 ケットシー族の面々には解毒草を優先的に渡していて、怪我をしたり毒に侵された騎士団の面々が後回しになっていた様子。

 みんな足や腰、お腹などの低い位置に毒を食らっていたらしく、座り心地を悪そうにしている。お尻をやられた人なんかは悲惨だ。


「助かったわ。わたし達は体力だけはあるから……」

「熱も出るし、痛みもあったから地味にきつかったのよね」

「飲みやすくて驚いた」

「こんなに早く効くものなのか?」

「ケットシー達にも出してやってくれ」

「備蓄にいくつか欲しいな。ケットシー達にも備蓄を用意させるべきか?」

「あいつら備蓄って忘れて飲まないかな……」


 トーガ達だけでなく、ケットシー族っていう種族に一抹の不安を感じたぜ。


「マスター」

「リアナ、どうだ?」

「猫ちゃん達の中で解毒薬が必要な子は3人です『苦いの飲むのやにゃー』と解毒草をすりつぶした物を飲むのを嫌がってました」

「葉っぱごと口の中にぶち込んでやりてぇ」


 それとそんなダダっ子の真似を本意気でマネする必要ないぞリアナよ。


「リアナのそういう可愛いところ好きよ。それにしても毒自体はそんなに強烈じゃないのかしら? でもあの大きな毒針は致命傷になりそうだけど……」

「ミリア様、彼らの傷跡から察するに、もっと小さい個体の相手をしているようです」

「えっと、三本サソリの話ですよね? 確かに普通の蠍より大きいですけど、でもケットシーと同じくらいのサイズですよ?」

「え? めっちゃでかいのいたけど……5本尻尾の奴」


 もしかして別種?


「進化個体かもしれないわね。そうなると4本尾のサソリもいるかもしれないわ。調査が必要ね」

「疑わないんだな」

「そりゃ、現物の毒尾をさっき見たもの。わたしの知っているものと比べると倍どころの騒ぎじゃない大きさだわ」

「あ、調合の時か」


 毒の成分調査の時に出したな。


「おお、薬師殿。我が部下達が世話になったな」

「ライオネルさん。お力になれて何よりです」

「うむ、助かったぞ。これは報酬だ、受け取ってくれ」


 そういって革袋をドンと渡される。


「足りるか?」

「では失礼して」


 オレは革袋の中を確認すると、そこにあったのは旧ハイランド硬貨だ。

 見た事のない硬貨も混じってるけど、雑多に金貨・銀貨・銅貨が入っていた。

 近くの机にそれらをザザっと取り出す。


「多すぎだろ」


 両替が面倒だから正直助かった。硬貨の価値は分からないから東側の価値と同じと勝手に考えて銅貨と銀貨を中心に貰い、残りを返す。


「良いのか?」

「持ち込みの素材や技術料考えるとこんなものかと。リアナ、これ報酬な。二人にも」


 そう言って治療をしていたリアナと護衛をしていた2人にオレの手持ちの旧ハイランド金貨をそれぞれ渡す。

 オレの護衛をしていたミリアとセリアさんにも同様に金貨を渡した。


「ふむ、良心的だな」

「てかあんたが考えなし過ぎなんじゃねえの?」


 敬語が飛んでしまった。


「がはははは! 我らは都やここ近辺の防衛の要ぞ! 我らに不貞を働く輩はほとんどおらん!」


 それって多少はいるって意味だよな。


「しかしかなりいい薬を貰ってしまったようだな。他に礼をするべきか……」

「なら宴をするニャン!」

「魚祭りニャム!」

「なんとも背徳的な響きニャル」


 いたのかお前ら。


「宴か、宴だな!」

「病み上がりの連中に酒を呑ませようとしないでください。それと周りの蠍の魔物の調査が先です」

「むう、シェリーか」


 さっきの女性の獅子の人はシェリーさんって言うんだな。


「それに我々もここに長くはいられませんよ。ケットシー族の食糧庫を空にする気ですか?」

「ふむ、狩りにいくか」

「サソリを狩ってください」

「食えるのか!?」

「知りません。食べたいですか?」

「虫は、勘弁してくれ……」


 オレも嫌だ。


「この辺はあまり大型のモンスターがいないから小柄な猫のケットシー族や山羊のパーン族が生活できてるんですから。そんな彼らの主食となるモンスターを狩りきったら彼らが冬を越せなくなります」

「しかしだな!」

「別に宴を開くなとは言っていませんよ? 都に戻ってからすればいいじゃないですか」


 シェリーさんの言葉にライオネルさんの目が見開き輝く。

 他の獅子人間達も同様に目を輝かせている。


「じゃあ戻るか!」

「調査が先だっつってんでしょうが!」


 ずぱんっ! と彼女の腰にぶら下がっていたメイスが物凄い速さでライオネルさんの頭に叩き込まれている。

 獅子の人たちのツッコミは激しいな。






「にゃんにゃにゃにゃんにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃんー」

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃーる」

「にゃにゃにゃーにゃにゃーにゃむにゃにゃにゃにゃむー」

「「「 にゃんにゃむにゃにゃーるにゃんにゃむにゃるにゃんにゃー! 」」」


 楽しそうに御者台で歌を歌う3人のケットシー族と、それらに歌を教える栞。

 トーガ、ピッコン、ヴォルフの3人だ。

 だんだん滅茶苦茶になっていくのに揃ってるのが不思議だ。


「いいんかねぇ」

「まあ本人達が喜んでいるからいいだろ」

「軽いなオイ」


 馬に乗るオレ達と並んで歩くのはライオネルとシェリー、それと毒に臥せっていた獅子王騎士団の面々。

 彼らは徒歩なのでオレ達の歩みも遅い。


「しかし、あんたらを歩かせるのもなぁ」

「我らは体が大きくて普通の馬には乗れん。だから馬ではなく走竜に騎乗するのだがな、今回は小物の魔物が中心、走竜に恐れて姿を現さぬ可能性が高かったのだ。この先の村に世話役と共に待機させておる」

「ああ、だから騎士団なんですね」


 騎士なのに騎乗しないで徒歩の移動だから何事かと思った。


「それに魔物だけじゃないぞ、家畜なんかも近くに走竜がいるだけで乳が出にくくなったり卵を産まなくなったりする。大きな街が近くにあれば走竜にも慣れてくれているが、ケットシーの村のように辺境だとそうはいかん」

「走竜って肉食だもんなー」


 竜ですから。


「うむ、訓練も兼ねて狩りばかりしておる部隊がいるくらいだ。後ろのメンバーはそういった訓練を経て本隊に合流した者達だな」

「ほほー」


 言われて後ろに視線を向けると、雌獅子達にミリアとセリアさんが囲まれている。

 なんか楽しそうに話してるな。


「獅子王騎士団がこの辺りの街や村を巡回してるんですか」

「巡回は主に虎狼軍だな。そちらと連携して今回のような魔物の発生に対応している……知らんのか?」

「すいませんね」

「随分と辺境から来たのだな。その割には装備も馬車も立派だが」

「全部自作ですから」

「そういうものか」

「そういうものです」


 シェリーさんの視線が痛いけど。

 ライオネルさんもどこか探るような視線をこちらに向けてきている。こっちの人間がどういう立ち位置にいるのかわからないけど、あまり人間は移動をしない様子だ。


「お主らは錬金術師とその妻達と供だそうだが、なんで旅をしておる?」

「太陽神教の大聖堂を見に」

「あそこか。確かにあそこは素晴らしい建物だ」


 あ、知ってるんだ。


「ご存じで?」

「うむ、我らの都にある。人間はあそこが本当に好きだな」

「あそこで囲まれている二人が、特に熱心な信徒ですね」


 ミリアとセリアさんは普通に太陽神教を崇めている人間だ。ダランベールの貴族の約半数が太陽神教の信徒であり、月神教の信徒でもある。


「都の中でも一番背の高い建物だしな」

「楽しみです」


 月神教の大聖堂も立派な作りだった。

 そう考えると、同様に太陽神教の大聖堂もかなり豪華な作りになってるのだろう。


「あまり人間はいないのですか?」

「そう、だな。神官や巫女には人間が多くいる。都の一角が人間街になっていてそこにはある程度人数がいるが、本格的に多いのは南のソバール迷宮都市だ」

「迷宮都市!」


 どこにでもあんな!


「そこで神官職の修行を修め、一定のレベルに認められたら都の大聖堂に勤められるようになるらしいな。正直都とソバール以外で人間がいるという話はほとんど聞かん。お前達の出身はどこだ?」

「あははははは」


 笑って誤魔化すしかなさそう。


「……恩人ではあるが、我らとて馬鹿ではない。こうして共に都に行こうというのは、お前たちの監視の意味合いもある。理解できるな?」

「そうですね」


 結構厳しい視線をこちらに向けてくる人が多いもの。


「下手な事をすればどうなるか……わかるか?」

「捕まるのは嫌ですよ。そもそも悪い事してないじゃないですか」

「……都で問題を起こすなら、我が氏族全員を敵にすると思え」


 ライオネルさんが声を低くして警告してくる。


「問題を起こす気はないですよ。自分達には目的がありますが、誰かに迷惑を掛けるつもりはありません」

「貴様らの目的は? 大聖堂だけではあるまい」

「帰りたいんですよ」

「は?」

「家にね、帰りたいんですよオレ達は。そしてオレ達を家に帰したい人達と協力して動いているんです」

「家が、ないのか?」

「遠いところにあるんです。どうやって行けばいいかわからなくて苦戦してるってとこですね」

「それは、なんというか」

「ああ、気にしないでください。ただの迷子ですから」


 そんなオレの言葉にライオネルさんが言葉を詰まらせる。


「ニャム、迷子はさみしくなるニャム」

「迷子は可哀想ニャル」

「ニャンも良く迷子になるニャン」


 耳をぺったんと下げた3匹がオレを見つめる。


「大丈夫、生まれた家じゃないけど、お前達もオレ達の家を見ただろ?」

「「「 にゃ! そうにゃ! 」」」

「すごい家だったニャン!」

「お魚が出て来る家ニャム!」

「隙間風がなかったニャル! 族長の家よりもすごいニャル!」


 そして再び歌いだすトーガ達。


「ケットシー族は無邪気だな」

「ホントですね」


 先ほどまでオレに警戒の視線を向けていたライオネルさんだが、毒気を抜かれたのかため息をついて自分の首に手をおいていた。

 彼の言葉に同意しつつ、歌い続けるトーガ達の声をBGMに歩を進める。

 都に大聖堂があるというのなら、そこは旧ハイランド城にも近いということだ。

 徐々にではあるが、確実に目的地に近づいていることに気合が入る。


「「「 にゃ~~~ 」」」


 でも緊張感は足りてないな!

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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