未来の見えない恋 19
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「誰だよ、こんなの持って来た奴」
十津川は呆れて、ベッドサイドの小さなクリスマスツリーをつついた。
「私よ。いいじゃない。クリスマスイヴなんだし」
猛がオーナメントを飾りながら言う。
俺は高校最後のクリスマスを病院で迎えていた。病室には、いつもの顔が並んで賑やかだ。
「にしても結局あんなに盛り上げて準優勝か」
十津川はツリーの隣りの小さな盾をつついた。
そう、結局、俺は決勝で敗れ優勝は出来なかったんだ。授賞式にも出られず、試合後に病院に直行。即入院になった。
「ま、亮太らしいっちゃ、らしいわよね」
弥生が苦笑する。
確かに、詰めが甘いのは否めないが……。
俺は弥生を睨むと
「悪かったな」
ボソッとぼやいた。
「でも、話聞いてビックリした~」
睦月が言うと、隣りの五月も呼応する。
「そもそもさぁ。何で試合に出るのが償いになるわけ? どうせだったら、放置してた間のバイト代でプレゼント買うとかさぁ……」
「お前は夢も希望もないな」
十津川のツッコミに五月は負けない。
「あら。女って現実的なの知らない? ね、弥生もそう思うでしょ?」
五月にいきなり振られた弥生は苦笑する。
「そう言えば、亮太、何の為にバイトしてたの?」
俺は尋ねられて猛に目配せした。
猛はウィンクすると、消灯台からパンフレットを一枚出し、皆に見せた。
「じゃーん。教習所のパンフレットで~す」
「え?」
弥生はまだ意味がわからない様子で俺を見た。俺は今まで黙ってたのを弁解する様に説明する。
「車は兄貴から貰う約束だったから、春に免許取るつもりだった」
こっちを驚いた顔で見ている弥生の視線がこそばゆくて、俺は顔をあげられない。
「車があれば、離れても会いに行けるだろ?」
「亮太」
弥生の声が震えた。俺は恥ずかしくなってさらにそっぽを向く。
俺だって、俺なりに先の事は考えてた。ただ、実現出来る様になってから言いたかっただけだ。
皆の俺達をからかう様な視線が耐え難い。俺が何か言おう、そぅ口を開いた時だった。
「亮太~。見舞いに来てやったぞ~」
空気を一気に明るくする声。
「健太!」
俺の顔も自然に綻ぶ。健太は走って来ると、俺の腕を掴んだ。それが可愛くて、俺はその頭をグリグリ撫でた。
「……こんにちは」
静かな声がした。視線の先を文さんの姿に定める。
弥生の顔に緊張が走った。
「あ……。今日から、バーゲンなんだった。お嬢、行かない?」
猛がいきなり声をあげて五月の腕をとる。
「え!? 何?」
五月は状況がわからず戸惑う。十津川もハッとして
「俺達もこれから出かけるんだった。ほら……クリスマスだし」
そして睦月の手をとった。
「行くぞ」
顔を赤くした睦月は、何か言いたげに十津川を見たが黙って頷いた。
「じゃ、お大事にね~。健太君、ばいば~い」
猛はそう手を振ると、強引に皆を連れ出していった。
残された俺達四人。
気まずい空気に、健太は一人、首を傾げていた。