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月夜の庭

作者: 銀

キーンと耳鳴りがして目が覚める。


部屋に入り込む夏の夜風が肌を撫でる。


体は心地いいのに頭が痛くて気分が悪い。


時刻は12時を過ぎ、深夜にさしかかろうとした頃だろうか。満月で外の様子はよく見渡せた。


血流が滞っているのだろうか、起こそうとするとだるさを感じる身体をゆっくりと起こす。かかっていた薄い掛布団がぱさりと体から落ちた。


次いで隣を見やると静かな寝息を立て彼女が寝ている。


今日は温泉旅行に来ていた。


ふと彼女の髪に顔を近づける。シャンプーの香りがして愛おしい。


汗をかかない程度の涼しい夏の夜が、触れると柔らかい肌をより感じさせてくれる。


(ふわふわだ...。)


なんだか胸がきゅっとする。頬が少し火照るのが分かった。


火照る頬に意識が集中して暗転する思考の中、数秒の間を置く。


起こしてしまわないか少し心配したが、触れたいという気持ちが勝ってしまう。


恋人繋ぎ...


彼女の後ろから手を回す形で伸ばした手をそっと指の間に挟み込む。


顔が彼女の髪に近づいてまたいい匂いがした。


体温が僕を少し温める。


心拍数が上昇する。


彼女が身じろいだので僕は動きを止めた。


また寝息を立てている..良かった、起きてない。


彼女は可愛くて僕は嫉妬ばかりしてしまう。


今日の電車に乗ってたサラリーマンの人僕の斜め前の奥の方から君のこと見てたんだよ...?

その視線、僕は...。


ねえ、今日のお昼ご飯食べたお店でさ僕の方向かないで、何考えてたのかな..?


抱きしめる腕に力が込もって彼女を締め付けることを気に留めない。


吐息を荒げる様はさながら獣のようで、今にも喰らってしまいそうな危うさが静寂とまどろみを支配する。


僕の頭の中はぐるぐると回って闇に引きずり込まれていった。


彼女の香りだけが頭に残っていた。


寄す処。





この男の思考に悲鳴があがりそう。

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