比類なき力
「さて、ここからは正々堂々勝負だ。楽しませてくれ」
バルトサールが攻撃の合図を出すと、巨大狼もとい変異したキリンロボが豪速で向かってきた。魔物をけしかけておいて、正々堂々とは恐れ入るな。変異キリンロボが向かって来る光景は確かに凄まじい圧だったが、それよりも早く俺は奇跡を行使する。
【闇の豪炎】
邪光ランタンに滾る闇の炎が何度も何度も迸る。前回とはさらに炎の大きさ、威力、そして弾数が大幅にあがり、今では一度に五発もの紫の炎が放たれている。
俺の信仰心と、街の人に広めたマサマンディオスの名前、そしてどこからか流れてくる力のおかげだ。機敏性も高い変異キリンロボが相手でも、大きくて弾速も早い、さらに数も多い炎となると避けようもなく信仰の炎にあえなく包まれた。
走っていたのに炎にぶつかった途端にその場で宙に飛び上がりもがこうとする。そうしたら当然勢い余って体勢を崩し、倒れながらも俺の炎に焼かれ続けた。
やがて燃え上がり続けていた炎は燃やすものがなくなって消え、変異キリンロボの綺麗な残骸が出来上がる。可哀そうに。次の世界では、是非ともかわいい生き物にでも生まれ変わってくれよな……。
「一撃っ……なのか……。私が奇跡を施した魔物ですら……一撃!? はは、これは思ったより厄介そうだね」
「お前が奇跡を施したって言ったか? おいおい、それが光の神官のやることかよ?」
「おっと。余計なことを口走ってしまった。どうも私は集中すると周りが見えなくなる傾向にあるようだ」
「お前のことなんてどうでもいいんだ。さっさとバロンの居場所を吐け」
「おやおや、まだまだ楽しみはこれからなんだよ? さっき捕まえたキリンロボが私の全力のはずがないだろうに」
もう一度バルトサールが鐘を鳴らすと、今度は大量の魔物がそこかしこから現れた。ぱっと見ただけで数は二十数体はいる。しかも全員通常の個体よりも体が大きい。俺を殺すためだけにここまで魔物を集めたのか?
「これだけ集めるのに苦労したんだよ? 奇跡で制御するにも数が多いと大変なものでね」
「はあ。ご苦労なことだな」
「余裕でいられるのも今の内だよ。これだけの魔物なら、いくらそれだけの神力を持っていても全員に対処はできないだろう?」
「……」
こいつ、絶対性格悪いな。三大食用肉のバカ、イボン、カラガオンにイノシシ型のバボイラモ、それからハリネズミっぽいカラヨムダガまでそろえてる。他にも色んな魔物がいるが、選り取り見取りのこいつらに俺がいたぶられるのを見たいんだろう。
ちらりとバルトサールの方を見たら、ヤツは神官らしからぬ愉悦に浸った顔をしていた。マジでキモい。これから俺が魔物達にぼこぼこにされたら、これ以上にもっと表情が崩れるんだろうな。だが、お生憎様。
【邪悪なる闇光】
調節してもなお、俺の奇跡が引き起こした闇は森の一部を殆ど埋め尽くし、低い重低音を奏でた。すぐに晴れた景色はいつも通りに明るい陽が差す静かな森。当然魔物なんて一匹たりともいやしない。
どうだ。これがドラゴンすら一撃で消し去った俺のお気に入りだ。括目するがいいさ!
「そん……な。馬鹿な!?」
愉悦の表情はとっくに消え失せて顎が外れる程、バルトサールは口をあんぐりと開けた。この様子だともう奥の手はないようで、酷くたじろいで動揺しきっている。魔物の数で押そうとしたみたいだけど、糖蜜のように甘かったな。
「ど、どうやらここでお前を倒すのは私の役目ではないらしいな。し、失礼させてもらうよ」
バルトサールは【純白の翼】で飛び立った。そのまま空を飛んで逃げるつもりのようだ。まさかよほどの信仰心がないと使えない上級の奇跡を使えるとは大したものだな。
でも……なんだそのしょうもない速度は? まるで妖精がパタパタと飛ぶかのようにかなりの低速だ。こんな速度で逃げようとしてるのかコイツは。
「魔物の制御に神力を使い過ぎたか。まあいい。あんな奇跡の後で君はここまで追ってはこられないだろう? せいぜい次の機会まで地上で待っていてくれたまえ」
バルトサールは得意げに、妖精の速度で飛んで行った。