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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
堕天の刺客
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神の翼

 多くの民衆が見ている中での式は終わり、王様が城に戻るとまた一気に民衆たちが喋りだした。注意深く聞くと、他の貴族のことを言っていたり、王様直々の感謝の言葉を初めて聞いたなど、みんなそれぞれ思っていることを口にしている感じだった。


 中でも俺が聞き逃せなかったのが、昨日の俺のランタンの炎が紫だったという話題。そこにどこから広まったのかわからないが、マサマンディオスという邪神というのに仕えているらしいと誰かが言っている。それを聞いて確信した。


 これなら街のかなりの人にマサマンディオスの名前が広まっていると。


「マサマンディオス、大分名前が広まってきたみたいだけどどうだ? 月の暴走に対処できそうか?」


“うむ、そうであるな。もしかしたら月の光を僅かに弱める程度はできるかも知れぬな”


「おお! それはようございましたね主様!」


「ようやく暴走を止められるんですね! 私も嬉しいです」


「俺は何か協力できそうか?」


“もちろん協力せよ、我が大司教。今夜ブルカン火山の頂上である奇跡を行使してもらう”


「わかった。でも今すぐに山に登るってことか?」


“いや、そうではない。もう汝は翼の奇跡を行使できるはずだ。それを用いよ”


「翼の奇跡……? あっ。ホントか? 嬉しいな!」


 翼の奇跡とは何なのかを紋章に聞いたら、嬉しさが溢れんばかりに込み上げた。文字通り、空を飛べる奇跡だったからだ。神との繋がりがより強固になったものが行使できる上級の奇跡らしい。


「サムさん?」


「ああ、ノエラ。俺は翼の奇跡とやらで空を飛べるようになったらしい」


「本当ですか? 羨ましいです……」


「もちろんノエラにも使えるから今夜一緒に夜空を飛べるぞ! やったな!」


「私もですか!? すごいです!」


 ノエラの表情がパアッと晴れた。その様子を眺め、アンヘルは呟く。


「空を飛ぶことに憧れるというのは、人間誰しも同じなのですね」


「そりゃそうさ。空を飛べるならどこへでも行けるんだからな!」


「歩いてでも行けるのでは?」


「海を越えるのは難しいだろ。それに船を使わずに行けることに意味があるんだよ」


「そういうものなのですね」


 元々翼を持っているアンヘルにはわかり辛い感覚なのか、翼をはためかせる元天使の悪魔は首を傾げていた。それから時は過ぎ約束の夜。俺たちは宿を後にして夜の街に出た。ここ最近で慣れてしまった、奇妙な明るさの銀の月。


 しかも今更ながら、この月はずっと満月のままなのだ。元の世界とは天体の仕組みは違うそうだが、平時はずっと満月なのではなく、満ち欠けをするものだったようだ。


 それがマサマンディオスが地獄に行ってしまった頃から変わり始め、ここ最近では満月に加えて月の明るさもますます強くなっている。そのおかげで色々と世界のバランスが崩れかけていたが……ようやくそれを終わらせることができるかもしれない。


「ノエラ、心の準備はいいか?」


「は、はい! お願いします」


「わかった。それじゃあ行こう。空の旅へ!」


漆黒の翼(ホワイトウィング)


 俺が邪光ランタンから奇跡を行使すると、俺たちの体はフウッと空中に浮き上がる。そこからさらに空を飛ぼうと意識をすると、どんどんと高度が上がっていく。初めての感覚に驚きながらも、俺の胸は高鳴った。もはや奇跡の名前のギャップなんて気にならないくらいに。


「サムさん! 本当に……飛んでます!」


「ああ、いい気分だな」


 徐々に見える景色が高くなり、建物の屋根を越え、四力統治塔の頂点を越える。だがそれ以上に高く飛び上がって、街全体が見える高さまで昇ってきた。ノエラは感激しながら、両手に何かを乗っけている。


 でも俺にはその乗っているものが見えないということは、きっと精霊なのだろう。


「ノエラ、精霊が手にいるのか?」


「はい。糸の精霊がいます」


「空は飛べない精霊だよな? きっとソイツもいい気分だろう」


「そうみたいです。気持ちよさそうにしてますから」


 しばらく空からの景色を見て満喫する。迷惑なくらいに明るい月だが、そのおかげで街の様子が分かるのだ。今は夜だから人はあまりおらず静まり返っている。しかし街の下に流れる水路には水が流れ、そこにかかる小さな橋がそれぞれの区画を繋いでいる。


 暗い中でも王のいる城には、小さな灯りが灯っているのが見え、監視のための櫓には、きちんと数人の兵が詰めているのが松明の炎の揺れからわかる。最初にこの街の全貌は見たつもりだったが、空から見ると見慣れた街の景色も全然違って見えた。


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