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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
探検と模索
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宿で入浴

 宿の手続きは二階でやってくれとのことだったので、木造の階段で二階に上がる。


 そうするとちょっと上品な感じの内装に早変わりで、木材の床ではあるけど壁に設置された燭台の明かりを反射するくらいにキレイに掃除されている。


 素晴らしい努力を感じるな。右後ろの方に受付カウンダーがあったので、まずはそこに行って用件を伝える。


「とりあえず一泊だけ泊まりたいんだけどいいかな?」


「はい。ではこちらにサインをお願いします」


 渡された紙はちょっとザラついているけど、きちんとした紙だ。下の食堂には紙のメニューはなかったけど……。内装もそうだけどもしかしたら宿の方はお高いお部屋なのかも。


 でもまあ今日一日くらいは贅沢してもいいだろう。金もあるし。


「ありがとうございます。サム様ですね。代金はサイラリム金貨八枚です」


 腰巾着からサイラリム金貨八枚を渡す。


「ではこちらがお部屋の鍵です。そちらの廊下を進みまして奥から三番目のお部屋です。どうぞごゆっくり」


「ありがとう」


 お礼を言ったらまた驚いた顔をされた。何だ? みんなお礼を言われることに慣れてないのか? 紋章にお礼を言ったら何か問題があるか聞いても答えが分からなかった。


 紋章に聞いてもわからないってことは多分必要のない知識なんだろう。とにかく慣れないこと続きで疲れた俺は、大人しく自分の部屋を目指して歩いた。


 窓の外はもうすっかり暗くなっていて完全に夜の時間帯って感じだ。それでも元の世界よりも月の光はかなり明るいけどね。真夜中でもギリギリ道が分かるくらいかな。


 そうして着いた部屋の扉の鍵穴に、もらった鍵を差し込んで回す。よし。鍵については元の世界と同じみたいだ。ドアノブを回して部屋に入ると、なかなか上等な一室が広がっていた。


 上等とはいっても流石にホテルみたいとはいかないけど、しっかりとしたベッドはあるし、浴室らしきものとトイレもあるようだ。どうやってシャワーを浴びるのか気になったけど、水浴びって感じかな。


 見たところ水の入った桶と樽みたいなものが二つあるだけだ。


 でも片方の桶の水からは意外にも微かに湯気が立っている。これはもしかしなくても温水だな。どういう仕組みなのだろうと思っていたら、桶と樽の側面を囲うように赤い魔法陣ぽいものと水色の魔法陣ぽいものがそれぞれ描かれているのを発見した。


 試しにいろいろやってみると、仕組みが何となくわかってきた。なるほど、この赤い魔法陣の方は、水を温める作用があって、もう一方の魔法陣は使ったそばから水を湧き出させる仕組みらしい。


 これはつまり、水色の魔法陣の樽の冷水を、温水になる赤い魔法陣の桶の方に移して使うようだ。これでいくらでも温水を確保できるんだな。素晴らしい。この辺は魔力家の村らしいな。


 このまま寝てしまいたい気持ちもあったが、浴室に植物エキスを使ったシャンプーと良い香りのする石鹸を見つけたことで気が変わった。まずは入浴タイムだ。


 入浴の様子については省くけど、お湯は丁度良い温度だったし、シャンプーは緑色だったけどよく泡立って爽やかな香りだった。石鹸の方はというと、とにかくフローラルな香り。白い花を連想させるようなそんな香りだ。それで体を洗っているだけで癒されたな。


 それから浴室を出てから気付いたんだけど、奇跡で召喚した司祭衣しか持っていないんだよね……。体を拭くタオルのような布はあったけど、着替えはない。とりあえずもう一度着直してから考えようと思ったが、何やら外が異様に騒がしくなっている。


 一応大きい宿ではあるんだけど、窓ガラス越しに聞こえる声は遮断できないみたいだ。聞こえてくる声は怒鳴り声みたいな剣幕だから余計に気になってしまう。


「外が騒がしいですね。どうしたのでしょうか」


「う~ん……このままだと寝にくいし、様子を見に行ってみようか」


「サム様のご要望とあらばお供いたします」


 司祭衣を着こんで廊下に戻りつつ、さらに一階のフロアにやって来た。さっきまで酒盛りやら何やらで騒がしかったのに、今は割と閑散としている。


 旅人は早めに自室に戻って休むみたいで、残っているのはひっそりと酒を飲みたい数人くらいだ。


 彼らを邪魔しないようにそのまま外に出てとりあえず様子を伺ってみるが、声はもう聞こえなくなっていて、目立って何かがある訳でもない。


 困ったな。今は何もないとはいえ、気になって仕方がない。こういうのは一度気になったら眠れない質なんだよな。


「どうしますかサム様。お戻りになられますか?」


「いや。ここは何があったのかハッキリさせよう」


 俺は宿から離れて、周辺の他の建物とも離れた暗がりに身を寄せる。周りに人がいないか入念に確認してから、こっそりと腰元にある邪光ランタンに火を灯して奇跡を行使した。


闇の感知(ダークセンス)


 広範囲に悪意を感じる。魔物ほどではないにしろ、森から感知したときよりも明確に強い悪意が数個あって、それらが村の周りにいくつか散らばっている。これは確実に何かよからぬことが起きていそうだな……。


「サム様、何かわかりましたか?」


「やっぱり何か良くないことが起きてるみたいだ。ある程度強い悪意を感知したよ」


「そうですか……」


“よし、汝が事態を収めて参れ”


「マサマンディオスの名前を広めるためにか? いいや、俺は快眠のために行くね!」


「どちらにしろ事態を収めに行かれるのですね」


「寝れないもん」


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