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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
降りかかる火の粉
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襲来

 それから俺たちは特に仕事を引き受けることもなく今日一日を終えた。宿に戻って眠りにつく。これから心置きなく名声をあげられると意気込んでいたのだが……そんな思いが悪い方向に祟ったのか、俺たちは深夜に見張り塔の鐘の音で目を覚ました。


 見張り塔の鐘はよほどの非常事態でなければ鳴らない。それが意味することは……。宿に泊まっていた他の客も慌てて部屋から起き出し、外に出始める。宿の店主バロンもまた、大慌てで部屋を全部回りながら避難を促している。


 俺たちもまるで叩き出されるかのようにノエラと一緒に外に出された。一体どうしたのかとバロンに聞きたかったがそんな暇はなさそうで、彼はさらに奥の部屋の宿泊客を叩き出しにいった。


 何かよからぬことが起きていると悟って俺は外の様子を観察していたのだが、それは民衆が逃げていくのを追いかけるかの如く飛んでいた。この世界の明るい月に照らされているのか、遥か遠くだが確かな存在感を放つ紅の輝きを纏った何か。そいつが街に向かってやって来ている。


 闇夜に負けることなくキラキラと薄く発光し、その圧倒的な力を見せつけるかのように、こんなにも離れたところまで大きな羽音を響かせている。それはそう、輝きのシルエットから見て取れたのは赤い飛竜――ドラゴンだ! 


 こんな真夜中なのに超大型の魔物は街に向かって一直線に飛んでくる。おかしい。ドラゴンは確か倒されたとかなんとか言っていたはず。なのにどうしてこんなところにそのドラゴンがいるのだろうか。


 いや、今はそれどころではない。このドラゴンが暴れまわれば、街は壊滅してここに住む人の殆どが命を落としかねない。俺はまだヤツが遠くにいるうち、時間的な猶予があるうちに何とかしようと、腰から邪光ランタンを外して【暗黒の束縛(ダークネスシーズ)】で足場を作り、宿の屋根に上った。


 それからさらにランタンの炎を最大限にまで強める。そうすると夜の闇の中に紫の炎が大きく燃え上がって辺りを照らした。もちろん屋根の上でそんなことをすれば、逃げ回っているたくさんの街人から目撃されることになる。


 しかしそれでもここで何もしなければ、今なおこちらに向かってきているドラゴンに街が壊滅させられるかもしれない。そう思うと誰にこの炎を見られようがやるしかないのだ。俺はその燃え上がった炎を宿したランタンから、渾身の力を込めて奇跡を行使する。


邪悪なる守り(ホーリーバリア)


 俺が奇跡を行使したと同時に、街全体を覆う黒い結界が展開される。これでそう簡単には街に被害は出ないはずだ。あとはあのドラゴンをどうするかだが……。それを考える前に俺に向かって叫ぶ声がする。


 その方向に振り向くと、俺と同じように建物の上に乗った四人の男女がこちらを向いて立っていた。月のおかげで顔が見える彼らは、間違いなく国王から表彰されていた、あのドラゴンを倒したとされる四人組だ。


「お、お前、今何をした!?」


 そう言う斧持ちの男。彼の驚いた表情が目に入ったが、なんと突然その頬が真っ赤な色に染まる。直後にはメラメラと炎が燃え盛る音が背後から聞こえた。咄嗟に振り返ると同時に巨大な炎の塊が、街全体に張った俺の結界に凄まじい勢いで衝突した。


 地震を起こすくらいの衝撃と轟音が闇夜に響き渡り、俺たちは思わず体勢を崩す。民衆の叫び声がそこかしこから聞こえたが――幸運にも街は何の被害も受けていなかった。


 ドラゴンが超遠距離から放ってきた炎は俺の【邪悪なる守り(ホーリーバリア)】に阻まれて、空中で火の粉を散らすだけで消滅したのだ。


 危ないな。結界を張るのが遅れていたら街はものの見事に大惨事だった。俺が人知れずちょっと安心していると、黄色い司祭衣の女性がこちらを指差して叫んできた。こらこら、人を指差してはいけません!


「そこのあんた! 一体どんな奇跡を使ったのよ!? あたしの【神聖なる守り(ホーリーバリア)】じゃドラゴンのブレスなんて到底防ぎきれないわ!」


「それ以前にこやつは本当に神官か? その祭器らしきものの紫の炎と言い、結界の禍々しさと言い、神官の為す奇跡とは程遠いが」


 精霊使いの男性がいぶかしげな声色で疑問を呈したが、魔術師の女性、アメリアが精霊使いに言う。


「いいや、間違いなく彼は神官様だよ。ま、光の神じゃなくて邪神の神官様だけどね。前に変わった邪神の神官がいるって話したろ? まさに彼のことさ」


「……アメリア、まさか彼がお前の言っていた気に入った子とかいうやつか?」


「いいや。ボクが気に入ったのは彼じゃなくてそこの女の子の方だよ。ね、根性ある精霊使いのノエラちゃん」


 精霊魔法でようやく屋根の上に上がってきたノエラにとんがり帽子の魔術師、アメリアが問いかけた。ノエラは困惑して微妙な反応をする。


「あれれ? ノエラちゃん。もしかしてボクのこと覚えてない?」


「あ、いえ。大雨のとき、天候操作で街を助けてくださった方……ですよね」


「そうそう、良かった、覚えててくれたよ」


「そんなバカなこと言ってる場合じゃねえぞアメリア。ドラゴンのやつがもう街まで迫って来てる。街の外で戦うぞ!」


 斧を持った男の言葉に合わせて、アメリアが渋々といった顔つきで魔法陣を出現させる。彼女たちの足元に現れたそれは銀色に発光し、彼らを光で包んだかと思うと、その姿は忽然と消えてしまった。これはもしかしなくても転移の魔術とかそんなところか? う、羨ましい。

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