表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
降りかかる火の粉
83/117

残酷な救い

 それからセレーヌにクラーセン家と縁を切れる方法について相談してみたら、まずはノエラが家の中でどんな扱いになっているかを確認した方が良いと言われた。失踪の状態になっているのか、実際に家にいることになっているのかだ。


 前者の場合は失踪の届けが出されているということだそうだが、そうなっているときちんと正規の方法が取られているので面倒なことにはなるらしい。逆に体裁を守るために失踪になっていない場合は、その隙をついてなんとかできるかもしれないとのことだ。


 家族がいなくなっているにも拘らずなんの対処もしなかったことになれば、ノエラの主張が通りやすいのだろう。そのためには四力統治塔に行ってそのあたりの管理をしているところに問い合わせる必要が出てくるらしい。


 その問い合わせにはさすがに家族か関係者でないと難しいだろうとのことなので、ノエラに許可を取って仕方なく副長にも事情を話し、現状の確認をお願いすることになった。ノエラの話から考えて、クラーセン家はまともな家とは言い難いし、恐らく失踪の届け出はしていないんじゃないかと俺は思っていた。


 とりあえずその日は一旦宿に戻って後日確認をするということで話はまとまったのでそのようにし、確認をお願いした次の日。俺たちは副長の部屋で思いもよらないことを告げられるのだった。


「ノエラ・クラーセン様は五歳の時点で死亡したことになっておりました」


「…………はい?」


 き、聞き間違いか? あり得ない内容の話が聞こえた気がしたんだが。


「調査の結果はそう、彼女は死んだものとして処理されておりました。私も流石に予想外。なんとお言葉をかけたら良いか……」


 あの家はあろうことかノエラを死んだことにして奴隷として扱っていたのか? 体裁を気にして放逐ではなく死亡扱いにするなんて。これにはノエラもどう反応してよいかわからないと言った様子で目を見開き、呼吸も忘れて固まっていた。なんてことだ。これはあまりにも酷だ。やっていいことの範疇を優に超えている。


 俺はまたしても頭にきてクラーセン家を壊滅まで追い込んでやりたかったが、そうすればノエラの身に危険が迫るかもしれないからそれはできない。全員血祭りにあげてやることもできなくはないかもしれないが、そんなことをしては相手と同じ。人間とは呼べない存在になるだろう。


 それにしても許せない。どうしたらそんな酷いことができるんだろう。そうやって考えながらなんとか気を静めていたのだが、とうとうそれもできなくなった。ノエラの瞳から零れる涙。その光が視界に入ったからだ。


「ノエラ……ごめんな。まさかこんな事態になっているなんて。相当なショックだろうな」


「いえ。私は……嬉しいんです」


「えっ?」


「私はいない存在として……生きてきた。そういうこと、ですよね。…………それならもう、私は新しい私になれる。惨めな奴隷だった私じゃなくて、サムさんと一緒に、誰かの役に立てる――私に」


「ああ。そうだな! 大勢の人を救える素晴らしい精霊使い。名実ともに、そうなれるってことだな!」


「ええ。そうですね。あなたは何のしがらみもなく、貴族になれるということです。これからもどうか、存分にそのお力でご活躍ください」


 死んだ人間として扱われていて嬉しい……か。ずいぶんな話だが、彼女はこれでもう腐った家に縛られなくて済むってことだ。確かに考えようによってはこれ以上ない吉報なのかもしれない。今までの傷は癒えないだろうが、それでも。


 そうして調査の結果を知った俺たちはカウォンガワ神殿に寄り、セレーヌにこのことを報告した。セレーヌは話の途中では悲しげにしていたが、ノエラが前向きになったのを見てか、安堵に似た安らかな顔つきで新たな門出を祝福してくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ