表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
探検と模索
8/117

初めての食事

 二階建てのその建物はどうやら目的の宿屋のようだ。腹が鳴り始めた俺は一刻も早く食事にありつくために早速中に入る。するとそこはいくつも丸テーブルが置かれた、ワイワイと賑やかな食堂兼酒場になっていた。


 食堂と宿屋は一緒という読みは大当たりのようだ。大部屋の室内を観察すると、奥のテーブルの方で酒盛りをしている人たちがいるのが見えた。身なりからして彼らはこの村の農民ではなく旅人のようだ。それが証拠に彼らは全員武器を持っている。


 確かそう、四力の内の一つ、気力は武器に乗せて振るうタイプのものらしいから、彼らはきっと気力家の人間なんだろう。


 ついついそんなことを考えて入り口で立っていると、おっとりした感じのウェイトレスがやってきて対応してくれた。


「いらっしゃいませ。宿泊、お食事、それとも両方ですか?」


「えっと。両方でお願いします」


「かしこまりました。まずはお食事のお席にご案内しますね」


 彼女に促されて俺が座ったのは、酒盛りしているグループの二つ隣のテーブル席だ。メニューなるものがないかテーブルを確認するが見当たらない。紙が貴重品だからなのかもしれないが、どうやって注文すれば良いのか。


 それを悩んでいると、先ほどのウェイトレスが恐る恐る話しかけてきた。


「バカ、カラガオン、イボンのいずれかの定食となっておりますが、いかがいたしますか?」


「そうだな……じゃあカラガオンの定食でお願いします」


「かしこまりました」


 ウェイトレスがテーブルから颯爽と去って行く。ふう。できるだけ普通に対応したが、正直わけがわからんかった。


 バカとか言われていきなり罵倒されたのかと思ったし。紋章に聞いたらどうやら肉の種類を提示されたみたいなんだけど、理解が全く追いついていない。確か俺が注文したのはトドみたいな生き物の肉だったはず。


 トドとは名ばかりで、森に棲んでるらしいんだけどね。この辺りからもうわからん。


 しかも驚きのあまり狩ってきたイノシシらしき生物の肉のことをすっぱり忘れていた。まあいっか。【闇の領域(ブラックホール)】に入れておけば腐らないっぽいし明日市場かなんかに売りにいけばいいだろう。


「最初は戸惑われることでしょうね。サム様の元の世界とは全く違う文化なのでしょう?」


「あ、うん。食文化も違うとなるとかなり混乱するよ」


“慣れるしかあるまいな。それにこの世界の文化もそう悪くないはずである”


「そっか。いつかそう思えるといいな」


 そうやって反射的にアンヘルとマサマンディオスに返答をしていたが……。明らかに誰かと会話している俺を見て、酒盛りグループが妙な目線を向けてきている。迷惑そうというよりも変なヤツを見つけて嘲笑っているって感じだ。


 油断したな。俺にはアンヘルが隣にいるのが見えてるけど他人はそうじゃないんだった。


「申し訳ありません。雑貨屋では我慢していたのですが、つい話しかけてしまいました」


「……」


 俺は話すことができないので微かに頷いてみせる。あー……もどかしいわこれ。あ、そう言えば心を読めたよねこの人たち。


「はい。人前では心を読ませていただきながら話すしかありませんね」


 仕方ないな。変なことを考えないようにしよう。そんなことを思いながら真顔を保つ練習をしていると、しばらくしてウェイトレスがアツアツ新鮮な食事を両手に持ってきた。


 メニューは大きな肉の欠片が入った野菜スープと、何かの実をカットしたもののようだ。得体の知れないものを口に入れたくないのでそれとなく紋章に聞くと、この世界ではこの白い木の実、マガマニが米の代わりの主食みたいだ。


 そういえば村を見回ったとき気にしてなかったけど、果樹園みたいなのがあったな。これかも。


「ではごゆっくり。本日はお部屋が充分に空いておりますので、宿のお手続きはお食事が終わってから改めてお申し付けください」


「はい。わかりました。ありがとう」


 お礼を言うと、ウェイトレスさんはちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに一礼して去って行った。


 さて、俺には全く新しい食べ物しかないわけだが、覚悟を決めて食べてみよう! まずは温かい野菜スープから。


 どうやらこの先端がギザギザになった棒のようなもの……パマロを箸というかフォーク代わりに食べるみたいだ。


 スープは掬えないから渋々器ごと。お、なかなか良質な油を感じるな。バターみたいな濃厚な風味がする。塩っぽい味も感じるけど、普通に満足感があっておいしいな。


 中に入ってる野菜みたいなのも全部見たことがないけど、それぞれ独特な味がある。一際目立つのがトウガラシみたいな野菜で見た目に似合わずほんのり甘い。なんだか変な感じだな。面白いけど。


「サム様にはこのようなことも新鮮なのですね。心を読ませていただくとそれも伝わってきます」


 ……確かに段々軽い旅行気分になってきたのは否定しないけどな。主食のマガマニも味の薄いココナツみたいでどんなものでも食べ合わせは悪くなさそうだ。


 そうして腹いっぱい食べたところで、食事の支払いと宿の手配をしにそれらしきカウンターに行く。するとさっきとは違うウェイトレスさんが会計をしてくれた。


 食事の代金はパタス銀貨八枚、今までの貨幣価値からして八百円くらいだろう。金貨と銀貨で価値が大きく違うけど名前が紛らわしいね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ