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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
水の祭典
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決意

 サムさんは治療に向かってくれた。あとは私がこの魔物の精霊魔法を妨害しながら時間を稼ぎ、そしてあわよくば倒さなくては! 長い体をくねらせる相手の魔物は、さっきと同じようにサムさんに向けて電撃を放った。卑怯にもサムさんが背を向けたタイミングでの攻撃だ。


 だけど、そんなことはさせない! 私は風の精霊に頼んで風の障壁を張ってもらう。得意な風の魔法だったおかげで何とか発動が間に合って、サムさんの前で弾かれた電撃は空中で爆裂して火花を散らした。


 サムさんは振り返りもしないで治療に向かっている。私のことを信じてくれているんだ。だからまずは、私に魔物の注意を向けないと。私は続けて岩の魔法を使って魔物にちょっかいを出す。


『確固たる力、強き大地の拳を放って!』


 私が生み出した大きな岩は魔物に向かって飛んでいく。相手はそれを体を逸らして避けようとするけど、私がその瞬間に力を込めて、岩を炸裂させた。砕け散った岩はパラパラと相手の体に当たり散らす。


 大した攻撃力ではないけれど、魔物の注意を私に引き付けるのには十分だったみたいだ。相手は苛立たし気に体を揺らして、完全にこちらに視線を向けた。あとは耐えながら攻撃の機会を伺おう。


 そう思って身構える私に飛んでくるのは水の魔法。湖の水がまるで生き物のように蠢いたかと思ったら、急に収束して私に一直線に向かってきた。圧縮された水の水圧はすごくて、避けた先の地面が抉れていっている。


 しかも水だから継続的に襲ってきて一回避けても攻撃は止むことはない。だから私は水の精霊に呼びかけて相手の魔法を崩した。


『お願い。私に襲いかかる水を霧散させて』


 同じ精霊力の魔法の勝負なら、より霊力の質とその出力の高い方が打ち勝つ。どうやら今回はそのどちらも私の方が勝っていたみたいで、魔物の周囲の水は粒となって霧散し、湖に戻っていった。


 魔物は口をパクパクさせて再び水を集めようとするけど、私は集中してそれを妨害する。その攻防がしばらく続いたけれど、相手の魔物は痺れを切らしたのか一旦湖の中に戻ってしまう。そしてすぐさま巨大な体を振るって、大きな水飛沫を私に降らせた。


 正直言って攻撃とは言い難かったけど、その直後、出てきた魔物が電気を纏わせているのに気付いて私は恐怖した。このまま広範囲の電撃を受けたらただでは済まない。


 精霊魔法で調節すれば電気はそこら中に迸って辺りを焦がすほどになるだろう。私はすぐさま風の精霊に頼んで私の周りに突風を生み出した。同時に相手から迫り来る雷を控えながらも、猛烈な風が水の飛沫をはじき返し、そのまま雷も私に寄せ付けることはしなかった。


 この魔物は相当賢い。霊力の質も出力も私の方が勝っているとはいえ、そもそも精霊魔法をここまで扱える魔物なんて聞いたことがない。私は魔物には詳しくないけれど、それでも噂すら聞いたことはなかった。思い当たるのはやはり月の暴走。影響はどんどん大きくなっているみたいだ。


 だけど幸い、私の精霊魔法で魔物の攻撃を凌ぐことはできている。素早い電撃の魔法であれば得意の風の魔法で弾けば防げる。水の魔法もこちらが対抗して精霊に頼めば、無力化が可能だ。だからこのまま同じようにして時間を稼げば治療を終えたサムさんが――いや、それじゃあ駄目なんだ。私は、また……。


 魔物は水を大粒の弾にして私に投げつけてくる。それに対抗して水の精霊の力を借り、私は水を元の形に戻す。そうだ。このまま攻撃を防ぎ続けることはできる。サムさんの治療を終えるまで時間を稼ぐこともできる。


 ――だけど、それでは駄目なんだ! 私はまた、無意識の内にサムさんに頼ろうとしている。彼の優しさ。彼の強さに甘えて、私はずっと彼に頼り続けてきた。


 ……でもそれはもう終わりにしなきゃいけない。いや、終わりにするんだ! そのための力はもうシビルさんにもらっている。そのための自由は、サムさんにもらっているから。シビルさんから一番頻繁に教えてもらった精霊力の魔法。それがあれば、私は――。

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