金銭獲得
妙な居心地の悪さを感じながらしばらく歩いていると、お洒落な白樺の看板に“雑貨屋”と書かれた建物を見つけた。
今思えば紋章のおかげか、言葉もきちんと通じたし、この世界の文字も不自由なく読めている。こっちの文字は漢字とは違って何だかルーン文字みたいだ。意味がわかるとひらがなみたいにも見えてくるけど。
とにかく雑貨屋の扉を開けて中に入ると、ドアの上についていたベルがカランと鳴った。
粋な小物や椅子を初めとした品のある家具もそうだが、すごくお洒落な店構えだ。ここは旅人や貴族向けの上等な店って感じがするな。
「いらっしゃいませ。旅のお方。本日は何をご覧にいれましょうか?」
初老の男性がカウンターからやってきてにこやかに問いかけてきた。一応歓迎されていそうだな。
「実は売りたいものがあるんだがいいかな?」
「もちろんですとも。それでしたら眼鏡を取って参りますので少々お待ちください」
そう言って店主は店の奥の部屋に入っていく。俺はチャンスとばかりに【闇の領域】を行使し、大蛇の素材を取り出した。結構重たいので、カウンターに乗っけさせてもらう。
一応奇跡の作用で綺麗になってるから、その点は大丈夫だろう。お待たせいたしましたとやって来た店主の男性は、いきなり現れたカウンターの大蛇の残骸を見て仰天した。
そ、そうだよな。こんな馬鹿でかい蛇の素材をものの数秒で出されたら驚くよな。何か上手い言い訳を……。
「お、お客様、一体どこからこのような大きなものを?」
「それは、えっと……そう、外にいる者に運び込ませたんだ。一人で持ってくるのは大変だからな」
「そ、そうでしたか。神官様だとお見受け致しましたので、つい驚いてしまいました。これだけの魔物を討伐されたのであろうお方とはいえ、こんな大きさのものを運べる奇跡はございませんからな」
【闇の領域】は邪神仕様の奇跡だしそうなんだろうな。色んな人を見てきたこの人が言っているというのも説得力がある。
「むむ。これは大変希少な素材のようですね。こんな艶やかな蛇皮は見たことがありません。それにこの曲がった大きな骨も使い方次第では化けるでしょう!」
落ち着いた雰囲気を出していた初老の店主だが、がっつり興奮しているのが丸わかりだ。目が輝いている。
「これなら……今後も御贔屓にしていただきたいので、全部合わせてパタス金貨十三……いや、十五枚でいかがでしょうか」
「んー……えっ。そんなに高い金額でいいのか?」
紋章に聞いたらパタス金貨十五枚ってかなりの額だぞ? この世界において、大都市の高級な宿一泊で価値が一つ下のギトナ金貨一枚らしい。これが多分一万円くらいだから、その十倍だとパタス金貨一枚は十万円。
つまり十五枚で百五十万円くらいじゃないのか? ……いやいやいや。一日の収入にしては十分過ぎるだろ。
「蛇皮は扱いが難しいものであまり高額は出しにくいのですが……」
「いや、十分高額だよ。それでいいから!」
「ありがとうございます! ここまでの上物はなかなかお目にかかれませんからな!きっとクラーセン家の方々も喜んでくださる。大都市ではなくこのような宿場村で売却していただいて感謝いたしますぞ神官様!」
「いいんだ。すぐにでもまとまった金が必要だったからな」
「左様でしたか。私としても幸運でした」
店主は眼鏡越しに目を細めて、人懐こそうに笑った。
「あ、そういえば財布とか……腰巾着のようなものは置いてるかな?」
「ええ。腰巾着ならございますよ。新しいものにお買い換えで?」
「まあそんなところだな」
「そうでしたか。ではこちらにどうぞ」
こうして高額を手にできた上に感謝までされ、無事に金を入れる腰巾着を手に入れた俺はルンルンで雑貨屋を出た。
それぞれの金貨と銀貨がある程度の枚数揃うようにしてもらったから、これからは不自由なく買い物ができるだろう。
お願いしたとき店主の顔が引きつっていたように見えたのはきっと気のせいだ。そういうことにしよう。
それにしても、知らない世界に放り出されて実はちょっと不安だったが何とか上手くやれそうで安心した。次に目指すべきは宿屋だな。
食堂のような場所を探そうかと思ったが、そういうのは宿屋と一緒になってるもんだろ。多分。
そういう考えで当てずっぽうに進んだが、雑貨屋からすぐのちょっと歩いたところに、今度はベッドのマークが書かれた看板が提げてある建物を偶然見つけた。