水の山道
俺たちは店を出て、それからダロイの街の門から外に出る。もう何回もここを通っているから見張りの人とも知り合いだ。昼食用の野菜とかその他必要になりそうな松明や、薪用の木とかは昨日の内にそろえてあるので心配はない。
この街には市場もあるので、仕事が終わった帰り道にでも色々とそろえることはできるのだ。何より【闇の領域】があるからいちいち出したり仕舞ったり取ってきたりする必要がないのが大きいな。
だから何の準備もしなくても門の外に出て紋章に目的地になりそうな場所を聞いてそこに向かえばいいのだ。マサマンディオス様々だな。候補はデリサイ水郷かニェベ山、それからもっと遠くの海辺があるらしいが、そこは遠すぎるから却下かな。
そこから話し合ったところ、デリサイ水郷は一度行ってるから、俺はニェベ山を提案した。あそこには大きな湖があるそうだから、きっと景色も良いに違いないのだ。それを伝えるとノエラも興味を持ったみたいなので、俺たちはニェベ山へと向かうことにした。
ダロイから左方向、方角で言えば南に進みマングココラムの森の端にそびえるのがニェベ山だ。何度かこの山は見ているが、実際に行くのは初めてだ。こんなに近いところに景色が良さそうなところがあるのだからやはり行かないと損だよな。
とはいえもちろん仕事を引き受けて来ているわけだから、本来の目的は忘れてはいけない。いつもの草原を進んでマングココラムの森の端っこに沿って山の入口を進む。途中で大きな川、小さな川の両方があったが、そのどちらも元を辿ればこのニェベ山の湖に繋がるらしい。そんな水音がずっと聞こえる山道を登り始める俺たち。
ノエラには精霊たちが見えているので、こういう山は特にいろんな場所が気になるようだ。上から落ちてくる大量の水、滝の飛沫を見ていても、ノエラはたまに別の茂みを見ていたりする。今までもそういうことは何度もあるが、今回は特にそれが多い。
きっと植物も水も風も、いろんな自然が多く存在しているから、精霊も心地良くて沢山いるんだろうな。まだ始まりなのに小さいながらも滝があって興奮する俺に、まずは最初の魔物がやってきた。
残念ながらそれは水棲系の魔物ではなく、いつか見たウングイという猿のような魔物だ。毛の色は前に見たのとは違って紫色。俺たちの姿を見つけると、いきなり精霊魔法を使って攻撃してきた。
いきなり現れる拳大の石が俺に向かって飛んでくる。精霊魔法を使ってくるなんて思ってもみなかったので反応が遅れたが、ノエラがきちんとその石を同じく精霊魔法でかき消してくれた。良い援護だ。
俺はすぐさま反撃に出て、邪光ランタンから奇跡を行使した。相手は次なる精霊魔法の準備で止まっていたので、【暗黒の粛清】で黒い霞に包み込んだ。以前よりもより巨大になった霞は簡単にウングイを呑みこんで生命力を奪い尽くした。
しっかし驚いたな。魔物が何もないところから石を生み出すなんてな。
「ウングイも精霊魔法を使うなんて思わなかったよ。ノエラ、助かったぞ」
「いえ、お互い様です。精霊使いとしての勘なんですけど、この辺りの辺の他の魔物も恐らく精霊魔法を使ってくると思います。何かに縛られている精霊たちもいくらか見受けられたので……」
「マジか。いきなり遠距離攻撃されないように気をつけないとな」
俺はいきなり石を頭に食らいたくなかったので、奇跡で身を守ることにする。
【邪悪なる守り】
球形に展開された黒い神力が俺とノエラを包み込んだ。これである程度の強度の攻撃は防げるはずだ。同時に【闇の感知】を発動すると集中が必要になってくるが、油断して倒れるのは避けたいため、このまま警戒しつつ、こまめに休憩を挟む作戦でいく。