鍛冶屋の依頼
邪神の神官というのも個性の一つ、か。確かにあながち間違いではないのかもしれないな。どんなものでも見方によって捉え方は変わってくるものだ。ヴィサの可愛さも、彼自身は良くないことだと思っていても、俺はすごく良いことだと思ったんだ。
同じように、邪神だからと嫌われても、もしかしたらその奇跡の力が素晴らしいと感じてくれる人がいるかもしれない。今まで何だかんだ隠そうとしてたけど、噂はもう広まっているし隠すことでもないのかもしれない。
もちろんむやみやたらに宣言して回る必要はないだろうけど、それでも依頼人くらいにはきちんと説明すべきだよな。反省しよう。良くなかったことは改めないとな。そうして俺たちは薬草採取を終え、昼食を取ってから街に帰った。
ちなみに昼食も【闇の領域】から出したから、ヴィサはすごいと喜んでくれたな。そんな彼を家まで送り届けて、ほとんど存在していない家の空いたスペースに籠を置く。それで仕事は完了したので、持ってきた依頼書にサインと評価をもらった。
ヴィサは綺麗な字で最高の仕事ぶりだったと評価してくれ、四力統治塔での貢献度はまた高水準の十をもらった。それによって俺たちの貢献度の合計は五十を越えて五十二なった。
メダルの階級が一段階上がり、メダルに書かれていた数字も一から二になっている。十段階あるそうだから最高の十まではまだまだだが、確実に一歩を踏み出していることを実感し嬉しくなった。金額の方は多くはないが、ギトナ金貨三枚の三万円だから少なくもない。
マサマンディオスの名前を帰りの道で出してヴィサに覚えてもらったおかげか、神力の調子も上がっている感覚がある。これからも邪神の神官であることを恥じないで突き進んで行こうと思えた良い一日だったな。
宿に戻って休み、また新しい一日の始まり。俺たちは当然四力統治塔の仕事の掲示板の前で依頼書を確認している。だが前回と違うのは依頼を確認する場所が二階になっていることだ。
メダルの階級が一段階上がったので、ほんの少しだけ遠くの仕事も引き受けられるようになっている。だがそれは同時に魔物も強力になるということだ。大都市ダロイ周辺は強い魔物が住みにくいからこそここまで安全に生活でき発展しているが、そこから離れれば離れるほど魔物が強くなる。
この大陸にはダロイ程ではないが他にも都市は存在しているそうだが、都市間の間隔は広く、そう簡単には別の街への移動はできない。ある程度強くないと街から街へと移動するのは難しいのだ。
そんな魔物の生息事情もあり、せっかくなので少し遠くの依頼を受けようかとも思ったのだが、近くでも良さそうな仕事があったのでそれを引き受けようと相談して決めた。依頼の受付は相変わらず一階のようだから、俺たちは依頼書だけを持って魔法陣から一階に戻った。
メダルの発光させたりと仕事を引き受けるための手続きをして、俺たちはまた依頼人に会いに行く。向かう場所はなんと貴族街の武器屋。あのすっごい良い笑顔の職人さんがいるところだ。
それを思い出したら、また鉄をカンカンと叩く音が聞こえてくるようだ。俺に武器は必要ないんだけど、ロマンがあるよな武器屋ってさ。
使えないのに武器のことを考えてワクワクしつつ貴族街を通って武器屋に来る。しかし今日はあの心地よい音は聞こえなくて、どうしたんだろうと少し心配になる。俺とノエラは中に入って話を聞こうと武器屋の工房ではない店の方に入った。
そしたらあのワイルドな職人は店の中で茶色の服を着た貴族の客の対応をしていた。そういうことは苦手なのか、モヒカンヘアの側面、髪のないところをポリポリかいて曖昧な表情を浮かべている。気付けば前回来た時よりも圧倒的に客の数が多く、出ている武器も若干だが少なくなっているように見えた。
それには何か事情があるのだろうが、それは話を聞けばわかるかもしれないので、俺たちはまだあったあの大槌と鮮やかな長剣を眺めながら待たせてもらった。そして茶色の服の貴族がいなくなったところで、他の客に職人が捕まらない内に話しかけた。
「随分繁盛してるんだな。何か話題の商品でもできたのか?」
「ん? おお、誰かと思ったらお前か! また来たんだな! あ、いや、別に新しい武器を作ったわけじゃないんだが、なんか貴族の間で妙な噂が流れてるらしくてブルブドゥキン山脈の火山に向かう連中が増えてんだ。おかげで水棲系の魔物の素材から作った武器が不足してんだ。困ったもんだぜ」
「へえ、そうなのか。あ、俺たち魔物の素材回収の仕事を請け負いに来たんだが、もしかしてその水棲系の魔物の素材集めなのか?」
「おお、そうだそうだ! お前たちが受けてくれるなら安心だな。必要な素材はメモしてあるから参考にしてくれや。それぞれできるだけ多く持ってこい。あるだけあったらありがてえからな」
職人改め鍛冶担当のハックスが奥から羊皮紙を持ってきてくれる。そこには魔物の名前と必要な部位が記されている。これは後で確認するとして、確認事項とそれから俺が邪神の神官だってことを伝えておこう。もう隠すつもりはないからな!
「指定された部位以外の魔物の素材は俺たちが好きにしていいのか?」
「いいぞ。俺のとこに売ってくれてもいいし、他のところに持って行ってもいい。そこは自由だぜ」
「そうか。それから、もう一つ。俺はマサマンディオスっていう邪神に仕える神官だ。それは知っておいてくれ」
「……あ? まさかお前があの噂になってる神官様なのか? そういえば噂の人物はお前の特徴そのままだな」
「結構誰でも知ってるんだな……」
「そりゃ俺たち商売人は日夜いろんな客と会ってるからな。ま、別にお前がどんな奴だろうが素材を持ってきてくれるなら文句はねえぞ。ただし面倒事は起こすなよ」
「その点については心配しないでくれ。人様には迷惑はかけないよ」
「そうかい。あとは聞きたいこととか言いたいことはねえか?」
「もうないかな。ノエラはどうだ?」
「どこに行った方がいいとか、そういうことはありますか?」
「ああ、別に指定はねえけど、水棲系の魔物を狩るなら水辺だろう。俺はこのあたりの地形には詳しくねえから自分たちで調べてくれや」
「わかりました」
「もうないなら俺は仕事に戻るぜ?」
「わかった。俺たちも魔物狩りに行ってくるよ」




