露見
そんな危険な植物がわんさかあるのに、ヴィサは完全に素手で植物を漁っている。漁り始めるとまたあちら側に行ってしまうので、どういうからくりなのかは聞けないが、異常なほど研ぎ澄まされた感覚が為せる業なのだろうということはわかった。
薬師の勘や長年植物に携わり続けたことで、職業病のように身に沁みついてしまったのかもしれない。躊躇いもなく取捨選択をして草の山を増やしていく様は見ていて心地よかったりもするのだが、ヴィサの顔を一度でも見てしまうと心地良いなどとは到底思えなくなってしまう。
だって……完全にブッ飛んでるんだもん……。
ヴィサがこの状態なら奇跡を使っても気にされない気がしてくるが念のため、魔物が出たらパルーサの剣撃で退治するようにした。こっそり【呪怨】は発動済みだがな。
最初に現れたのはムササビのような生物のルミパドナアミリア。小動物の可愛らしいヒゲに小さな鼻。ぴょんと木から飛び去って腕を広げる様は非常に愛くるしい。だがいきなり滑空してきて間近まで近づき、手を叩くことで爆発を起こすから実は全然可愛くない。
次に現れたのはどでかいヤモリのトゥコという魔物。最初はワニかと思ったのだが、どちらかというとやはりイモリで、何故か口から酸性の霧を吐いた。アンヘルが注意喚起してくれなかったら霧に巻き込まれて恐ろしい目にあっていたかもしれないと思うと、卑怯にも後ろから剣でブッ刺してしまったのも仕方がない気がする。
最後に出てきたのはマタリノイボン。三大食肉のあのイボンに似ているが、こちらは毛先が青のグラデーションではなく赤のグラデーション。しかもかなり賢いようで、空から爆裂草や溶解草などいろんな危険植物を降らせてくる。一番酷かったのが煙幕草で、その名の通り煙幕が辺りを包んでしまい、しばらくの間薬草の採取もできなくなったし、視界が悪すぎてどこにマタリノイボンがいるのか分からなくなった。
そこからの爆裂草のコンボはえげつないが、見えないのをいいことに【闇の感知】で何とか索敵した後【邪悪なる闇線】で撃退したが、もう二度と会いたくない。
そんな感じで薬草の群生地で粘っていると気付けば体内時計で二時間くらい経った気がする。そして無事に狂気の薬草採取は終わったようだ。魔物が来ていたと言うのに本当に危険な状態にならないと手は止まらないらしく、煙幕草のとき以外はずっとしゃがんで取っていたようだ。
そのおかげか、終わる頃にはかなりの広範囲で植物がゴッソリなくなっており、用意していた薬草籠は、こんもりと満杯になってしまっていた。薬草の重さで籠がぶち抜かれるのではないかと心配になるような量を前にして、俺はこれを街まで背負っていくのは無理だと悟った。
これを背負ったらギックリ腰どころか潰されるだろう。俺はもう諦めて、【闇の領域】を行使して籠を闇に呑みこませた。消えた籠を目にしたことで、ヴィサは心配そうに聞いてきた。
「それは収納の奇跡……ですか?」
「ああ。何でも入れられて、しかも入れた状態のまま保存できる奇跡だ。なくなったわけじゃないから心配しなくていいぞ」
「そうなんですね、安心しました。それにしてもすごいですね! 邪神の神官様ってそんなことも――あっ」
うっかり口を滑らせたということらしく、ヴィサは黙ってうつむいてしまった。それからまた上目遣いでこちらの様子を伺ってくる。またしても振る舞いが可愛いがそんなことを言っている場合ではない。
「もしかして、最初から俺が邪神の神官だって気付いてたのか?」
「はい。気付いてました……。女性の精霊使いの方といつも一緒にいる異国風の顔立ちの神官様なんて、そう多くありませんから……」
「そ、そりゃそうか。噂を聞いてたらわかっちゃうよな」
あははと笑いながらも、俺の額に冷や汗がだらだら流れる。いつになってもバレる瞬間は慣れそうもない。
「ですが噂通りで安心しました。邪神の神官様でも心の優しい良い方だって話は本当だったんですね」
「え? あ、え?」
俺はパニックになってまともに返答できなかった。邪神の神官なのを隠してたことがバレて、思い切り責められるかと思いきや、これはまさか、褒められているのか? ……ダメだ。わけわからん。
「最初は正直怖かったんです。邪神の神官って言うからにはもっと怖い人かと思って……」
「なんか、悪かったな」
「い、いえ。ですが僕を可愛いって褒めようとしたとき、言ってくれましたよね。それは僕の歴とした個性であり長所だと思ってるって。今でも男らしくないのはコンプレックスですが……それでも長所だって言ってもらえて、少し嬉しかったんです」
「そうか」
「だからサムさんの……その……邪神の神官だというのも個性の一つだと、僕は思います」
「……ふっ。ありがとな。まさか邪神の神官であることをそんな風に言ってもらえるなんて思わなかったよ。早く皆に認めてもらえるように頑張らないとな」
応援してますからとヴィサは恥ずかしがりながらも俺にエールを送ってくれた。