労い
だが空を見れば時刻はもう夕方。このまま村を出たら野宿コースだ。げえ。
「ごめんなノエラ。野宿になりそうだ」
「あ、はい。仕方がないですね」
「いやあ、何が悪かったかなあ」
「……」
わざとらしく言ったらノエラは黙ってしまった。嫌な空気になって村の出口に向かってしょんぼり歩いていると、一人の農民に声をかけられる。なぜかとんでもなく訛っている人で、おっとりした雰囲気の男性だ。
「おめさんたちは害獣退治に来たフォースの人だか? もう一回山に行くなら反対方向だべよ?」
「いや、その害獣退治はもう終わったよ」
「終わったって何だべ? 諦めて街に帰るだか? それはだめだべ」
「害獣は駆除し終わったんだよ。全部倒して来たんだ」
「はえ? おめさんたちはついさっき行って帰ってきたばっかしだべ。嘘はイケねえだよ」
「嘘じゃないぞ? 素材だってこんなにある」
俺は鞄の中に詰められたキリンロボのたてがみを見せてあげる。するとおじさんは雰囲気通りのおっとりした反応で褒めてくれた。
「あやあ、本当だったべか。おめさん凄いんだなあ。並大抵のフォースじゃここまでできねえべよ」
「お、おう。そうだろうそうだろう」
「んでもこれから帰るんだべか? 夜に出歩くのは良くないべよ。泊まるところはないべか?」
「あ、うん。さっき望みが絶たれたところだ」
「望みだべか? なんのことだかわからねえけど、よかったらおらの家に泊まっていけばいいべよ。部屋は空いてるから好きなところを使えばいいべ」
「本当か? それは助かるな。是非お邪魔させてもらいたい」
「あの、私たち村長さんに嫌われてしまったみたいで、ここにいたら怒られるかもしれません。私たちを泊めたらあなたも怒られてしまうかもしれませんよ?」
「やっぱりそうだよな。ごめん、提案してくれたのは嬉しいけど、やっぱり泊まれないや」
「村長に嫌われて落ち込んどるべか? はっはっは。それは傑作だべ。あの村長に好かれるヤツなんざいねえべよ。フォースならなおさらだべさ」
「そうなのか?」
「そうだべ。変にプライドっちゅうもんが高くて、他のフォースたちを寄せ付けないんだべ。だからおめさんたちは見つかったら怒られるかもしれねえけんど、おらは別に怒られたりしねえべよ」
「そっか。だったらお世話になってもいいか?」
「サムさん、エゴンさんに見つかったらどうするんですか? 私、あの刀で切られたくないですよ?」
「大丈夫大丈夫。見つかったりしないって」
「野宿よりマシかもしれませんけど……」
「そうそう。野宿よりいいだろ。さ、せっかくだからお邪魔させてもらおう」
俺は割と強引に話を押し切り、この人の家に泊まらせてもらうことにした。向こうから申し出てくれたのならそんなに遠慮はいらないからな。この人の家は結構広く、一人暮らしの割に部屋が沢山あった。理由が気になったが、聞かない方が良さそうな気がしたのであえてそのことには触れなかった。
このおっとりした農民のダムと語り合ってから俺とノエラは別々の部屋を使わせてもらい、敷布団で休ませてもらった。敷布団まであるとは思ってもいなかったので、新たな発見だったな。
それから朝になり、ダムに礼を言ったら、作物が守られたからこれくらい安いもんだと言ってくれた。功績を認められたような感じがして救われたな。そしてダムの家を出る前に、俺たち自身に【闇の加護】をかけておく。
そうやって姿を隠しながら外に出たのだが、何故かまだ村を見回っていたエゴンと目があった。向こうはこちらの姿が見えていないはずなのに、こっちに殺気を放っている。おかしい。本当に見えていないんだよな?
そう思いつつ俺たちは村の出口から出てダロイの街に戻った。道中、行きと同じ感じの魔物たちがいたが、すべて倒して無力化しておいた。行きは農作物が心配で早く到着するために無視したが、帰りは別だ。せっかく通ったのだから、魔物の数は減らしておく。
そうすると想定通り、帰る頃には時刻がお昼ごろになっているので、あえて街の中に入らずに離れた木の木陰でノエラに料理をしてもらった。街に入って金をだせば食事にありつけるのだが、ノエラはその食費すら節約したいらしい。




