山奥の怒号
「ノエラ、大丈夫か? 怪我とかはないか?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。それにしてもサムさん、今日はいつにもまして凄い戦いぶりでしたね。剣をもってあんな風に空を自由に飛び回るなんて……奇跡の威力もどんどん上がってるみたいですし、やっぱり普通じゃないです」
「【暗闇の束縛】で足場を作ったことを言ってるのか? あれは思い付きでやってみたらできたんだよ。我ながらうまくやったよな」
「思い付きだったんですか!? もう……言葉もありません」
“我もあのような奇跡の使い方など想定しておらぬ。我が大司教は規格外にも程があるな”
「もしかして呆れてる? い、いやそのおかげでキリンロボを一匹残らず倒せたんだからいいじゃん。な?」
「……そういうことにしましょう」
「よしよし。それじゃあ暗くならないうちに帰ろう。ちょっとこの数の解体は難儀だが……面倒くさがってる場合じゃなさそうだ」
俺はできるだけ倒したキリンロボたちを一か所に集めて解体作業をやった。多すぎて一度で終わらなかったから嫌な作業だったが、【黒き排除】がなかったらと思うとまだまだマシな方だな。
わけがわからんくらいの大量のたてがみを入手してそれらを仕舞い込むと、俺たちはサパナンの村を目指して山を下りた。当然、【闇の感知】のおかげで迷うこともない。
下山は割と楽なもので、そんなに時間もかからずに村に到着することができた。行く前と変わらずに村を見回っていたエゴンに声をかけて、一緒に家までいって居間に通してもらった。
ごつごつした椅子に座り、俺は持ってきた素材を【闇の領域】内蔵の鞄からすべて横長のテーブルにぶちまけて報告を始める。
「はいどうぞ。無事にキリンロボの群れを一匹残らず刈り取ってきたぞ。今考えると生態系とかの影響が心配だけど、まあ大丈夫だろ」
「……」
「サムさん、恐らく魔物を狩っても生態系が崩れて大変なことになることはないと思います。精霊たちがそのあたりは上手く調節してくれるはずですから」
「おお、そうなのか。さすがは意思ある自然そのものだな」
「……」
「な、なあ、エゴン。どうした? 調子悪いか?」
「……した」
「ん? なんて?」
「お主ら一体何をした!」
エゴンは突然大声を張り上げる。無駄に腹から声が出ているせいかかなりの声量で、俺もノエラも体を跳ねさせてビックリしてしまった。
「な、なんだよいきなり。何をしたって、言われた通りキリンロボの群れを狩ってきただけだろ?」
「あの短時間でこれだけの群れを一度に壊滅させるヤツがあるか! 一体どんな手を使ってこんなことを成し遂げた!? 全く理解できん!」
「……サム様、エゴン様の仰っていることは最もです。普通はこんな大量の魔物の群れを一度に壊滅させようなど無謀もいいところですよ?」
「はっ。私としたことが。サムさんといるとどうしても感覚が麻痺してしまって……」
「俺を異常者みたいに言わないでくれないか? ちょっと傷つくんだけど」
“事実、汝は異常者であろうが。これだけの魔物の残骸を見て、まだ常人であると言い張るつもりか?”
「……そ、そうですね。返す言葉もございません」
確かにちょっとやりすぎた感は否めない。長テーブルを完全に占領して山盛りになってるもんね。やりすぎたよね。
「一体誰と話しておるのだ! はあ、儂もこんなのに頼らないと村を守りきれないとは墜ちてしまったものだな」
「あの、すみません。しっかり仕事はしてきたんだから、落胆しないでもらえるか?」
「チッ。わかったからこの大量の素材を持って街に帰れ! どこの神殿の神官かは知らんが、もう儂に関わるな」
「俺は神殿には所属してない。なんたって邪神マサマンディオスに仕えているからな! 勘違いするなよ? マサマンディオスは“善い”神様だからな!」
何だかもう嫌われてる感じなので、俺はもう突き抜けて宣伝をすることにした。どうせもう好かれないんだったら、いいよね! そしたらまたしてもエゴンは小声で何か言っている。
「……いけ」
「はい?」
「さっさと儂の家から出て行け!」
「は、はい!」
再び小声からの轟音ボイスで怒鳴られた俺たちは、テーブルの上を速攻で片付けて村長の家を出て行った。あまりの剣幕に家を飛び出してしまったが、依頼書に完了証明のサインをもらうのを忘れてしまった。
だがそれを思い出したのと同時に、少しだけ村長の家の戸が開いて、完了証明サイン付きの依頼書が放り出された。そしてバタンと扉が閉められる。良かった。仕事が失敗判定にならずに済んだな。




