ウナンベセスの村
う、うわあ。肉を突き刺すこの感触。絶妙にキモイ……。
「見惚れるほど、素晴らしい剣捌きでしたサム様!」
「お、おう。ありがとう。とりあえずこいつは解体して【闇の領域】の中に入れておこう」
奇跡を駆使しながら無事に食料を確保して安心していたら、早くも徐々に日が落ちてきた。日の傾き加減からして多分今は午後の四時くらいだろう。早く村に着かなくてはならないな。というか泊まれるところあるかな……。
そんな不安を抱えながら森を進むとふと辺りがひらけて、ちょっと離れたところに人里が見えた。後ろ向きだが木造建築の建物がどどんと立ち並んでいて、敷地内に畑を抱える家もたくさんあるみたいだ。豊かな農村といった印象だな。
しっかしこんな魔物が出る森の近くに村があって危なくないのかな?
「サム様、止まってください!」
ぼけっとしながら歩いたらアンヘルに止められた。
「ん? どうしたアンヘル。何かあった?」
「お気づきになられませんか? 目前に魔術障壁が展開されているのを……」
悪魔形態に戻ったアンヘルに指摘されて、目の前をよく目を凝らして見てみる。すると確かに空間が微かに歪んでいるような感じで、何かが波打っているのが見えた。これが魔術障壁と言うやつか。
確か魔物に対処できる四力の一つに魔力があったな。その力か。
「確かここは魔力家の貴族が治める村でしたね」
「魔力家? ああ、四力の持ち主は貴族なんかの有力者になるし、しかも力は遺伝するから家ぐるみで分類されているのか」
「その通りです。このような魔術障壁で魔物から村を守っているのですね」
「凄いな。でもこれ俺は入れないのかな?」
“障壁を壊せば入れるであろうが、くれぐれも絶対にやるでないぞ”
「そんなに念を押さなくてもわかってるよ。村の人に障壁の外側から声をかけてみる」
アンヘルは他の人には見えないとのことだったので、とりあえず障壁に注意しながらその外側を沿って歩く。そうしたら村の入り口になっているアーチ状の場所を見つけた。
邪光ランタンの火を消してから、向こうに見えた農民の人に声をかけようと思ったら、いきなり村の内側の地面に灰色の魔法陣が現れた。
ビビリ散らかしたのも束の間、そこに突然金髪の気の強そうな女性が現れる。紫色の目が鋭くてちょっと引いてしまう。
「何か御用ですか? 見たところ神官のようですが」
どうしよう。声をかけようとは思っていたけどその先はノープランだったな。んー。ま、適当に誤魔化しとくか。
「旅の神官なんだが、日が傾き始めたから少し休ませてもらえないかな?」
「……わかりました。ここは宿場村ですので、苦労せずとも宿を見つけることができるでしょう。お入りください」
彼女がそう言った瞬間に目前の魔術障壁が少しだけ緩んだ。アーチをくぐるように前に進むと、微かに抵抗を感じるものの、無事に村に入ることができた。
同時にアンヘルも俺に続いて村に入る。彼女には見えていないだろうけどね。
そして俺が入ったのを見届けると、女性は名前を名乗りもせずに魔法陣でどこかへ行ってしまった。案内もついでにやってくれたら嬉しかったなあ。
……まあいいや。とりあえず雑貨屋か質屋に行こう。金がないと食事ができないからな。
そうしてきょろきょろしながら街中を歩いていると、村人たちの注目を集めているらしくチラチラとあちこちから見られている。
宿場村と言っていたし旅人はよく来るはずだから、外部の人間には慣れているだろう。つまり日本人の顔立ちが珍しいんだろうな。