誘導
爺は周りを見回っているが、今のところ襲撃はないようだ。ここで襲撃に来るのを待つという手もないことはないが、面倒なので【闇の感知】でこちらから叩きにいくことにする。
ランタンの炎をできるだけ小さくして気付かれないように奇跡を使う。特定の魔物だけを探知すると言うのはさすがにこの奇跡では苦しいが、群れになっているのなら探すのも難しくはない。
ここから約三百メートル上方、そんなに離れていない位置に沢山の魔物の群れだ。他はみんな孤立しているから、どうやら見つけたようだな。
「ノエラ、群れは見つけた。結構な数いそうで三百メートルくらい離れているがどうする? 倒しに行くか?」
「行きましょう。その方が被害を抑えられると思いますから」
「わかった。一応エゴンに断りをいれてから行こう」
俺たちは見回りをしているエゴンに近付いていって声をかけた。
「俺らは山の方に行ってキリンロボを倒しにいくよ。被害を抑えたいからな」
「そうか。遭難はするな。探しにはいかん」
「はいよ。行ってくる」
「行ってきます」
微妙に酷いことを言われた気がするがまあいいだろう。あの爺には情けというものがなさそうだからな! ……村を出たら村人を守れないというのが本当のところだってのはわかってるけど、言葉足らずで伝わらないんじゃなかろうか。【闇の感知】があれば迷わずに帰れるからどの道問題ないけどな。
村の端から出て山道の方に戻ると、そこからはさらに気を引き締めていく。魔物の気配はわかるが、滑ったり転落したりするという危険は防げない。そんなつまらないことで命を落とすのは最悪だからな。ノエラにもそんな目にはあってほしくない。
山道の途中までは人が通った跡があって進みやすかったが、その先からは完全に獣道になっている。気配も道なき道の先なので、仕方なく木をかき分けながら進んだ。斜面になっていて土も柔らかいところが混じっているので足場はあまりよくない。
しかし、本当にどうしようもなく進み辛いところはノエラの精霊魔法に頼り、木々を避けて、地形をほんの少し変えたりした。三百メートルはそんなに長い距離じゃないと思っていたのだが、いざ山道を進もうとなると体感では倍以上はありそうな気もしてくる。
太い木に捕まりながら足場を気にして進むのに飽きてき始めた頃、気配がかなり近くなって、微かに獣の鳴く声が聞こえた。段差になっていてわかりにくかったが、もう目と鼻の先まで来ていたようだ。
俺たちは一旦体勢を低くしてそのまま静かに様子を見ると、気配と同時に動く長い毛並の動物が姿を現した。灰色の毛皮に狼よりもさらにふさふさのたてがみ。間違いなくキリンロボだ。
近くにいる味方が来ない内にこっそりと仕留めてやろうと思ったのだが、相手の方が一枚上手で俺の存在が気付かれてしまった。相手からは見にくい位置にいたから、嗅覚が鋭いのだろう。しかし襲ってくるかと思いきや、そのキリンロボはくるっと踵を返して走り去っていってしまった。その方向はもっと多くの気配がある場所だ。
爺が言っていた通り、仲間の元に誘導しようとしているようだ。嗅覚が鋭い以上、暗殺は不可能。でもこのまま帰ったら作物が被害に遭うのは避けられない。こうなったら俺の取る選択は一つだけだった。
「正々堂々まとめて成敗してくれよう!」
「サムさん、口調が変わってますよ……」
ちょっとエゴンを真似てみたのだが、イマイチ凄味が足らないな。惜しい。とにかくキリンロボをまとめて相手にすることになるので、いつ襲われてもいいように心構えをしておき、【呪怨】を使っておく。アンヘルにもパルーサに変化してもらっておく。
相手は素早いから接近戦になる可能性があるからな。気配を探りながら逃げたキリンロボを追っていくと、さっきの個体はまた逃げていく。きちんと追ってきているか確認しながら逃げているようで、たびたび速度を落としているのが分かる。舐められたものだ。