サパナンの村
ノエラと適度に会話しながら、集中力を切らさないように登山する。まあ登山と言っても山の本当に下の方までで良いので、体力の配分とかは特に考えずにがむしゃらに登った。そしたら三十分かからないくらいで広い場所に出て、その先に村のような活気ある場所が見えた。
近づいていくと鎌やピッチフォークなど、おなじみの農具を手にせっせと働いている農民たちが村のあちこちにいるのがわかった。木造の簡素な家がいくつも立ち並び、その近くに柵に囲まれた広い農地がある。
こんなところに農村があるのは驚きだったが、この世界では一般的なのかもしれない。主食の木の実、マガマニの栽培を始めとして、いろんな野菜が地面に植えられている。鎌とピッチフォークは主にそっちに用いられているようだ。
働いている農民さんたちの邪魔にならないように、気をつけながら村の中を歩くと、一際目立つ大きな家があった。多分ここが村長の家だろう。
俺たちは昼食をまだとっていなかったので、その休憩の打診もしつつ、村長さんに話を聞きに家の戸を叩いた。戸を叩いた直後にその戸は開き、中から俺よりも体格の大きい老人が顔を見せた。腰には長い刀。この世界にも刀が存在していたことに呆気にとられつつ、俺はまず用件を告げる。
「どうも。ダロイの街から来たフォースのサムとノエラだ。キリンロボの討伐の仕事を引き受けてきた」
「お主らか。ふん。説明をしてやるから家に上がれ」
完全に頑固爺という感じ。顔つきはかなり険しくて、長い白髪がバリバリと後ろに流れている。まるで電気を帯びているかのようにその髪は逆立っているが、後ろから見たところ、どうやら電気は流れていない様子。当たり前だが。
その爺に家に入れてもらい、彼の後に続いて居間にお邪魔する。広い家だが物が少なく殺風景。ただ、壁にいくつか武器が立てかけてあり、刀がその大半を占めている。この雰囲気、恐らく武器に力を乗せて戦うという気力家の人だろう。
しかし、フォースの人がなぜ魔物の討伐依頼を出したのだろうか……。
「座れ。依頼書に書いた通り、お主らにはキリンロボの討伐をしてもらう。最低でも十匹、それ以上狩ることができれば文句はない」
「あ、あの。一ついいでしょうか?」
「何だ?」
三文字なのに物凄い威圧感を放つこの爺。そんなに圧をかける必要があるのか疑問だし、そのせいでノエラもかなりやり辛そうにしている。それでも彼女は何とか疑問を口にした。
「あ、あなたのような方がいらっしゃるならキリンロボは脅威にならないはずですよね。どんな事情があって仕事の依頼を出したのですか?」
「儂しか村を守れるものがおらぬのに、キリンロボの群れは統率を取って村の作物を食い荒らしておるのだ。しかも木に体当たりをしてマガマニの実を持ち去ったという話もある。いくらなんでも一人で守れる範囲にも限界があるのでな」
「そうでしたか」
「儂も他のフォースに頼るなど癪だが、村のために仕方なくだ」
わざわざ言わなくてもいいことを言って俺たちの士気を下げてくる爺。しかしこれは聞いておかなければ。
「俺からもいいかな。統率を取るって具体的にどういうことだ?」
「必ず群れでやってきて、四方八方から作物を奪っていくのだ。儂が追いかけようとすればすぐに撤退し、山の奥まで誘導しようともしてくる」
「そりゃ賢いな。今までの被害はどのくらいになる?」
「全体の三分の一は持っていかれておるだろう。苦労して他の魔物を狩るよりも効率が良いと気付いたのかもしれん」
「なるほど、よくわかったよ」
これはまあ月の影響で間違いないだろうな。こうして依頼を出してきて癪だとか言っているあたり、今まではこういう賢い行動を取ってこなかったのだろうし。
「十匹以上と仰いましたが、どう証明すればいいですか?」
「ふむ。首を持ってこられても迷惑なだけだな。たてがみを持ってこい。それで十匹以上と確認できれば持って帰って売り払っても構わん」
「作物を守りつつ、討伐すればいいか?」
「討伐にだけ集中して良い。儂が作物を守る」
「了解。まずは昼食を取らせてもらってもいいかな。その後すぐに狩りに行くよ」
「好きにしろ」
話が纏まると爺は席を立ちどこかにいってしまった。そういえば依頼人の名前を聞いていないと思ったが、ノエラがこっそり教えてくれた。あの爺はエゴン・バシュというらしい。依頼書に書いてあったそうだ。
俺たちは何故か家の中で置き去りにされたが心置きなく【闇の領域】を使い、昨日用意した食事をとり出した。食べやすいように団子にしたようなマガマニと器に入れたおかずだ。二人でそれを食べてから、村の外に向かった。