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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
自然の瓦解
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大雨の中 ☆ノエラ視点

 大雨で濡れてしまわないように、私はすかさず水の精霊にお願いして雨を弾いてもらい、二人で街の北側、山から流れてくる川を取り込む地点を目指した。雨のせいで視界は良くないけど、水の精霊のおかげで少しは見える。


 街の石の床に雨が反射して跳ねる。それも精霊たちが対処してくれるから、私たちは全く濡れることなく水路の始まりの場所に辿り着いた。


 そこには案の定、誰か街の人が集まっていて、びしょ濡れになりながらも何か作業をしていた。私たちはそのうちの体格の大きい男の人に声をかける。


「あの、何かお手伝いできませんか?」


「俺たちはフォースだ。もしかしたら力で何とかできるかもしれない」


「おお! いいところに来てくれた! 川からの水が増してて、このまま街に流れるといろいろとマズいんだ。どうにかして水の流れを弱められれば安全に水をはけさせられるんだが……」


「わかりました。私が何とかしてみます」


 きちんとできる自信はなかったけど、きっと何もしないよりはいいはずと思って、私はそう発言した。こういう状況なら、水の精霊に呼びかければ対処できるはず。そこまで頭を巡らせて、私は渾身の霊力を使って、強く精霊に呼びかけた。


『お願い。水が街を壊さないように、流れを緩やかにして外まで運んで』


 私がそう呼びかけると、水の精霊たちが一斉に働き始める。作業していた人たちも水の流れの変化に気付いたのか、作業を止めてこちらの様子を伺っていた。精霊による自然の操作の力は絶大で、私の願いどおり、流れを緩やかにしたまま、沢山の水を街の南側の排水路まで運んでくれている。


 多すぎる水は水路から宙に浮いて、そのまま運ばれていく。ここまでは上手くいっていた。だけど強力な自然操作だ。私の霊力では長くは持たず、徐々に操作がおぼつかなくなる。


 ここにいる街の人たちが心配そうに眺める中、私のピンチにいち早く気付いたサムさんは、ランタンに火を灯してから右手で私の手を握った。突然のことで驚く私に、繋いだ左手から何かが流れてくるのがわかる。


 それは止めどなく流れてくる、力強くて暖かい力。サムさんの神力が奇跡によって、精霊力となり私を支えてくれた。そのおかげですぐに力不足になってしまった私の精霊魔法はたちまち息を吹き返す。


 まるで不死鳥のように、弱まった水の精霊たちの力が一気に活力を取り戻す。いくら力を使っても、サムさんから流れてくる神力は全く衰える気配がない。


 ここは私たちに任せられると判断したらしい街の人は、天候を操作できるという一流の魔術師の人を呼ぶと言って、手配しに行ってくれた。それから長いこと、私とサムさんは手を繋いで水の氾濫を抑えていた。


 そうすると急に雨の勢いが弱まって、土砂降りだった雨が小雨へと変わっていった。それからしばらくして、川からの水の流れが落ち着くと、ようやく精霊による水の流れの操作が必要なくなった。私は精霊たちにお礼を言って、私の霊力から解放してあげる。


 解放してあげた精霊たちは楽しそうに水の中に消えていき、水路の水は穏やかな流れを維持したまま、街の外へと流れていった。サムさんは雨が弱くなって心配なくなったことを確認すると、ランタンを腰の位置に戻して、繋いでいた右手をそっと離した。


「凄かったなノエラ! 街の安全を守ったんだぞ!」


「それはサムさんが力を分け与えてくれたからで……」


「でも精霊たちに頼んでくれたのはノエラじゃないか。ありがとうな」


「わ、私こそ。協力してくださってありがとうございました」


「水臭いなあ。俺はノエラと手を繋げて嬉しかったぞ」


「……」


 サムさんは私をからかうようにそんなことを言って、ニッと笑った。私はまた、彼に助けられてしまった。この人には何処までいっても敵わないな。だけど……彼の言ってくれた通り、私は少しでも誰かの役に立てたのかもしれない。


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