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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
自然の瓦解
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打破の一撃

 頂上を目指してまた高台の内側の空洞に入る。こういう構造がまだ続きそうだが、元の世界にはなかった地形だから面白い。途中で細い通路になってヒヤっとしたり、上から土が降ってきて危うく埋まりそうになったり。アクシデントもいくつかあったが、ノエラの精霊魔法と奇跡のおかげで難を逃れている。


 そうして数回外観と内側の空洞を行き来し、意外と早く頂上に着いた。頂上には奥の方に地面がえぐれたような窪みがあり、そこに結構な大きさの池ができている。その池の水を囲むようにしてトドの見た目の魔物がたくさんいて、仲良く水を飲んでいた。確か名前はカラガオンで、その数は……六匹。いや、十匹だ! 


 どこに隠れていたのか知らないが、なんと後ろからもカラガオンたちがやってきて、生意気にも俺とノエラの退路を塞いできた。前方のカラガオンも俺たちのことに気付いたのか、大量の魔物たちは跳ねるようにして移動し、俺とノエラを威圧するように陣形を組んできた。


 このカラガオンは食肉として重宝されるだけあって体が大きく、タックルされるとかなり危険だといつだったか紋章が教えてくれた気がする。それはそうと、このカラガオン……。


「こいつらも森に棲む魔物じゃなかったっけ?」


「えっ。そ、そうですが今はそんなことを言っている場合じゃ……」


 十匹という数の暴力で、カラガオンの群れは威嚇を繰り返し、今にも一斉に襲いかかってきそうな予感だ。ノエラもさすがに恐ろしいのか、カラガオンの群れの中心で俺の司祭衣を掴んでいる。


「さ、サム様。一体一体は弱くともこの数はさすがに危険なのでは? いかがいたしますか?」


「もちろん倒すさ。俺にはとっておきがあるからな!」


 そう言いつつ、俺は腰元の邪光ランタンを外して掲げる。大丈夫。結構ヤバい状況ではあるけど、あの奇跡ならこの状況を打破できるはず。俺はマサマンディオスのことを信じて、神力を目一杯ランタンに注ぎ込み奇跡を行使した。いけっ、俺のとっておき!


邪悪なる闇光(ホーリーライト)


 俺の放った奇跡は一瞬にして俺たちの視界全部を闇に染めて呑みこむ。闇の咆哮。まさにそんな感じの重低音が高台全域に響き渡り、すぐに辺り一帯は光を取り戻す。


 たった一瞬の出来事だったが、俺の奇跡は周りの魔物たちすべての息の根を止めて、体表を真っ黒の闇で覆っていた。命を奪った後も闇はジリジリと魔物から光を奪い去ろうと侵食している。


「す、すごい! あんなに沢山いた魔物の群れを、一つの奇跡で……!」


 ノエラは脅威が去った安堵感と状況を打破した俺の奇跡への称賛で興奮しきっている。ふっふっふ。凄いだろう。俺はこの奇跡が一番好きなんだよな。広範囲高威力で便利だし、何より名前のギャップがピカイチに酷い。


「【邪悪なる闇光(ホーリーライト)】は本来、力が広範囲に分散するので大きな威力が確保できないのですが……サム様が使うとそんなことは関係ないようですね……」


“我が大司教であるぞ。当然だ”


「マサマンディオス様も私と同じく、サム様のことが誇らしいのですね!」


“……”


 何も言わないあたり、マサマンディオスは照れているようだ。というか久々にマサマンディオスの低音ボイスを聞いたな。ノエラもちょっと驚いてる。


「やっぱりこの奇跡が一番だな! それはそうと、なんで森に棲んでいるはずのカラガオンがこんなところに大量にいるんだよ。さすがに逸れたってことじゃなさそうだぞ」


「やっぱり、私の知識不足じゃなかったんですね。一匹だけならまだしも、通常ならこれはあり得ないと思います」


「マサマンディオス様、これは一体どうなっているのでしょうか。月の暴走と何か関係があるのでしょうか?」


“関係あるであろうな。他の魔物が強力になり、比較的弱い魔物が森から弾き出されているのかもしれぬ”


「うわ、それマズイな。月の力でもっと魔物たちが強力になれば、食用肉になるような弱い魔物だけじゃなくて、人間にとっては倒しにくい強い魔物が出てくるかもしれないってことだろ?」


「生態系も崩れるでしょうし、他にもどんな影響があるかわかりませんね。私たちが予想していたよりもさらに深刻な事態になっているようです」


“だが人間たちもそこまでやわではない。今すぐに危険な状況になるわけではあるまい。落ち着いて我が名を広めよ”


「そうだな。焦ってもやることは変わらないだろうし、休憩を挟んでからこいつらを食肉として街に持っていこう。きっと満足してもらえるよ」


「はい。これだけあれば、最初の仕事の働きとしては十分だと思います!」


 俺は【黒き排除ブラックエリミネイション】と【闇の領域(ブラックホール)】で解体と収納をしてから、休憩がてらに高台からの景色を眺めた。

 

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