自然の丘
今の時刻はお昼には少し早いくらいだとは思われるが、高台に入る前に昼食は済ませておきたいということで食事の時間になった。雑貨屋で購入した薪をくべて、松明の炎を火種に調理用の火を準備する。
それから新しいフライパンを取り出してノエラに渡し、余っていたアルマスオソの肉とバボイラモの肉を豪快に焼いてもらう。付け合せの野菜は人参に近い野菜のディラウのサラダだ。こっちの世界では柔らかいので、少し火を通せば食べやすい。
できた昼食を皿に盛って、焼いた肉を堪能する。新鮮な肉をすぐに調理しているも同然なので食感が桁違い。溶けるような舌触りを味わったらもう忘れられそうもないくらいだ。
脂身はなかなかのものだったが、ノエラの工夫で余計な脂は落とされているため、胸やけはしなかった。ノエラにかかればこういう工夫もお手のもののようだ。
豪勢かつワイルドな食事を終えたら、高台の捜索を開始だ。特に目的があるわけでもないので、食用肉の魔物がいたらラッキー程度で足を踏み入れる。滝の反対側のぽっかりと口を開けた空洞から中に入った。
高台とはいうものの、内部が空洞になっていて、螺旋階段のように自然にできた丘を登っていけるような地形になっている。入り口から既に風の流れを感じ、他にも空洞があるのかと探すと、上の方に一か所、壁際に穴が空いている。そこに続く土の台もあるので、楽しみながら登ってみることにした。
スロープ状になっているところもあれば、離れ小島のように少し遠くに足場があったりもする。危険ながらも意外とこういう地形を登るのはアスレチックのようで楽しかった。ノエラも思いの外楽しめている様子で、悪くない感じだ。
十五分くらいもすれば最初に見えた上方の穴に辿り着き、そこから一旦高台の外観部分に出る。景色が少し高くなっているのを見て、俺は嬉しくなる。きっと頂上付近にいったらもっといい景色なんだろうと、ノエラを引き連れて進もうとすると、牛型の魔物のバカが草を食んでいるの見つけた。
こいつは見た目によらず雑食のようで、草から人間を見つけた途端に大興奮の様子で突進の構えを取った。何故かでかい牙をこしらえているので、結構な威圧感がある。しかも俺たちがいるのは高台の外観部分で、そこから落とされると結構な高さから地面に落下するハメになってしまう。
そうなってはかなり危険なため、俺はすぐに勝負を決めにかかった。腰に付けたままの邪光ランタンから、あの懐かしい奇跡を行使する。
【邪悪なる闇線】
どす黒い紫の闇は相変わらずだが、それが幾重にも重なって続けざまに魔物に襲いかかる。一撃一撃があのときよりもさらに強くなっており、バカは悲鳴のような断末魔を上げながら闇に呑まれ、そして倒れた。
目覚めてから最初に使った奇跡がこの【邪悪なる闇線】だったが、そのときよりも明らかに強くなっている。一本一本の黒い闇の攻撃だったのが、その一本がお互いに覆いかぶさるように絡み、より大きくなった闇が放たれるようになっている。
魔物を一撃で倒せているので威力の方はわかりにくいが、少なくとも倍以上はありそうな見た目はしていた。俺のことを知っている人が増えていくにつれて、奇跡が強力になっているのが今回のことでハッキリとわかった。奇跡が強くなるのは喜ばしいことだな。
「サムさんの奇跡は何度見ても計り知れない強さですね! その、見惚れてしまいそうなくらいです」
「お、おう。闇の奇跡だけどな」
「だからこそ、こんなに強いのかもしれませんね」
「そうかもな」
転落の危機を回避して安堵したところで、バカの肉を【闇の領域】に仕舞い込む。これで食肉は二匹目だ。まだまだ狩っていこう。