初の依頼
ちなみにセレーヌの紹介ということで、いきなり高い階級のメダルを手渡されそうになったが、俺は丁重に断っている。高い階級のメダルがあれば、より難易度が高く、報酬や統治塔への貢献度も多くもらえるそうだが、俺は自分の実力で一から実績を積んでいきたい。
俺の目的は名前を広めることだが、その過程でいきなり便宜を図ってもらったなんていう話が広まるのは嫌なのだ。ほんの小さな禍根を残すよりは、地道でも正規の方法で勝負するほうがずっといい。でも悠長にやっている暇はないので、全力で仕事には当たろうと思う。
せっかく統治塔に来たので、俺はセレーヌを見送ってから仕事の一覧を覗いてみた。一階の掲示板に張り出された依頼は難易度の低いものが集められている。
実力がついてくると、上の階へと進んで行き、いずれかの四力ごとに適した仕事が割り振られていくそうだ。ざっと掲示板を見渡すとあるのは、薬草採集や配達依頼、弱い魔物の素材回収など、確かに四力持ちなら誰でもできそうなものばかりだ。
「ノエラはどの仕事をやってみたい?」
「そうですね……調理器具を買っておきたい気持ちがあるので、かかる時間が短い仕事がいいと思います」
「そうなってくると……これなんか良さそうじゃないか?」
俺が指さしたのは魔物の食肉の調達だった。これなら外を出歩けばある程度簡単に集められるから時間もかからないだろうし、俺の奇跡との相性も良い。
そう思って提案すると、ノエラもそれに乗ってくれてこの仕事を請け負うことに決まった。受付に張り紙を持っていくと、メダルが発光するかを確認されて、無事に仕事の内容を細かく話してもらえる。
バカ、カラガオン、イボンの主要食肉三種類の内どれでもいいので一定量持ってくれば良いそうだ。どの肉でも三匹以上、より多く持ってくればそれだけ喜ばれるとのことだった。
食肉は指定の場所に運び込めば問題はなし。ただし食肉の鮮度については採取してから二時間以内と条件は割と厳しい。四力で工夫しないと、普通に持ってくるのは難しいだろうと念を押された。
俺たちは特に問題ないことを確認して正式に依頼を受ける旨を伝えた。署名等の手続きを済ませて、早速俺たちの初仕事が始まった。まずは食料を調達する場所に挨拶に行く。
その場所は街の食料庫のようで、一流の精霊使いの人が冷凍状態を維持する魔法をかけているようだ。城の近くにその食料庫はあり、簡素な石造りの建物だが、中からは冷気が漏れている。
その倉庫の番をしている赤髪のショートヘアの女性に仕事を引き受けたと伝える。するとその女性は感謝してくれて、俺たちのことを歓迎してくれているようだった。
「食料調達の仕事を引き受けてくれたんだね。ありがとう。魔物の肉はフォースしか取ることはできないから、年中ずっと貴重なんだ」
細身の剣を携帯しているその人は朗らかに笑う。この人も恐らくフォースで、気力を使う人なのだろう。
「そうなんだな。たんまり持ってくるつもりだから期待しててくれ。期限は明日までだったな?」
「うん。一応一区切りとして、食肉調達の依頼はその日と翌日までってことになってるよ。この仕事はずっと募集されてるから、良ければ定期的に受けてもらえるとうれしいな」
「余裕があればそうするよ」
「そうですね。食料がないと街の人たちが困ってしまいますから」
「いい返事が聞けて良かった。できるだけたくさん持ってきてね」
そうやって挨拶はしたが、俺たちは先に調理器具を買うことにする。たんまり持ってくるなんて挨拶をした手前ちょっと罪悪感があったが、今日のお昼にはノエラの手料理を食べたかったのだから仕方がない。
住民街の雑貨屋に寄って、調理用鍋を二つと器数点、フライパンらしきものとノエラが買ってほしいと頼んできた物をいくつか買って買い物を終える。合計金額ギトナ金貨四枚とサイラリム金貨五枚、さらにパタス銀貨三枚の四万五千三百円だ。
微妙に元の世界と物価が違うが、手に入る素材等も違うしこういったものを作るのにも職人さん頼りなのでむしろ安い方だろう。
そうして調理器具の購入を終えて、さらに市場で野菜と調味料を物色する。調味料は小さなものを、野菜はとりあえず今日の昼食分だけを買って、後はその時々で臨機応変に買うことにした。
ノエラは精霊に聞くことで、植物が食用かそうでないかを教えてもらえるということだったので、それも少し期待している。そうして俺たちはすべて準備を終えると、いよいよ門の外に出る。
一日以上は街の中に籠っていたので、外の景色が久しぶりに感じる。この街で使う水が流れてくるニェベ山と森の方向にもう一度向かうのもいいが、今回は行ったことのない反対方向に進んでみることにした。
といっても時間に間に合わずに仕事が失敗になったら困るので、あまり遠出はしないことにする。
そっちの方向は割と長く続く草原、それから少し遠くの方に層状になった高台のような場所が見える。高台の規模はそれなりに大きめで、登ってみるのもそれなりに楽しそうだ。




