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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
活動の地
44/117

紹介

 俺とノエラはゼブルさんを何とかして立ち上がらせて、もういいからと彼のことを支えてやった。治療費のための金貨をあるだけ俺たちに渡そうともしたが、俺はそれを意地でも断った。


 怪しまれないように有料にしていただけで、本当は金なんて取るつもりなどなかったのだ。そして怪しまれる心配がなくなった今、一銭たりとももらう必要はない。


 別に聖人ぶるつもりなんて毛頭ないが、その金で元気になったキーラに何か買ってやってほしいというのが紛れもない本音なのだ。その行いに俺の背後を飛んでいるアンヘルも満足そうにしている気がするな。


 暗くなってしまうからとそそくさと俺らはその場を後にし、ずっと頭を下げているゼブルさんに遠慮しながら宿に戻った。宿に着いてからも何となく落ち着かず、食事を取っているときも上の空。疲れたなとノエラに声をかけると、そうですねとだけ返ってくる。


 もう何もする気が起きなかった俺たちは、早くも自室に戻って休むことにした。今日だけで本当に色々あった。


 午前中は店を巡って素材を売り、午後からは買い物と、そして自己弁明やらゼブルさんの謝罪やらでもう一杯一杯だ。途中の街の人たちの視線も大きく変化し続けていたし、とにかく疲れ倒した。


 おまけに治療で結構な量の神力を一度に消費したので、その反動が今頃きている。やはり治療は他の奇跡に比べて神力を消耗するな。でも、有意義な一日ではあったかもしれない。


 邪神の神官だと結構な人数にバレたときはどうなることかと思ったが、意外といい形で収まったかもしれない。街の人たちも多分ゼブルさんのことも含めて噂しているだろうし、ただただ痛い視線だけをもらうってことはなさそうだ。


 ノエラに申し訳が立たないと思っていたけど、なんとかなりそうで一安心だな……。


 そんなことを考えながらベッドに横になっていると、すぐに睡魔がやってくる。部屋に戻って身体を洗っておいてよかった。明日は新しい服を着て、ノエラと調理器具を買いに行こう。そう思ってゆっくりと、俺は眠りについた。


 ――そして翌日。朝食を取って外に出ようとすると宿のおじさん、バロンに止められる。どうやら来客があるようだ。


 ノエラと一緒に宿屋の談話スペースのようなところに行くと、そこにはセレーヌの姿があった。俺はノエラとはまた違った綺麗な女性の来訪に戸惑いつつ、用件を聞くことにする。


「セレーヌ、こんなところまでどうしたんだ?」


「何か、あったんですか?」


「いえ、今日はご相談したいことがあって参りました。昨日、マサマンディオス様の名前を“善い“意味で広めることが目的だと仰っていましたよね?」


「ああ、そうだ」


「この街にはフォースの方々を取りまとめる四力統治塔という機関があるのをご存知でしょうか? よろしければわたくしがあなたを実力者として紹介しようかと思うのですが如何ですか?」


「え、それはありがたいが、どうしてそんなことをしてくれるんだ?」


 純粋に疑問に思ったのでストレートに聞いてみる。そうしたら実直な答えが返ってきた。


「正直に言って、あなたのことを完全に信じたわけではありません。ですが、何か嫌な予感がするのです。月が明るくなっているのも、魔物が強くなっているのも、何の理由もなしに起こっているはずがありません。もしあなたの言っていたことが本当ならば、すぐにでも動かないときっと大変なことになります」


「信じ切れていないが万が一のことを考えて、ということか」


「はい、失礼ながらその通りです。本当は月とカロヌガン様のことについての調査結果を待ってからにする方が、慎重を期すには良いのかもしれませんが、そんなことを言ってもいられませんから」


「そういうことだったか。邪神の神官という立場上、セレーヌのようなしっかりとした身元の人間に紹介してもらえるのは俺としては助かるからお願いしたいな。ノエラもそれで構わないか?」


「構いません。きっとその方が良い方向に向かうと思います。それで私のことも紹介してもらうんでしょうか?」


「そうするつもりでしたが、不都合がおありでしょうか?」


「い、いえ。私のこともよろしくお願いします」


「決まりだな。俺からもよろしく頼むよ」


「わかりました。わたくしはこれから統治塔に向かっても構いませんが、サムさんとノエラさんはどうですか?」


「ノエラ、どうしよっか?」


「ええっと……今から行きませんか? 買い物はまた今度でも大丈夫ですから」


「そうだな。今から行かせてもらうよ。セレーヌも貴重な時間を俺たちのために使ってくれてありがとうな」


「いいえ。これは必要なことですから。では参りましょうか」


 俺たちは宿を出て、噴水のある街の入り口中央から、遠くにずっと伸びる道を行って進んだ。最初に街に入ったときに見えた塔にこれから向かうと思うと、俺は何となく胸が高鳴る。城の前にある大きな塔なんて憧れしかないからな。


 そうしてセレーヌに連れられながら、塔での手順を説明されつつ目的地に辿り着くと、真下から見るあまりの塔の高さに度肝を抜かれた。


 とにかく凄い。見上げても天辺が見えない圧倒的な高さに、四つの色とりどりの大きな垂れ幕が風にあおられてたなびいている。


 紫、青、白、赤の垂れ幕はそれぞれ魔力、霊力、神力、気力を表しているようで、それに応じた絵も描かれている。魔力は魔法陣、霊力は樹木と炎、神力は十字架、そして気力は剣と盾だ。


 俺たちはセレーヌと一緒に、そんな圧倒的存在感の四力統治塔の中に入っていった。

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