完璧サービス
そんなことを考えながら来た道を戻り、雑貨屋に戻って来た。移動時間も含めて、そろそろ査定が終わっている頃だろうから、先ほどと同じように雑貨屋の中に入る。そうするとさっきの緑のドレスの店員が待ち構えていたかのようにこちらを見た。
朝よりも少し遅い時間になってきたからか、客の数が増えていて他の店員は忙しそうにしている。それにも拘らずお姉さんは俺のことを待っていたようだ。
こうなってくるとあんまり長居しない方がよさそうだな。さっさと用件を済ませよう。
「お待ちしておりました。査定は終わっておりますので、金額の確認をお願い致します」
「わかった」
俺たちがカウンターの前に着くと、彼女は落ち着いた雰囲気を装いながらも興奮気味で、買い取り金額とその値段の理由を素材ごとに説明してくれる。
「まずは魔双樹の木片ですが、流通量が激減している上に、お持ちいただいたものは採取時の傷が一切付いておりませんでしたので、最高取引価格のパタス金貨三枚と、ギトナ金貨五枚での取引となります」
「そうか。最高取引価格とは助かるな」
「恐縮でございます。では続きまして、アルマスオソの毛皮ですが、こちらも血液のシミや毛の擦り切れなどもございませんでしたので、こちらも同様に最高取引価格のパタス金貨六枚での取引となります」
「こっちも随分高額だな。それだけ需要があるのか?」
「はい。繊細な手触りと高い水準の保温性が人気なのですが、アルマスオソは森の奥深くにしか存在が確認できず、また最近はなぜか森の奥深くに立ち入ることが難しくなっているため高額となっております」
ん? 森の奥深くに立ち入ることが難しい? ……ああ、ババアの仕業だわこれ。
いつだったか、魔物が強くなってるからと単純に入られたくないからって精霊魔法で立ち入り制限してるって言ってたけども。まさかこんな弊害があったとはな。
でも不用意に立ち入って強い魔物に殺される人が増えたら困るし、それでノエラの追手が防げているのも事実だ。こればっかりはどうにもできないな。
「最後になりますが、こちらのアルマスオソの角は装飾用としての価値がございますので、少々控えめではありますが、ギトナ金貨八枚での取引とさせていただきます」
「わかったよ。あ、昆虫の魔物の甲殻はどうなった?」
「ブブヨグランガムの甲殻ですね。こちらは当店での買い取りは難しいと判断致しましたので、防具屋『スティル防具店』の方にお話を通させていただきました。そちらでの買い取りをご希望でしたら直接防具屋にお持ちいただければ、すぐにでも買い取りの流れになるかと思いますがどうされますか?」
「わざわざ他の店に確認をとってくれたのか!? それは手間を取らせたな。助かるよ。それじゃあその防具屋に持っていくことにする」
「かしこまりました。では合計でパタス金貨十枚とギトナ金貨三枚となります。最後にこちらにサインを頂けますでしょうか」
差し出された紙は取引記録をつけるための用紙のようで、今回の取引についての詳細と相手方の証明印のようなものが押されている。安くない金額の取引だし、こういうのはあった方が安心だな。
「ありがとうございます。では買い取りをさせていただいた分の金貨となります。お確かめくださいませ」
よし。ここでもかなり儲けて合計百三万円だ。魔物退治自体が儲かるのかと思ったが、ババアの精霊魔法の影響で流通量が減ったのと、月の暴走で強力な魔物が出るようになったからっていう事情があるみたいだ。森の奥で狩りができたのはありがたいことだったんだな。
まさかババアもそれを見越して狩りをさせてたのだとしたら……。いや、少なくとも魔物の数を減らしてほしいってのは本音だったろうし、わからない。金銭的に助かってるからどっちでもいいけどな。
「良い取引ができてよかったよ。ありがとうな」
「いえ、こちらこそ。有意義な取引をさせていただきありがとうございました」
このお姉さんも最初の頃だけ怖い印象だったけど、単純に商売人だから半端なものを持ってくる人間なのかどうかを観察していただけなのかもしれない。ものを扱う手も丁寧だったし、何より完璧なサービスだった。
雑貨店は裕福な人たちが日用品を買いに来ることもあって対応が丁寧じゃないとやっていけないんだろうな。
俺みたいに敬語を使わない相手にも遜色なく対応してくれたし尊敬できる人だ。素材をまた売りに来る可能性を考えて、また来たらよろしくなと言っておき、俺とノエラは売れなかった甲殻を持って雑貨店を後にした。




