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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
神官の矜持
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慈善の心

 俺たちはそんな約束をしたところで一旦解散し、それから夕食のために一階の食事処に下りた。渋いおじさんの前を通りつつ、食事処の方に向かうと席は既に用意してあり、俺たちの姿を見た宿の給仕さんたちがすぐさま食事の用意をしてくれる。


 主食の木の実であるマガマニはもちろんのこと、鮮やかな黄色の野菜のディラウを始めとした様々な野菜の炒めや、牛に近い生き物のバカ肉のステーキなどが出てくる。初めて見るものもあるため、どことなく心躍る夕食だ。


 一口食べた野菜炒めは味付けも丁度良く、適度に酸味があるような感じだな。どうやって酸味を出しているのか気になったが、ノエラ曰く穀物の酢が使われているとのことだ。


 ステーキは独特の風味があって脂身もジューシー。パマロで取ると肉汁が溢れてきて新鮮な肉を使っているのが分かる。こちらの味付けはシンプルなものだったが、それが肉の良さを引き立てているように思った。


 ノエラの料理のようにスパイスはあまり使われていなかったが、これはこれで美味しい夕食だった。


 大満足のまま食事を終えて、ノエラと二人で自室に戻ろうとしていたとき、食事のときに隣の席だった家族の子供が苦しそうにしているのが目に入った。さっきはこの宿には珍しい一般の家庭での宿泊客くらいの印象でしかなかったが、こうなってくるとかなり気になる。


 恐らく持病か何かだと思われるが、少女は突如として苦しみだし、肩で息をしている。先ほどまでは何ともなかったことを考えると発作が起きたのだろう。両親も特に慌てている感じではないが、目を細めて我が子の苦しそうな姿を辛そうに眺めている。


 助けたい。だが……俺は邪神の神官だ。奇跡も邪悪仕様だから他人にはあまり見せられない。ある程度、邪神でも善良な神もいるという噂が広まれば何とかなるかもしれないが、何もない状態で奇跡を見せたらきっと疎まれるだけだろう。


 発作ならば短期間で治まるはずだし、見てみぬフリもできなくはない。ただ――。


「なあ、ちょっといいか?」


 俺には見て見ぬフリなんてできなかった。邪神がなんだって言うんだ。助けられるかもしれないのに助けないなんてありえないだろうが!


 半ば反射的に俺が声をかけると、両親と子供の三人がパッと俺の方を見る。思わず怯みそうになるが、堪えて渾身の笑顔を作る。そして後から来たノエラもそれに合わせて、俺の後ろでお辞儀をしてくれた。


「俺は神官なんだ。もしかしたらその子を治せるかもしれないから診させてほしいんだが、駄目かな?」


 俺がそう言うと、子供の両親は目を見開いた。それからなかなか返事が返って来なくて何か間違ったかと焦ったが、父親らしき男が急に迫るようにして頼ってきた。


「それは本当ですか!? もし治していただけるのならこれほど嬉しいことはない! ですが満足に治療費は払えないかもしれません……。ずっとこの子の治療をできる神官様や精霊使いの方を探してきましたが、もうずっと街を転々としてきたせいで金銭的に苦しくなってきているのです」


 途中から少女に聞こえないように小声でそう伝えてくる。これは何とも気の毒だな。


「そうか。どんな病気でどのくらいの症状なのかにもよるし、俺には治せないかもしれないが……もし治せたとしてもそんなに高額を請求するつもりはないぞ。難しい病気のようだし、診断は無償でやるからその後に提示された金額で治療を受けるかどうかを決めてくれ」


「なんとお優しいことでしょう。神官様、どうかよろしくお願いします」


 父親は救われたような表情で頭を下げ、母親も泣き出しそうな勢いでそれに続いた。


 ここまでは上出来だ。あとはどうするかだが……。得意の誤魔化しでそれっぽいことを言っとくか!


「申し訳ないが、集中したいからこの子と俺と助手の三人だけにさせてもらいたいんだが構わないかな? 多分心配だとは思うけど――」


「もちろん構いません。神官様の思うようになさってください」


「助かるよ。じゃあ行こうか。君の名前はなんて言うの?」


 俺は少女に話しかける。少女は咳を堪えるように胸を押さえていたが、何とか声を出してくれる。年の頃はおそらく六~八歳くらいだが、苦しい中で俺に答えようとしてくれるあたりは根性がありそうだ。


「私は、キーラ」


「キーラね。今からどんな病気なのかと俺に治せるかどうかを調べるからね」


「ん」


 かなり苦しそうだな。早く何とかしてあげよう。


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