魔物との邂逅
そうやって紋章に一通りできそうなことを聞いて待っていたら、洞窟の奥の光に影が映った。そしてズルズルと尻尾を引きずって、蛇のような魔物が一匹出てくる。
でもそいつは蛇というよりも大蛇と言った方がふさわしく、俺の身長の倍くらいの大きさがある。いやいや、意味わからん。
「最初に出会う魔物ってもっと弱そうなヤツじゃないのか!? でかい蛇とか聞いてないから!」
「そ、そうですね。よりにもよってこんなところにカマタイェンスネークとは……」
「変な名前だな」
“冗談を言っている場合ではない! アンヘルよ! とにかくサムを守れ! こんな強力な魔物を相手に今のサムが勝てるわけがあるまい!”
「ですが主様、良いのですか? 私は剣のままでいた方が良いのでは……」
“そうであったな……”
なんか蛇も馬鹿でかい舌を出して威嚇してきてるけど、俺を餌だとでも思ってるのか? 冗談じゃない。このまま喰われてたまるか。
ええと、奇跡を使うには祭器と呼ばれる道具が必要だって話だったな。どれ、左手にそこのランタンを……。おっと。手に取った途端に紫の炎が点いたな。意外と高性能だ。
“サムよ、何をしておる。汝はさっさと逃げよ”
「そうは言っても出口は塞がれてるんだよ」
そうなのだ。俺が寝ていたのは多分洞窟の最奥かつ行き止まりであって、そこに魔物がやってくれば当然逃げ道はないのである。そして戦力外認定されているのがちょっと腹立たしいので、俺は一発神力とやらを試してみてから逃げるとしよう。
もう一度紋章から力の使い方を聞いてっと。よし。呼吸を整えて、意識をランタンの炎、つまり体内の神力に向けてそれを言葉に乗せて放出する!
【邪悪なる闇線】
何らかの力が持って行かれた感覚に襲われた途端に、ランタンから放出されたどす黒い感じの紫の闇が大蛇に一斉に襲いかかり、巨大な体を丸々包み込んでしまった。
暴れ狂う大蛇は苦しそうに悶えているが、すぐに息絶えたように動かなくなって、ありえないほどの巨体が思いの外あっさりとどーんと倒れた。
いや。まあ倒せたのはいいんだけどさ……なんだよこの奇跡。名前はホーリーレイだったよな? 俺には大蛇が闇に呑まれたようにしか見えなかったんだけど?
“な、なんと!”
「サム様!? 一体その力は!?」
「うん? どうかした? 思ったより弱かったなこの蛇」
“い、いや。そんなはずはない。汝の神力はどうなっておるのだ”
「え? 別に大したことないでしょ。初めてやったし。そんなことよりもなんだよこの奇跡! どう見ても呪いか何かだろ!」
“……”
「主様、そもそも大司教となられるお方に隠しても仕方がないでしょう? サム様にはお話になられては?」
「おい、何を隠してるって?」
俺がそう問い詰めると、マサマンディオスは少し黙った後、観念したように衝撃の事実を告げた。
“……我は……我は邪神なのだ”
「…………は?」
“だ、だから我は――”
「聞こえてるって! おいおいまじかよ……。まさか世界征服の手伝いをさせられるとか、そういうことなのか?」
「まさか! 主様がそのようなことをなされるはずがありません!」
「でも邪神なんでしょ?」
“……”
「サム様、これには深い深い事情があるのです。それだけの神力をお持ちならば、紋章にマサマンディオス様のことをお聞きになればわかるはずです」
「ったく。転移早々ツイてないな」
俺は愚痴をこぼしながら紋章にマサマンディオスのことを聞いた。するとスッとランタンと剣が手から滑り落ちる感覚があって、急速に意識が薄れていった。