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邪神に仕える大司教、善行を繰り返す  作者: 逸れの二時
神官の矜持
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決死の告白

 おっとそうじゃなかった。あまりにノエラが微笑ましいから早くも目的を忘れるところだった。


「ノエラ、話しておきたいことがあるんだがいいかな?」


「はい」


 俺の部屋で話そうかと思ったが、ノエラは意外にも普通に部屋に入れてくれた。彼女はベッドの端に、俺はその辺にあったテーブル用の椅子に座り、思い切って話を切り出した。


「何度か奇跡を見せているからわかってると思うけど、俺は神官だ」


「はい」


「だが仕えているのは一般的な光の神じゃない」


「……はい」


「シビルに言ったときに聞いていると思うが、俺の仕えている神というのはマサマンディオスっていう……邪神なんだ」


「……はい。光の神様ではないってことは、何となくですが、わかっていました」


「そうだよな。隠しようもないよな。思いっきり闇の奇跡だし」


 俺はちょっと笑ってしまう。いかんいかん。割と真剣な話だから引き締めないと。


「これから一緒に旅をするなら、多分わかっていることでもきちんと伝えておいた方がいいと思ってな。それを聞いても俺と一緒に旅をしてくれるか?」


「もちろんです。サムさんは悪い人じゃないって、ちゃんとわかってますから……。話辛いことを話してくださってありがとうございます」


「お礼を言われることじゃないって。それでな、俺の根本的な目的はマサマンディオスの名前を“善い”神様として広めること。そうやってマサマンディオスの力が強まれば、月の力を弱めることもできる」


「確か月の光が強くなりすぎて魔物が強力になっているんですよね。シビルさんと精霊たちから聞きました」


「そうだ。だからまずは人々の役に立ってマサマンディオスが善い神だって認めてもらわなきゃならない。そしてそのためには少ない金額で魔物退治をしたり、怪我をした人の治療をしたりする必要があると思うんだ。無償でもできなくはないけど、邪神の神官だと怪しまれ過ぎるからあくまで有料でいこうと思う」


「わかりました。私もできる限り協力します」


「ありがとう。もっと具体的な話はまた今度近いうちにするよ。明日は色々と買い物をしたいからその後にね。そうだ、それともう一つ」


「はい。なんでしょう?」


「実は俺には相棒がいるんだ。見た目は怖いけどすごく優しいヤツなんだ」


「そ、そうなんですか」


「見てもらうのが手っ取り早いから見せるよ。俺のことを信じて、奇跡を受け入れてくれるか?」


「はい」


「よし、それじゃあいくぞ」


 俺はノエラにしっかりと確認をとってから奇跡を行使した。使った奇跡は【黒き邪餐(ホワイトサクラメント)】。対象に一定の期間神の加護を与えて、超常的な存在を見られるようにする奇跡だ。


 ノエラの手を取って邪光ランタンをかざして祈ったら、俺の神力が彼女に流れていくのと同時に、彼女がそれを受け取ったのを感じた。


 俺はそれを確認すると、そっと彼女の手を放して、自然と目を瞑っていたノエラに目を開けるように言った。彼女がゆっくりと目を開けて、そしてアンヘルの姿を見つけた後。きゃっと小さな悲鳴が聞こえた。


 それもそうだ。アンヘルは見た目が完全に悪魔。驚かないわけがない。だがアンヘルが丁寧な口調で自己紹介をすると、ノエラもちょっとずつ慣れてきた様子で、終わり際にはアンヘルのことをまじまじと見ていた。


「初めましてノエラ様。私はアンヘル=ニ=マサマンディオス、またの名を邪剣パルーサと申します。以後お見知りおきを」


「はい。よろしく、お願いします」


「サム様が紫の剣を扱っているのを見たことはおありでしょう? あれは私の別の姿なのです」


「あっ。そうだったんですか。なんだか驚きですね」


「そうだろうな。普段は気を遣って気配を消しつつ喋らないようにしてくれてるけど、見えない存在っていうのを忘れて人前で会話しちゃうと俺だけが変な目で見られるんだよ」


「ふふっ。それなら私も同じです。今も糸の精霊が私の膝の上にいるんですよ」


「そうなの!? というかソイツまだいたんだな。シビルの家でもいるって言ってたよな」


「はい。私のことを気に入ってくれたみたいで、付いて来てくれてたんです」


「そうだったのか」


「今はまだ難しいですけど、そのうちサムさんにも見せてあげたいです」


「是非見せてくれ。精霊たちがどんなやつらなのか見てみたいからな」


「はい。いつか必ず」

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